「避難体制が整えられず、安全性に欠ける」として東海第二原発の運転禁止を命じた18日の水戸地裁判決については、初めて避難計画の不備を理由に再稼働を禁止したものとして多くの新聞が社説で取り上げました。
原発過酷事故時の住民の安全防護の最終段である「避難」の実効性が無視されてきたこれまでの判決はあってはならないもので、今後とも司法判断において引き継がれるべきものです。西日本新聞の社説を紹介します。
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社説 東海原発判決 実効性のある避難計画に
西日本新聞 2021/3/23
東京電力福島第1原発のような深刻な事故が今後、他の原発で起こった際、周辺の住民は本当に安全に逃げられるのか。現在の避難計画は机上の空論になっていないか。そう問い掛ける司法判断である。
茨城県にある日本原子力発電東海第2原発の周辺自治体の避難計画が不十分だとして、水戸地裁は運転を認めない判決を言い渡した。避難計画の不備を理由に原発の運転差し止めを命じた判決は初めてだ。
国土が狭い日本で原発と人々の暮らしが共存できるのか。周辺住民だけでなく、全ての国民が自分の問題として改めて考える必要があるだろう。
もちろん判決が確定したわけではなく、控訴審での争いは続く。それでも、事故時の住民の避難に着目した司法判断が出た意義は大きい。10年前の福島原発事故では、周辺住民の避難は困難を極め、無計画な避難の強行によって命を落とした人もいたことを忘れてはならない。
幾重に安全対策を講じようとも原発の事故は完全には防げない。福島の事故から学ぶべき教訓である。放射性物質が漏れるような事故の可能性がゼロでない以上、重大事故を想定した実効性のある避難計画が原発運転の前提となるのは当然だ。
東海第2原発は東京に最も近い原発で、半径30キロ圏内に94万人が居住する。この数は国内の原発で最も多い。人口密集地に原発が立地する例である。
国の防災基本計画や原子力災害対策指針は、半径30キロ圏の自治体に広域避難計画の策定を義務付けている。ところが東海第2原発で対象となる14市町村のうち、策定済みは小規模な5自治体にとどまる。人口27万人の水戸市、18万人の日立市などが未策定で、これは避難自体が容易でないことの裏返しだ。
策定済みの計画にも、道路が寸断した場合の代替避難路の確保といった課題が残る。道路の渋滞も不可避だ。実効性のある避難計画や防災体制が整えられていると言うには程遠いと断じた判決の通りだろう。