2021年3月15日月曜日

再生エネ普及に挑む福島の人たち

 東京新聞が「再生エネ普及に挑む福島の人たち」に関する2つの記事を出しました。

 福島県を訪れた人は色々な場所にソーラーパネルが設置されているのを目にし、再生エネ発電に熱心に取り組んでいることを感じます。
 しかしながら、肝心の送電用の電力回線は電力会社の子会社が独占していて、簡単には使わせないようにしています。それは原発の再稼働を促すための作戦であり、原発を推進したい政府もそれを放置しています。そうしたことが改善されなければ再生エネの普及は進みません。
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再生エネ普及に挑む福島の人たち、苦難にめげない草の根の工夫
                          東京新聞 2021年3月14日
 福島第一原発事故をきっかけに、市民自ら再生可能エネルギー発電所を設立する動きが広がった福島県。人々が立ち上がった背景には原発に頼らない電気を目指す強い思いと、草の根の工夫があった。地域発電を育てる環境を整えるには、大手電力会社が送配電網を独占する体制をどう改革するかもカギを握る。(池尾伸一)


◆豪雪の懸念、実験で払拭
 地域の再エネ発電所が軌道に乗るまでには幾多の壁があった。会津電力のある会津地方は、2メートル以上の雪が積もる豪雪地帯。当初は「冬の間は発電できなくなる」との固定観念から銀行やパネル製造会社が協力を渋った。 
 居酒屋経営をやめて同社に参画した折笠哲也さん(現常務)は実証設備を手作りし、ひと冬の間、観察を続けた。その結果、太陽光パネルの設置角度を30度にすれば、発電を妨げる雪が滑り落ちることを突き止めた。「豪雪地帯でもパネルの角度次第で発電できることを証明したことで銀行などが協力してくれるようになった」と振り返る。
 大手電力との折衝も苦難の連続。2014年9月、飯舘電力が発足したのと同じタイミングで、東北電力など大手電力は一斉に「これ以上太陽光発電は受け入れられない」と発表した。
 飯舘電力は、大規模な太陽光発電建設に向け、村民から用地を借りる同意を取り付けていたが断念。送電線への負荷が少ない50キロワット未満の小規模発電所を多数造る方針に切り替えた。

◆「送配電網の開放」がカギに
 地域の発電会社を十分に生かすためには、送配電網の環境整備が大きなカギを握る。
 欧州連合(EU)では、各国の送配電会社が、再エネを優先接続するよう定めたルールがある。送配電網と発電所を同じ会社が運営していると、自社の発電所を優先しがちなため、送配電会社と発電会社の経営は分離されていなければならないことも決まっている。こうしたルールを追い風にドイツや北欧では、地産地消型の小規模発電所が急速に数を増やしている。
 日本では送電線は東京電力や東北電力が子会社などを通じて所有。いつ再稼働するか分からない原発のために送電網の空きを確保するなど不透明な運営が続く。
 電力政策に詳しい環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長は「送電会社と発電会社の分離で送配電網を開放する一方、農地利用も容易にするなど政策動員して地域分散型発電を伸ばすべきだ」と指摘している。


CO2出さず、災害にも強いのに…福島・飯舘村民がつくる再生エネ発電所に吹く逆風
                          東京新聞 2021年3月14日
 10年前の福島第一原発事故をきっかけに福島県では「原発に頼らない電気をつくろう」と市民自ら太陽光など再生可能エネルギー発電所を設立する動きが広がった。しかし、政府支援は薄く、ここにきて市民参加型の地域発電所は停滞する。「2050年温暖化ガスゼロ」を掲げる菅内閣だが大企業主導の政策に傾斜し、小規模発電の活用が課題に浮上している。(池尾伸一)
 17年3月まで全住民が村外避難させられていた飯舘村。6500人の住民が1500人しか戻ってきていない村の各所に放射性物質の汚染土を詰めた袋が山積みのままだ。その一方で目立つのが太陽光発電のパネル。村民らが出資した「飯舘電力」の小規模発電所。1基あたりは約50キロワットと、15世帯分に相当するだけだが、いま村に49カ所の発電所がある。太陽光パネルの下で牧草などを栽培するソーラーシェア型も多い。計2500キロワットと、帰還した全760世帯分の電気に相当する計算だ。

 主導したのは育牛農家の小林稔さん(68)。電力には素人だったが、放射能汚染で村の農業が困難になると心配。「村民が収入を補う手段が必要」と村民の出資を募り発電会社を設立した。村民から借りた土地で発電した電気は東北電力に売り、収益は村民への地代や地元復興支援に活用する。
 会津でも酒造店当主らが呼び掛けて「会津電力」が発足。土湯温泉では旅館経営者らが温泉の湯気を使い地熱発電所をつくった。いずれも市民が出資や運営に参加、収益を地元貢献に活用するのが特徴。市民参加型電力は「ご当地電力」として全国に広がった。
 だが最近は伸び悩む。飯舘、会津両電力合計で17年度は29の発電所を新設・稼働させた。だが、20年度は3カ所だけ。新設はほぼ止まりつつある。

 背景にあるのが電力価格の引き下げ。再エネは大手電力などが固定価格で長期に買い取る固定価格買い取り制度で拡大してきた。だが経済産業省は「消費者負担が重い」として、当初1キロワット時40円前後だった太陽光発電の買い取り価格を最近では12円にまで下げた。この価格だと新設発電所は採算割れしてしまうのだ。規模拡大でコストを下げれば採算は合いやすいが送電線を持つ東北電や東京電力は出力50キロワット以上の発電所は「送電線に余裕がない」と接続を拒んでいる
 政府の温暖化ガス削減策は大企業主導の洋上風力発電や原発の再稼働が柱。金子勝立教大特任教授は「小規模分散型発電は地域の自然や農地を活用しやすく災害にも強い。政府や大手電力は送配電網を欧州並みに高度化して地域の電力会社を生かすシステムを構築すべきだ」と提言する。