2021年3月31日水曜日

東京五輪・パラ開催に「NOを言う勇気」(植草一秀氏)

 IOCのトーマス・バッハ会長は常々7月23日の東京五輪の開幕を疑う理由はなく、問題は五輪が開催されるかではなくどう開催するかだ」と繰り返しています。五輪あってのIOCですから当然といえますが、その実態は巨大利権であり、五輪の中止がもたらす経済的損失や五輪ブランド低下のリスクだけは避けたいという思惑です。だから五輪を開くかどうかをIOCに相談するというのはもともとナンセンスです。

 国際的に相談する機関はWHO(世界保健機関)だと思いますが、開催の是非に直接言及するとは思えません。
 バッハ会長は3月のIOC総会で、開催が可能であることを「疑う余地のない証拠がある。昨年秋以降、270の世界選手権やワールドカップ(W杯)の主要大会が開催され、3万人以上が出場した。20万件超の検査を実施し、一つとして集団感染は起きなかった」と、それなりに説得力のある話をするとともに、「東京大会の成功は、常に科学と事実によって導かれないといけない」として、WHOや専門家のアドバイスが必要不可欠とも主張しました。
 日本政府や東京五輪パラ委員会はいまのところ中止の選択肢を持っていないようですが、それならそうした成功例に学び集団感染を起こさせない具体的な方策を持っているのでしょうか。当然持っていなくてはならないのですが・・・

 日本のコロナ感染状況の見通しから、五輪・パラの開催は無理であるとの立場から植草一秀氏が、「NOを言う勇気」と題したブログを出し、「日本が国民主権、民主主義の国家であるなら、五輪中止以外の選択はない」と述べました。
 その中で、日本が福島原発事故直後の「緊急事態」下で、「年間20ミリシーベルトまで許容できる」とする応急的な基準を決め、現在もそれを維持したままであるのに対して、福島原発事故の25年前にロシアで起きたチェルノブイリ原発事故では、当時のソ連が「避難の権利」と称される合理的な原則を定めたことに触れています。
 要するに日本が、如何に被ばく後進国であるかを示すものです。
 もしも「NOを言う勇気」を持たない日本が、集団感染を防止できる方策も立てられないままで五輪開催に突き進むようなら、国際的な非難は免れません。
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NOを言う勇気
                植草一秀の『知られざる真実』 2021年3月29日
Noと言う勇気が必要だ。
東京五輪については日本の主権者の多数が開催に反対している。恐らく8割以上の国民が反対していると思われる。
なぜ反対なのか。さまざまな理由がある。そもそも「復興五輪」と言いながら、福島の原発事故被災者を切り棄てての「復興五輪」はあり得ないとの主張がある。
一般公衆の被曝上限は年間1ミリシーベルトだ。
累積被ばく線量が100ミリシーベルトを超えると有意な有害性が認定されている。がん死リスクが0.5%上昇する。
1ミリシーベルトの被曝なら100年生きても累積線量が100ミリシーベルトに達しない。
これが年間線量上限を1ミリシーベルトとしている根拠だ。ICRP(国際放射線防護委員会)勧告に基づく法定値である。

ところが、2011年3月11日に人類史上最悪レベルの放射能事故が引き起こされた。
日本政府は同日、「緊急事態宣言」を発出した。この「緊急事態宣言」はいまも解除されていない。
「緊急事態宣言」発令下であることを盾に、高線量の放射能被曝が容認されている。
福島県内の学校等の校舎・校庭等の使用においては、年間線量20ミリシーベルトが容認されている。また、年間線量が20ミリシーベルト以下に低下することが見込まれる地域について避難指示が順次解除されてきた。避難指示解除が意味するのは、被曝を避けるために避難しても、補償を行わないということ。

チェルノブイリでは年間線量5ミリシーベルト以上の地域を強制避難の対象とした。
1~5ミリシーベルトの地域では住民に選択権が与えられた。避難を選択した者には当然のことながら避難費用が支給された。1ミリシーベルト以下の地域の住民に対しても社会経済的恩典が与えられた。
20ミリシーベルトの被曝は、たった5年で累積線量が100ミリシーベルトに達することを意味する。100ミリシーベルトの被曝でがん死リスクが0.5%上昇するとの「確率的影響」が科学的知見として認められている。
このがん死リスクを住民に強要する正当性は存在しない。
五輪に注ぐ公費があるなら、その前に、年間線量1~20ミリシーベルトの地域の住民に対する避難費用の補償を行うことは当然のこと。原発事故被害者を切り棄てて五輪騒ぎにうつつを抜かすことが、そもそも許されるものでない。

福島の原発事故被害者を切り棄てて五輪騒ぎにうつつを抜かすことが正当化されないだけでなく、コロナ問題に苦しむ日本が五輪騒ぎにうつつを抜かすべきでないとの主張も強い。
日本の主権者の8割以上が五輪開催強行に反対する最大の理由がこれだ。日本の主権者はコロナ収束こそ最優先課題であると判断している。
コロナ感染を収束させるには人流の抑制が必要だ。もっとも感染拡大につながりやすい行動が多人数による会食である
会食の際に会話を行うと、飛沫の飛散によって感染が広がる。
これを防ぐには多人数による会話を伴う会食機会を抑制する必要がある。
しかし、食事そのものが有害なわけではない。「個食」、「黙食」のリスクは大きくない。
飲食店への影響を考慮するなら、「会話を伴う会食」と「個食」、「黙食」を明確に区別するべきだ。

3月初旬から新規陽性者数が増加に転じた。
このタイミングで緊急事態宣言を解除すれば人流が急激に拡大する可能性が高い。
さらに、五輪組織委員会は五輪聖火リレーを強行している。聖火リレー自体が感染拡大の原因になる。
五輪開催強行はコロナ感染状況を確実に悪化させる。コロナ感染拡大の代償を払って五輪開催を望む主権者国民は圧倒的少数である。
日本が国民主権、民主主義の国家であるなら、五輪中止以外の選択はない。

「UIチャンネル」第380回放送、鳩山元首相との対談がアップされております。
  https://bit.ly/37cW7Bs ぜひご高覧賜りたい。
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