地震や火山噴火、避難計画の実効性が主な焦点で注目された川内原発1・2号機)の運転差し止めを求めた「原発なくそう!九州川内訴訟」で21日、鹿児島地裁は原告の請求を退ける判決を出しました。
原発の安全性については、原子力規制委が基準に適合すると判断したものには安全性が備わっていると「一応推認するのが相当である」として、そこで思考を停止すれば良いと諭しています(これでは運転差し止めの訴訟そのものが成り立たなくなります)。
また火山などについては、「具体的危険性は認められない」としていますが、火山噴火が予知できないものであることは既に常識であり、具体的な予知を要求する方が無理です。判決は近傍の火山の過去の噴火が原発の敷地にどう影響し、それは「火山条項」の規制と関わるのか否かを判断するべきです。
「避難計画等の実効性の有無にかかわらず、原告らの人格権が侵害される具体的危険性があるとはいえない」というのも理解不能の表現で、複合災害の時は逃げ場がないという避難計画の不備を判決は回避しています。
注「人格権」とは、人の生命や身体、自由、名誉、貞操、信用など人格と切り離すことのできない利益を守る権利となっています。
原告側が、「判決は原告が危険だということを立証しない限り安全だとしている。断じて許容できない」と控訴するのは当然です。
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川内原発「危険」認めず 鹿児島地裁原告「屈しない」
しんぶん赤旗 2025年2月23日
国と九州電力を相手に地元住民などが川内原発1・2号機(鹿児島県薩摩川内市)の運転差し止めを求める「原発なくそう!九州川内訴訟」で、鹿児島地裁(窪田俊秀裁判長)は21日、原告の請求を退ける判決を出しました。判決後、原告、弁護団、支後者は地蔵前で 「不当判決」「私達は屈しない」の幕を掲げました。
地震や火山噴火、避難計画の実効性などが主な争点。判決は原発の安全性について「社会通念を基準として判断すべきもの」と指摘。原子力規制委員会が基準に適合すると判断した原発は安全性が備わっていると「一応推認するのが相当である」としています。地震、火山などについて「具体的危険性は認められない」「避難計画等の実効性の有無にかかわらず、原告らの人格権が侵害される具体的危険性があるとはいえない」としました。
判決後の報告集会で、原告団長の森永明子さん=薩摩川内市=は「大変なことが起きる前に止める決断を国でも司法でもしないといけない。福島の原発事故の現実から目をそらさないでほしい」と語りました。
弁護団の森雅美共同代表は「判決は原告が危険だということを立証しない限り安全だとしている。断じて許容できない」と控訴する方針を示しました。
川内原発1号機は昨年7月、運転開始から40年を迎え、運転延長期間に入りました。2号機も今年H月に40年になります。
九州電力川内原発の運転差し止め認めず「具体的な危険性があるとは認められない」…鹿児島地裁判決
読売新聞 2025/2/22
九州電力川内原子力発電所1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)について、鹿児島、宮崎、熊本県の住民ら約3000人が運転差し止めなどを九電と国に求めた訴訟で、鹿児島地裁は21日、原告側の訴えを退ける判決を言い渡した。窪田俊秀裁判長は同原発について「地震や火山に対する安全性を欠いているとはいえず、具体的な危険性があるとは認められない」と述べた。原告側は控訴する方針。
住民らは東京電力福島第一原発の事故翌年の2012年5月に提訴。火山や地震の想定や安全対策が十分かどうかなどを主な争点に12年以上にわたって審理された。
判決はまず、原発の安全性について「社会がどの程度の危険を容認するかという社会通念を基準として判断すべきもの」との考えを示し、その上で各争点を検討した。川内原発周辺のカルデラ火山に関し、「破局的噴火の可能性が十分に小さい」とした九電側の評価について、判決は「相応の科学的根拠に基づくもので、(原子力規制委員会が安全審査に用いる)火山ガイドとも整合する」と指摘。この九電の評価を妥当とした規制委の判断にも不合理な点は認められないとした。
また原告側は、九電が定めた基準地震動(想定される最大規模の揺れ)について、「過小に評価されている」と主張していたが、判決は「不確かさを考慮して適切に策定されている」と判断した。原告側が実効性の欠如を訴えた避難計画についても、具体的な危険性が認められないとして退けた。国に対して求めていた九電への運転差し止めについては、一般の民事訴訟ではなく、行政事件訴訟法に基づく訴訟の対象で、「訴えが不適法」として却下した。
政府が原発について積極的な活用に政策を転換する中、鹿児島地裁の判断が注目されていた。
原告側憤り「許容できない」
判決後、原告側が鹿児島市内で開いた報告会で、弁護団長の森雅美弁護士は判決について「原告側が危険(性)を具体的に立証しない限り安全と言い切る判決であり、許容することはできない」と憤った。
九州電力も同市内で記者会見し、金田薫司・原子力訴訟担当部長は「非常に長期間の裁判で多くの争点が提起されたが、丁寧に証拠を示してきた。裁判所にご理解いただけた」と述べた。原子力規制委員会は「新規制基準への適合性審査を厳格に進め、適切な規制を行っていく」としている。
判決は国の判断任せ、憤る住民「司法は逃げた」 川内原発運転差し止め訴訟は〝門前払い〟 避難計画の実効性に踏み込まず
南日本新聞 2025/02/23
