18日、茨城県東海村にある東海第二原発の運転の差し止めを求めた訴訟において、水戸地裁は、避難計画やそれを実行する体制が整えられていないとして、日本原電に再稼働を認めない判決を言い渡しました。
前田英子裁判長は「基準地震動」の設定や施設の耐震性等については、「原子力規制委が審査に適合するとした判断に見過ごせない誤りや欠落があるとまでは認められない」と述べ原告側の主張を退けましたが、避難計画については「原発から30キロ圏内に住む住民が避難できる避難計画と体制が整っていなければ、重大事故に対して安全を確保できる防護レベルが達成されているとはいえない」と指摘しました。避難計画を策定しているのは14市町村のうち5つの自治体にとどまり、水戸市などは策定できていません。
判決は「策定された計画でも、地震などの自然災害による住宅や道路の被害も想定した、複数の避難経路を設定しておらず、実現可能な避難計画や実行できる体制が整えられていると言うには程遠い状態だ」としました。
弁護団長の河合弘之弁護士は、「すばらしい判決が出た。避難計画が不十分だというわかりやすい理由で勝訴したのはよい意味で予想外で、歴史的な判決だと思う。人口密集地帯で事故を起こしたらどうするのかという主張が裁判所に届いたと思う」と述べました。
避難計画の不備や実効性の欠如で再稼働を認めないのは、日本では初めてのように思われます。
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東海第二原発 再稼働認めない判決 水戸地裁
NHK NEWS WEB 2021年3月18日
茨城県東海村にある東海第二原子力発電所について、住民が安全対策に問題があるなどと訴えていた裁判で、水戸地方裁判所は避難計画やそれを実行する体制が整えられていないとして、事業者の日本原子力発電に再稼働を認めない判決を言い渡しました。
茨城県東海村にある日本原電の東海第二原発について茨城や東京などの住民224人は、巨大な地震で重大な事故を引き起こすおそれがあるなどとして再稼働しないよう求める訴えを起こしていました。
8年余りにわたって開かれた裁判では、原発の周辺で想定される最大規模の地震の揺れ「基準地震動」の設定や、重大事故が起きたときに備えて自治体が策定する避難計画などが争点となっていました。
18日の判決で水戸地方裁判所の前田英子裁判長は「基準地震動」の設定や施設の耐震性、それに津波の想定などについては「原子力規制委員会が審査に適合するとした判断に見過ごせない誤りや欠落があるとまでは認められない」と指摘し、原告側の主張を退けました。
一方、避難計画については「原発から30キロ圏内に住む住民が避難できる避難計画と体制が整っていなければ、重大事故に対して安全を確保できる防護レベルが達成されているとはいえない」と指摘しました。
さらに原発の30キロ圏内の住民が94万人にのぼることをあげ「避難計画を策定しているのは14市町村のうち避難が必要な住民が比較的少ない5つの自治体にとどまっていて、人口の多い水戸市などは策定できていない」と指摘しました。
そのうえで「策定された計画でも、地震などの自然災害による住宅や道路の被害も想定した、複数の避難経路を設定しておらず、実現可能な避難計画や実行できる体制が整えられていると言うには程遠い状態だ」として、日本原電に再稼働を認めない判決を言い渡しました。
東海第二原発は10年前の東日本大震災以降運転を停止しています。
原告や支援者からは歓声
水戸地方裁判所の前では、午後2時半すぎ原告側の弁護士3人が「勝訴」「東海第二原発再稼働認めず」などと書かれた紙を掲げました。
集まった原告や支援者からは歓声が上がっていました。
判決について原告の女性は「ずっと勝訴を待ちわびていました。裁判長をはじめ裁判官がよく勉強し、この判決を書いてくれたと思います」と話していました。
また支援者の女性は「首都圏の原発なので心配している人は多いと思います。原発はもう動かせないということを皆さんに知ってほしいです」と話していました。
支援者の男性は「勝訴は当然だと思いますが、実際に勝訴するかどうかは五分五分だと思っていました。廃炉に向けて国が行動すべきだと思います」と話していました。
