文春オンラインに、脱原発派に転じて久しい小泉純一郎氏とアイリーン・美緒子・スミスさんとの対談が載りました。
アイリーンさんは、水俣病に始まって多くの社会的問題について一貫して発信を続け、行動してきた人です。
月刊誌「文藝春秋」21年4月号に掲載されている対談記事の抄録です。
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「コストが安い、安全だと騙されてしまった」
小泉純一郎79歳が語る“原発推進派のワナ”
文春オンライン 2021年3月23日
「反原発という人は、だいたい反自民だよね」
「だって自民党がずっと推進してきたから」
「反原発というと『左翼だ』と言われるらしいけれど、私は左翼じゃない。原発問題は政党やイデオロギーとは関係がないことだ」
アイリーン・美緒子・スミス氏(70)と小泉純一郎元総理(79)の対談が実現し、現在発売中の「文藝春秋」4月号に掲載されている。対談を企画した私は、当日の司会と記事の執筆を担当した。
「自分が誤っていたと、はっきり気づいた」
スミス氏は母が日本人、父がアメリカ人。日本で暮らしながら、40年近く反原発運動に関わってきた。大飯原発の再稼働をめぐる訴訟では原告側共同代表となり、昨年12月4日に勝訴判決を得ている(国は控訴)。若き日には夫で著名な写真家だったユージン・スミス氏とともに、水俣病の現状を世界に発信したことでも知られる女性だ。
一方の小泉元総理は、かつては原発推進派だったものの福島事故を契機に目覚め、現在は「原発ゼロ」を力強く訴えている。
「自分が誤っていたと、はっきり気づいた。日本は即、原発をやめ、再生エネルギーに切り替えなければいけない」
草の根で国や電力会社を相手に戦ってきたスミス氏と、最高権力者であった元総理。経歴も立場も違うふたりだが、意見はほぼ一致していた。
「石炭火力も原発も両方やめないと」(小泉)
「原発は時代遅れですし、再生エネルギーの開発だけでなく、省エネとエネルギー効率アップのシステムを考えることがより重要です」(スミス氏)
地震国の日本でなぜ、まだ原発を動かそうとするのか。やめると決断することが怖いのか。前例を踏襲するほうが楽だからか。
「政治家の感性の問題じゃないかな」(小泉)
「勇気の問題かも」(スミス氏)
なぜ“騙されない仕組み”をつくれないのか
小泉元総理は被災地支援の「トモダチ作戦」に従事したアメリカ兵が放射能を浴び、帰国後、重篤な健康被害に遭っているとし、「日本政府は因果関係はないというが、そうは思えない」と語り、うっすらと涙ぐんだ。スミス氏は、「福島における放射能被害の実態を調査しないことは問題」と指摘した。彼女には、今の福島の状況が水俣に重なって見えるのだ。自身がまとめた「水俣と福島に共通する手口十カ条」を小泉元総理に手渡した。
「一、誰も責任を取らない。縦割り組織を利用する。二、被害者や世論を混乱させ、『賛否両論』に持ち込む。三、被害者同士を対立させる。四、データを取らない。証拠を隠滅させる。五、ひたすら時間稼ぎをする。六、被害を過小評価するような調査をする。七、被害者を疲弊させ、あきらめさせる。八、認定制度を作り、被害者を絞り込む。九、海外に情報を発信しない。十、御用学者を呼び、国際会議を開く」
国が被害を受けた国民を騙そうとする手口である。しかし、騙されるのは果たして国民だけなのか。
小泉元総理は、「原発はクリーンだ、コストが安い、安全だと経産省から言われて頭から信じてしまった。騙されてしまった」と語り、スミス氏は「どうして騙されない仕組みをつくれないのか」と問うた。
重要な政策決定をするにあたって、為政者が正しい判断をするためには、どうしたらいいのか。大事な問いかけであると感じた。
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小泉純一郎氏とアイリーン・美緒子・スミス氏の対談「 菅総理よ『原発ゼロ』の決断を 」は、「文藝春秋」4月号および「文藝春秋digital」に掲載されています。
(石井 妙子/文藝春秋 2021年4月号)