「避難計画の実効性の欠如にかかわらず、原告らに具体的危険性があるとはいえない」。九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の運転差し止めを認めなかった21日の鹿児島地裁判決。住民側が求めていた実効性の検証はゼロ回答だった。原子力災害はパニックや複合災害も想定されるため、避難計画が現実的かは裁判にかかわらず疑問視され続けてきた。数ある争点の中で、地域住民が抱える不安との温度差が最も激しい判断を下したといえる。
地震や火山噴火など自然災害によって、放射性物質の放出を伴う重大事故が起きる「具体的危険の存在」を先に否定。避難計画に踏み込まない根拠にもした。住民側で避難計画を争点化した後藤好成弁護士は「ひきょうだ。裁判で示した課題から逃げた」と憤る。
判決の理屈だと、重大事故は起きないのだから避難計画を点検する原子力防災訓練などは行うまでもないと論じるのと変わらない。
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判決の1週間ほど前、薩摩川内市など30キロ圏の9市町を中心に国の原子力総合防災訓練が開かれた。放射線被ばく者が出る重大事故を想定。孤立地区が発生した能登半島地震も踏まえ、ヘリやゴムボートによる避難、インフラ対策などの手順を確認した。複合災害が念頭にある。
県をはじめ参加機関は、訓練で課題を洗い出す計画。参加した住民からは「現実に起きたらパニックになる」「風向きによっては被ばくは避けられない」と不安が聞かれた。避難道路の整備を求める声もあった。
そもそも能登半島地震では、運転停止中だった北陸電力志賀原発(石川県志賀町)の周辺で放射線防護施設が相次ぎ損壊。かつて原発建設計画があった同県珠洲市の海岸は隆起に見舞われた。重大事故を紙一重で免れた可能性は否定できない。
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今回の判決は、住民側が訴えた避難計画や複合災害対応に見解を示さなかった。「踏み込んで検討すると、成り立たないことが明確になるから」。志賀原発訴訟の北野進原告団長(65)は、国が緊急時の対応に関わっているので大丈夫という安全神話が底流にあると推測する。
原発の安全性の要求水準に、判決が「社会通念」を持ち出したことにも異論を唱える。「複合災害が起きたら逃げられないことこそが、社会通念ではないか。当てはめる先が違う」
NPO法人「原子力資料情報室」の松久保肇事務局長(46)は原発訴訟の判決について、行政の基準や判断に立ち入らない福島第1原発事故以前に戻る傾向があると指摘。「三権分立は相互がけん制するから機能するのに、司法は放棄している。原発にとどまらない、ゆゆしき問題だ」と嘆いた。
(連載「門前払いの衝撃~川内原発停止認めず」㊥より)
川内原発差し止め訴訟判決は、火山リスクで科学的検討深めず国の主張に“お墨付き” 住民側は「反論山ほど。このままでは終われない」
南日本新聞 2025/02/24
阿蘇、加久藤・小林、姶良、阿多、鬼界-。
九州電力川内原発(薩摩川内市)への影響が懸念されている五つのカルデラである。活動に変化がないか、監視の対象になっている。桜島の大噴火に伴う降灰なども加え、火山のリスク評価は運転差し止め訴訟の注目の争点だった。
差し止めを認めなかった判決は、住民側の「マグマだまりを把握するのは困難で、カルデラ噴火に周期性はなく予知できず危険だ」といった訴えを退けた。国・九電側の「運用期間中に破局的噴火が起きる可能性は極めて低い」とする主張に“お墨付き”を与えた形になった。
判決は火山をはじめ争点に対し、積極的に科学的・専門技術的検討を深めるというよりも、国の基準などの合理性を全体的に認めた延長線で判断を下した。「不合理とはいえない」。これが提訴から13年近くを経ての着地点。住民側で火山を担当した大毛裕貴弁護士は「結論ありき。火山学を踏まえていない最低の判決だ」と言い切る。
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川内原発を巡っては、火山リスクに特化して住民らが国に設置許可取り消しを求めた行政訴訟が福岡高裁で係争中だ。国側は両訴訟をにらんでか、今回の判決に向けては火山を「本訴訟における主要な争点」とあえて位置付けていた。
一方、住民側。行政訴訟の原告でもある薩摩川内市の鳥原良子さん(76)は判決に落胆しつつ、国の不合理さを追及できたとして「行訴はいい感じにいくと思う」と期待をつなぐ。もちろん、「ほかの原発裁判に影響が出るのでは」との心配は尽きない。
判決に駆け付けた玄海原発訴訟の住民側弁護団・東島浩幸弁護士も「九電側は今回の判決を玄海訴訟に使うだろう」と懸念する。「複合災害の時は逃げ場がないといった避難計画の不備を今後も訴えていく」と気を取り直した。
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住民側は判決を不服として控訴する方針だ。2月、国は原発回帰が鮮明なエネルギー基本計画を閣議決定するなど、脱原発を取り巻く環境は厳しさを増している。それでも、弁護団の森雅美共同代表は全国で原発訴訟が続いていることを念頭に「壁を突き破るために続ける」と、腹をくくる。
原告3036人が47都道府県に広がる意味も大きいとする。報告集会に参加した宮崎市の原告男性(72)は「ひとたび事故が起きれば、鹿児島だけでなく日本全体に影響しかねない。控訴審を注視したい」と語る。
「3000人の原告たちが納得できる結果ではない。このままでは終われないという気持ちにさせられた」。白鳥努弁護士は続ける。「反論したいところは山ほどある。控訴の理由書は膨大な量になるだろう」