原発事故時に5キロ圏内の住民の避難を優先させ、「5~30キロ圏内の住民は一旦〝屋内退避″した後に避難する」という方針は、狭隘な土地と道路事情の中に原発が建設された日本独特の苦肉の策であって、提案された当初から「避難しないで自宅に留まることは心理学的に可能なことなのか」などという問題提起がされました。
24年元日に起きた能登半島地震で多くの民家が全壊、半壊又は一部損壊したことで、「自宅退避すると被曝が防げない」ことが明らかにされました。それを受けて規制委は「屋内退避」についての検討委員会を4月に立上げました(24年度内に結論)が、規制委から検討委に与えられた課題は「屋内退避の可否」の検討ではなく、「どの段階で自宅退避を解消すべきか」にスリ替わっていました。
それは規制委員長の山中伸介氏が「自然災害の防災は内閣府の所管なので規制委の範疇外(内閣府=自治体の責任)」と主張しているからですが、「複合災害時の避難については各自治体で要綱(根本的な指針)を定めるべし」というのは余りにも現実離れした考えで、単なる「責任逃れ」にしか聞こえません。
「避難」は原発の深層防護原則の「仕上げ」の部分をなすものであってある意味では「全ての安全策は事故時に住民が安全に避難できる」ためのものです*。それなのに日本の規制委は一貫してその責任を回避してきました。
*1984年に完成した米ニューヨーク州のショアハム原発は、スリーマイル島原発事故やチェルノブイリ原発事故を背景にした反対運動の中、「重大事故時の避難計画が出来ていない」ことを理由に営業運転を行わないまま1989年に廃炉が決定しました。
新潟日報に掲題の記事が載りました。
「原発事故と地震等の複合災害時の避難要綱の作成は内閣府=自治体の所掌」などという理屈は誰が見ても成り立ちません。24年9月に新らしく規制委員となった山岡耕春氏は見かねて「所管を越えても、国としてはどこかが考えるべきだ。(報告書に)提案を入れられるなら、入れた方がいい」と、非常にソフトな言い方で修正意見を述べました。全く同感です。
それを受けて検討チームは、複合災害に関し対策の重要性や提案を報告書案に盛り込む方針を固めたということです。
今回もそうでしたが、山中規制委員長の発言には理解できかねることがこれまでも多々ありました。山岡氏の登場で検討委が少しだけでも軌道を修正できたのは喜ばしいことです。
関連記事(他 多数)
(1月11日)[どうなる? 2025年の柏崎刈羽原発] 「屋内退避」は現実的か?~
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
原発事故と地震などの「複合災害」対策を提案へ 原子力規制委員会の「屋内退避」運用見直し検討チーム
新潟日報 2025/2/2
原発事故の際に周辺住民が行う「屋内退避」の運用見直しを議論する原子力規制委員会の検討チームが、自然災害と原発事故が重なる複合災害に関し、対策の重要性や提案を報告書案に盛り込む方針を固めたことが2月1日、分かった。規制委はこれまで「自然災害の防災は(所管の)範疇(はんちゅう)外」としていた。新潟日報社の取材に規制委事務局の原子力規制庁が明らかにした。
・倒壊するかもしれない家で「屋内退避」…原発事故と地震が重なる困難さ浮き彫りに 避難計画の“前提”は変わる?原発周辺市町村、議論の行方注視
・原発事故時の「屋内退避」は現実的か?すれ違う自治体と原子力規制委員会
報告書案は2月5日に開かれる会合で示される見通し。規制委は2024年1月の能登半島地震などを受け、.屋内退避の見直しに着手。地震などの自然災害の防災は内開府所管であることを理由に触れず、自治体や住民の負担軽減を図るテーマに絞り議論してきた。
これに対し、規制委の山岡耕春委員から「所管を越えても、国としてはどこかが考えるべきだ。提案を入れられるなら、入れた方がいい」との意見が上がっていた。
原発から半径5~30キロ圈の避難準備区域(UPZ)の住民は、原発事故時に自宅や避難所への屋内退避を原則とする。本県など立地地域の自治体担当者らからは、地震により家屋倒壊が相次ぐ中で屋内退避ができるのか疑問視する声が上がっている。
既に国は自宅へ屋内退避できなくなった場合、近隣の施設やUPZ外へ避難するなど、自然災害対応を優先するよう求めているが、それ以上の深掘りはされていないのが実情だ。規制委側が複合災害対策の考えを明確に示すことで、国側の取り組みが加速する可能性がある。