福島第1原発事故に伴う帰還困難区域の8割を占める森林については、これまで除染をせず、完全に手つかずのまま放置されてきました。林野庁が新年度、区域内で間伐や木材運搬などの作業を行う際のガイドライン(指針)を策定することで、森林の整備が26(令和8)年度にも始まる可能性が出てきました。
帰還困難区域の森林は南相馬、大熊、双葉、浪江、富岡、葛尾、飯舘の7市町村で約2万6千ヘクタールに上り、うち国有林が約1万7千ヘクタール、市町村所有を含む民有林が約9千ヘクタールです。
同庁が指針策定に先立ち、森林約70カ所で空間線量や作業時の被ばく量を調査した結果は、空間線量は毎時1・0~8マイクロシーベルト程度です(避難指示解除の目安は毎時3・8マイクロシーベルト)。
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【震災・原発事故14年】2026年度森林整備 帰還困難区域、着手可能に 林野庁2025年度作業指針策定 福島県
福島民報 2025/02/16
東京電力福島第1原発事故に伴う帰還困難区域の森林整備が2026(令和8)年度にも始まる可能性が出てきた。林野庁が新年度、区域内で間伐や木材運搬などの作業を行う際のガイドライン(指針)を策定。現場の空間放射線量や作業内容に応じ、活動できる時間の目安などを示す。自治体による森林と林業の再生に向けた事業計画の立案や作業員の安全確保が狙い。区域全体の8割を占め、手つかずの森林の手入れが動き出せば、被災地の自然環境や暮らしの回復につながると期待される。
林野庁と福島県によると、帰還困難区域の森林は南相馬、大熊、双葉、浪江、富岡、葛尾、飯舘の7市町村で約2万6千ヘクタールに上る。内訳は国有林が約1万7千ヘクタール、市町村所有を含む民有林が約9千ヘクタール。避難の長期化や作業時の安全面への懸念などからこれまで整備は行われていない。
同庁は指針策定に先立ち、所有者の許可を得て区域内の森林約70カ所で空間線量や作業時の被ばく量を調査。空間線量は毎時1・0~8マイクロシーベルト程度で、避難指示解除の目安(同3・8マイクロシーベルト)を下回る地点もあった。
指針は厚生労働省、環境省と調整して2025年度内にまとめる。先行調査で得たデータを基に森の立地や伐採や運搬など作業の種類、作業方法ごとに活動できる時間や頻度、被ばくを抑える防護方法を盛り込む。被災自治体や事業者に周知、説明し、自治体などが森林整備を事業化する際の基礎資料や林業従事者の安全対策に役立ててもらう。
森林は表土除去や大規模伐採に伴う土砂災害のリスクなどを理由に除染の対象外とされている。環境省は2015(平成27)年、帰還困難区域の森林に関しても住宅・道路など生活圏に近い範囲や日常的に人が出入りする地点を除き原則除染しない方針を定めた。
一方、帰還困難区域のうち、特定復興再生拠点区域(復興拠点)では段階的に避難指示が解除され、特定帰還居住区域でも除染やインフラ整備が進んでいる。居住可能な地域への帰還を望む住民や首長には「山菜やキノコ狩りなど、元の暮らしの営みをどの程度取り戻せるのか」と森林の荒廃が進む現状を問題視し、再生に向けた道筋を示すべきだとの要望が根強い。
こうした状況を受け、政府は昨年3月に改定した復興基本方針に、森林における作業の実施や伐採木などの扱いについて「科学的なリスクコミュニケーションを含め、関係者との調整など必要な対応を進める」と明記。林野庁が具体化に向け、区域内の森林の実態把握や作業時の被ばく対策などに関して関係省庁、県、地元市町村と検討を重ねている。研究指導課の担当者は「森林や林業の再生へ一歩を踏み出せるきっかけとしたい」とガイドラインを定める意義を強調している。
■福島県内7森林組合担い手確保へ 広域連携検討
帰還困難区域を含む双葉郡を管轄している双葉地方森林組合と、ふくしま中央、いわき市、相馬地方、飯舘村、福島県北、田村の6森林組合は林野庁の動きを見据え、森林整備を担う従事者確保に向けて「広域連携」の検討を始めている。荒廃した森林を回復させる作業は、双葉地方森林組合だけでは担い切れないと判断。昨秋に設立した協議会を中心に、人手不足を解消する仕組みを整える。
県森林組合連合会の田子英司会長(いわき市森林組合組合長)は「一度、人の手が入った森林は管理を続けなければ衰退する」とした上で「人手不足で整備が進まない状態に陥らないよう協力する」と対策を講じる考えを示している。