2021年3月8日月曜日

再生エネ移行で脱原発へ 国民投票から4年のスイス

 原発計4基(全発電量の35%)が稼働中スイスでは、議会が原発の順次廃止と再生エネ促進を定めた法案を賛成多数で承認し、17年の国民投票で脱原発が支持されました。

 スイスの脱原発政策はソフトで、「原発の安全性が保証される間」の稼働が認められ、耐用年数は60年程度」としています
 原発賛成派は「電力の安定確保が可能な原発を再生エネに代替する準備はまだできていない」と主張し、それに対して脱原発派は「エネ効率を上げて消費電力を減らすなど、前向きな政策を取れば達成可能だ」と述べ、ロイトハルト・エネルギー相は、「時の流れとともに、どんなに甚大な災害でも社会は忘れる」「危険性を思い出し、議論を続けることが政治家やメディアの役割だ」と強調しています。
 時事通信が報じました。
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再生エネ移行で脱原発へ 供給不安定化に懸念 国民投票から4年のスイス
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【パリ時事】スイスは東日本大震災での東京電力福島第1原発事故を受け、段階的な脱原発方針を決め、豊かな自然を背景に着々と再生可能エネルギーへの移行を進めている。一方で、移行に伴う電力供給の不安定化を懸念する声も根強い

◇明確な廃炉期限なし
 福島原発事故直後、スイス連邦政府のロイトハルト環境・運輸・エネルギー・通信相(当時)は原発の新規建設と改修計画の凍結方針を表明した。その後、議会は原発の順次廃止と再生エネ促進を定めた法案を賛成多数で承認。2017年の国民投票で賛成約58%、反対約42%で脱原発が支持された。
 スイスでは、1969年に営業運転を開始したベツナウ原発など計4基が稼働中。19年時点でスイス全体の発電量のうち原発は約35%で、水力が約56%を占める。政府は、50年をめどにほぼ全ての電力を再生エネ発電で賄う目標を掲げる。
 22年までの脱原発を決定したドイツと異なり、スイスでは明確な期限がない。法律では「原発の安全性が保証される間」の稼働が認められている。耐用年数は明文化されていないが、当局は「60年程度」としている。
 エネルギー局のツント報道官は時事通信の取材に対し、「事故が絶対に起きないと保証する技術革新があれば、脱原発方針が変わる可能性もある」と説明。ロイトハルト氏も「技術研究は続いており、議論は常にオープンだ」と話す。

◇安定供給懸念の声も
 政府の脱原発方針に反対して国民投票を主導した市民団体「エネルギー同盟」のルカ・ウェベー会長は、原発を再生エネで代替する政府方針について「電力供給の安定性を脅かす」と批判。風力や太陽光による発電は気候に左右されるとし、「電力の安定確保が可能な原発を再生エネに代替する準備はまだできていない」と主張している。
 独立規制機関の電力委員会で技術事務局トップを務めるレナト・タミ氏は「夏の電力供給は問題ないが、暖房が必要な冬は国外から多くの電力を輸入せざるを得なくなる」と指摘。「これまでのペースで再生エネ開発を進めるなら、冬に必要な原発の発電量を全て賄えるまでに100年以上かかるだろう」と危惧する。

◇当局は「実現可能」と反論
 こうした不安の声に対し、ツント報道官は「設備開発やエネ効率の向上により、再生エネへの移行は実現可能だ」と反論。環境保護団体グリーンピース・スイス支部の原発担当者フロリアン・カッセール氏は「原発を推進していた企業も今や再生エネ開発を促進している。エネ効率を上げて消費電力を減らすなど、前向きな政策を取れば達成可能だ」と語る。
 脱原発後も、使用済み核燃料の保管や処理など課題は山積する。ツント報道官によれば、近年増加傾向にある河川の増水による事故リスクも高まっている。ロイトハルト氏は福島での原発事故が「スイスの戦略決定に大きな影響を与えた」と振り返る一方、「時の流れとともに、どんなに甚大な災害でも社会は忘れる」と風化を懸念。「危険性を思い出し、議論を続けることが政治家やメディアの役割だ」と強調した。 【時事通信社】