岸田首相はGX(グリーントランスフォーメーション)という何やら分かりにくい舞台を利用して、8月下旬に一気に原発の再稼働促進とリプレース/新設に舵を切りました。それは、岸田氏が総理首席秘書官に任命した嶋田隆氏(経産省元事務次官)の意向に沿ったもので、これまでの原発の規模を縮小していくという政策を否定するものです。
政府は何と原発を「脱炭素に向けた〝けん引役″」と位置づけたということです。よく知られているとおり原発こそは「海水暖め器」で、地球の温暖化を促進するだけでなく、海水温の上昇によって莫大なCO2を大気に放出するので、「脱炭素」を真っ向から阻害するものです。
近年の異常気象が海水温の上昇に起因しているという事実を背府はよく認識すべきです。
山陽新聞が「原発活用の指針 前のめりの議論が危うい」という社説を出しました。
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【社説】原発活用の指針 前のめりの議論が危うい
山陽新聞 2022年12月15日
経済産業省の総合資源エネルギー調査会原子力小委員会が、原発活用に向けた行動指針をまとめた。廃炉が決まった原発の次世代型原発への建て替えや、60年を超える運転延長などが柱である。政府は近く開くGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議へ報告した上で、年明け以降に関連法改正案を国会へ提出する方針だ。
2011年の東京電力福島第1原発事故を教訓に、政府は原発への依存度を「可能な限り低減する」との方針を掲げ、運転期間を「原則40年、最長60年」とするなど抑制的な原発政策を進めてきた。だが、今回まとまった行動指針は従来の政策を転換し、原発回帰に踏み込んだ。
安全や安心に深く関わる原発政策は国民的な議論が欠かせない。にもかかわらず、行動指針は岸田文雄首相が8月下旬、既存原発の運転期間延長などを検討することを表明して以降、わずか3カ月余りでまとめられた。原発活用に前のめりの姿勢に、強い懸念を抱かざるを得ない。
行動指針は、原発を脱炭素に向けた「けん引役」と規定した上で、従来は「想定しない」としてきた原発の建て替えについて、廃炉が決まった原発を対象に次世代型の開発・建設を進めることを打ち出した。運転期間の延長では、再稼働に向けた審査対応で停止した期間を計算から除外し、60年を超える運転ができる仕組みを整えるとした。
見過ごせないのは、議論の進め方である。原子力小委員会を含め経産省の審議会の委員構成は、原発推進派に偏っている。行動方針をとりまとめた今月8日の同委会合では、委員約20人のうち2人が議論が拙速だとして反対したものの、大半の委員が賛同した。反対派委員が「原発依存度低減の方針を短期間で変更するのは問題。拙速な進め方は原子力行政への信頼を損なう」と語ったのは当然だ。
建て替えを推進する方針についても疑問は大きい。建設・稼働には10年単位で時間がかかるため、現在の電力の需給逼迫(ひっぱく)や料金高騰を解消する効果は見込めない。
原発の建設費用も高騰しており、現在は1基当たり1兆円規模の巨額な費用がかかるとの指摘もある。海外では安全対策の追加や工期遅れにより、建設費用が大きく膨らむ事例が相次いでいる。国内では電力市場の自由化や、太陽光や風力といった再生可能エネルギーのコスト低下に伴い、原発は以前に比べ競争力を失っている。
原発を巡っては、使用済み核燃料を再利用する核燃料サイクルの行き詰まりや、高レベル放射性廃棄物の処分場確保など多くの問題がある。ロシアによるウクライナ侵攻では、原発が武力攻撃されるリスクも浮き彫りになった。丁寧な説明や、国民を巻き込んだ幅広い議論を行うことなく、原発政策を転換するべきではない。