IAEAは原発の安全性に関する深層防護策の最終段階=第5層に「住民が安全に避難出来ること」を定めています。
海外では当然原発稼働時に安全な避難が可能であることを条件としていますが、日本の「新規制基準」はこの「第5層」という条件を外し、政府と自治体が確保することとその責任を転化しました(これは日本のような狭小な土地で、居住地に近いところに原発を多数設置せざるを得なかったなかでは、住民の安全な避難を保障するのは容易でないことを見越した上で、原子力規制委がその責任を逃れたものとも言えます)。
そうしたこともあって司法はこれまで「住民の避難の実効性」について関心を示してきませんでした。しかし原発の過酷事故時に住民が安全に避難できなければ、住民の生命と健康は守れないので、避難の実効性が認められなければ稼働は出来ないと司法が判断するのは本来は自明のことの筈です。
避難計画の実効性と再稼働の可否を関連付けて判断した、東海第二原発の再稼働を認めないとする18日の水戸地裁の判決は、きわめて意義の深いものです。
東京新聞は「全ての原発を止める論理で、原子力ムラには恐怖だと思う」とする河合弘之弁護士の言葉を紹介しました。もしも今後判事たちが政府や産業界に忖度しない判決を下せるなら、ことごとく再稼働不可の判決になる筈という意味です。
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東海第二運転禁止 他の原発訴訟にも影響 10年前の経験と現状踏まえた判断
東京新聞 2021年3月19日
「避難体制が整えられず、安全性に欠ける」。日本原子力発電(原電)に東海第二原発(茨城県東海村)の運転禁止を命じた18日の水戸地裁判決は、原発30キロ圏に約94万人が暮らす現実を直視した。自治体による避難計画づくりは難航を極め、10年前の大震災と原発事故のような事態になれば、多くの人命が脅かされかねない。過去の経験と現状を踏まえた司法判断は、他の原発訴訟への影響も大きい。(宮尾幹成)
◆避難計画の問題点を指摘
東海第二原発は原子力規制委員会の審査をパスし、原電が再稼働の準備を進める中、事故に備えた避難計画の策定は進んでいない。
計画づくりが義務付けられた県と30キロ圏の14市町村のうち、策定済みは県と笠間市、常陸太田市、常陸大宮市、鉾田市、大子町の5市町にとどまる。しかも、いずれも住民の安全確保に課題を残している。
判決は計画の実効性について、「大規模地震で道路の寸断がある場合、複数の避難経路は設定されていない」など問題点を明示した。
周辺人口が多い東海第二で事故が起きれば、避難のための移動手段確保が難しくなるのは避けられない。
交通問題を研究する環境経済研究所(東京)の上岡直見代表は2016年、自家用車で30キロ圏外に出るのに要する時間を試算。県内の主要道路の5%が災害で不通になれば、大渋滞で2日半以上、圏内にとどめられる恐れがあり、10%以上の不通なら車は全く動けなくなるという。
自力で避難できない高齢者や障害者ら約6万人を乗せるバスも、調達のめどが立たない。放射線量が高い地域にバスが入る可能性があり、県と県バス協会の交渉がまとまっていない。
東海村周辺にある原子力施設が同時多発的に事故を起こすこともあり得るのに、避難計画では想定されていない。
◆「全ての原発を止める論理」
「全ての原発を止める論理で、原子力ムラには恐怖だと思う」。判決後の記者会見で、原告弁護団共同代表の河合弘之弁護士は、避難計画に焦点を当てた判決の意義を「良い意味で想定外」と強調した。
原発30キロ圏内の人口を見ると、東海第二が最多で、次いで中部電力浜岡原発(静岡県)の約83万人。東京電力が再稼働を目指す柏崎刈羽原発(新潟県)は約44万人で、これだけの人口密集地域での原発立地は世界でも例がない。
周辺人口がずっと少ない東電福島第一原発事故でも、避難の遅れが住民の被ばくにつながった。人口密集地域では、大きな被害が想定されることは明らかだ。
浜岡原発の再稼働に反対する、原発なくす会静岡事務局長の酒井政和さんは「浜岡の訴訟でも避難計画について主張しており、影響はしてくると思う」と期待する。
海に面して設置される原発は半島の付け根にあったり、周辺の道路が非常に狭かったりするなど、環境の厳しさがつきまとう。地震や津波が起きれば、水戸地裁判決が示したように避難そのものができなくなる。
酒井さんは「関東や北陸に逃げることになっているが、それが可能なのか。避難計画で、住民が守れるのか疑問だ」と話した。