弁護団長「歴史的な判決」
判決について弁護団長の河合弘之弁護士は会見で、「原告や支援者の力強い結束できょうのすばらしい判決が出た。避難計画が不十分だというわかりやすい理由で勝訴したのはよい意味で予想外で、歴史的な判決だと思う。人口密集地帯で事故を起こしたらどうするのかという主張が裁判所に届いたと思う」と述べました。
また原告団の共同代表の相沢一正さんは「『運転してはならない』という裁判長の声を聞いたときに目頭が熱くなりました。主張が明確に届き、福島第一原発事故の教訓が生かされました。日本原電が対策工事を完了し再稼働を強行しないよう、たたかいを継続していきたい」と話していました。
日本原子力発電「速やかに控訴の手続きを」
判決について日本原子力発電の草野靖総務室長代理は「判決は当社の主張を理解いただけず、誠に遺憾であり到底承服できないことから、判決文の詳細を確認したうえで速やかに控訴の手続きを行います」と述べ、19日にも控訴する考えを示しました。
傍聴席の倍率18.8倍
(中 略)
茨城 大井川知事「実効性ある避難計画策定に取り組む」
(中 略)
東海村 山田村長「避難計画の実効性向上など取り組んでいる」
(中 略)
避難などの対応策 策定めどたたず
内閣府は、関係自治体と連携しながら原発で重大な事故が起きた際、避難などの対応策をとりまとめた計画を作っていて、これまでに再稼働した原発を中心に策定されてきました。
しかし、東海第二原発をめぐる計画は協議が続いていて、策定のめどはたっていません。
18日の水戸地方裁判所の判決について、内閣府の原子力防災担当は「民事の訴訟でありコメントする立場にない」としたうえで、「関係自治体と避難計画の具体化に取り組んでいるところである。避難計画は地域住民の安全・安心にとって重要なものであり、引き続き、関係自治体と連携して防災体制の充実・強化に取り組んでいく」としています。
原発をめぐる過去の司法判断は
(中 略)
東海第二原発の運転禁じる 水戸地裁「防災体制は極めて不十分」
東京新聞 2021年3月18日
首都圏唯一の原発で、日本原子力発電(原電)が再稼働を目指す東海第二原発(茨城県東海村)を巡り、11都府県の住民ら224人が原電に運転差し止めを求めた訴訟の判決で、水戸地裁は18日、運転を認めない判決を言い渡した。前田英子裁判長は、原発の半径30キロ圏に94万人が暮らすことを踏まえ「実効性ある避難計画や防災体制が整えられているというにはほど遠い状態で、人格権侵害の具体的危険がある」と理由を説明した。(松村真一郎)
◆30キロ圏の原告79人の請求認める
東海第二原発の30キロ圏には14市町村があり、人口は原発の立地地域として全国最多。原告弁護団によると、事故時の避難計画の不備を理由に、原発の運転差し止めを認めたのは初めて。判決では、30キロ圏に住む原告住民79人の請求を認める一方、それ以外の請求は棄却した。原電は控訴する方針。
東海第二原発は2011年の東日本大震災の津波で被災し自動停止し、現在も止まったまま。原電は再稼働に向け、原発の事故対策工事を進めているが、判決が確定すると、再稼働できなくなる。
◆課題抱える避難計画の策定
判決によると、原子力災害対策指針に基づく避難計画では、原発から半径5キロ圏は事故時すぐに避難が求められる。5キロから30キロ圏ではまず屋内退避、その後に放射線量が上がると避難することになる。しかし、避難計画の策定が義務付けられる30キロ圏の14市町村のうち、計画を策定済みなのは5市町にとどまっている。
前田裁判長は「人口15万人以上の日立市やひたちなか市や、27万人の水戸市は計画の策定に至っていない。策定した5自治体の避難計画も、複合災害などの課題を抱えている」と指摘した。
原発事故と大規模地震が同時に起きた場合、住宅が損壊して屋内退避が難しくなることや、道路の寸断による情報提供体制がないことを挙げ「防災体制は極めて不十分であると言わざるを得ない」と強調した。
一方、地震や津波の想定などに関しては「安全性に欠けるところがあるとは認められない」と原電側の主張を認めた。