2025年2月27日木曜日

「なぜ私は東京都と争わなければならないのか」~疑問だらけの避難住宅追い出し訴訟

 福島原発事故以降、国(規制委)は年間の被曝量20ミリシーベルト(mSv)以下であれば(妊婦や乳幼児を含めて)そこに居住できるとして、その区域内から他所に転出した居住者たちを「自主避難者」と呼んで事ごとに差別して来ました(田中俊一初代規制委員長は「勝手に逃げ出した人たちなので保護する必要はない」と明言)。
 一方で、国は3ヶ月で13mSv(年間5・2mSv)を超えるおそれがある区域を「放射線管理区域」に指定し、そこに一般人が入ることを禁じているので、その4倍ほどの被爆量を「安全」と称する矛盾は明瞭です。
 国がいまだに「原子力緊急事態宣言」を撤回しないのは、そうすれば「自主避難者」の放置が許されなくなるからだと推測されます(年間被曝量20mSvを安全とする国は日本以外にはありません)。国は自主避難者に対する住居手当を早々に打ち切っただけでなく、国家公務員住宅からの追い出しについても全く躊躇しません。

「レイバーネット日本」が、昨年がんに罹患し10回の入退院をくり返した鴨下さんに対する国家公務員住宅からの追い出し訴訟(東京高裁控訴審)を報じました。その訴訟は不思議なことに、国家公務員住宅の所有者である国が原告ではなく、無関係の都が原告になっているということです。
 鴨下さんは10分の予定だった被告人最終陳述を5分に削られた中で、避難を続けなければならず明け渡しに応じることが出来なかった理由を刻銘に語り、陳述が終わると傍聴席から大きな拍手が起きました。
 その後、原告側(関東財務局、都の担当者ら)の主張を聞きたいという要求について、裁判長は「却下」の一言を告げ、判決日だけを言い渡し閉廷しました。
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「なぜ私は東京都と争わなければならないのか」~疑問だらけの避難住宅追い出し訴訟
                       レイバーネット日本 2025-02-23
堀切さとみ 
 2月20日、東京高裁で「避難住宅追い出し訴訟」の控訴審が行われた。
 福島第一原発事故は、原発周辺だけでなく、膨大な量の放射能をまき散らした。14年経った今も、放射線管理区域の基準を大きく超えたままの区域は多い。避難指示が出されず自力で避難した人たちに、唯一保障されていた住宅の無償提供。それさえも2017年3月に打ち切られた。
 いわき市から東京都の国家公務員住宅に身を寄せていた鴨下裕也さん。実家の放射線量は依然として4万ベクレル/㎡で、帰ることなどできない。「避難住宅から追い出さないでほしい」と訴えてきたが、2022年2月東京都は鴨下さんを提訴。2024年10月7日の東京地裁の判決は「損害金の全額支払い」「訴訟費用は被告が負担」「仮執行を認める」という都の担当者の請求通りの内容だった。

 避難者いじめ以外の何物でもない判決を不服として、鴨下さんは控訴した。この日101号法廷では、彼の意見陳述のみが行なわれた。昨年がんに罹患し、10回の入退院をくり返した鴨下さんだが、声は力強かった。10分の予定が5分に削られた陳述の中で、避難を続けなければならず、明け渡しに応じることが出来なかった理由を刻銘に語った。陳述が終わると、傍聴席から大きな拍手が起き、裁判長は意外にもそれを咎めることはなかった。
 しかしその後、原告側(関東財務局、都の担当者ら)の主張を聞きたいという要求について、裁判長は「却下」の一言を告げたのだ。そして控訴審は結審。「理由を!」という声があったものの、裁判長は無視。判決日だけを言い渡し閉廷した

 住宅提供打ち切り以来、福島県は避難住宅からの退去を迫り、応じない避難者への損害賠償請求裁判を続けてきた。被害者であるはずの避難者を被告席に立たせるという暴挙である。そんな一連の裁判の中でも、今回はさらに奇妙であることがわかった。
 鴨下さんは意見陳述の中でこう言った。「私は今も疑問に思い続けている。なぜ私は東京都と争わなければならないのでしょうか
 国家公務員住宅は国の所有物なのだから、明け渡しを請求するのは国であるべきだ。しかし、鴨下さんを訴えているのは東京都なのである。
 一体なぜなのか。そして、原告である東京都はどんな損害を被ったのか。
 裁判後の報告会でわかったのは、次のことだ。
 鴨下さんが交渉していた東京都の担当者は、住宅提供打ち切り後も「独自に無償提供します」と言ってくれていた。先が見えない避難生活を慮ってか、紳士的な対応だったという。しかし2022年に入り「国から損害金を請求されたために、裁判を起こさざるをえなくなった」と説明されたという。訴訟など起こされてはたまらないと、鴨下さんはやむなく公務員住宅を出たが、それでも事態は収まらなかった。
 更にはその後、都は1円も国に支払っていないこともわかった。国から一度も請求が来ていないからだ。実際には「明け渡しが進まないうちは国に対して損害金を支払う」という確認書が交わされただけである。
 発生していない損害を請求する。そんな訴訟が成立してしまっているのだ。

 鴨下さんは意見陳述の中で訴えた。「国は、避難住宅の居住者の避難元が汚染されたままなのにも関わらず、それを無視して私たちを避難住宅から追い出すことを都に強要したように受け取れました。この裁判に至る経緯の中で、避難当事者である私たちを無視して、国と東京都の間でどのような取り決めがなされたのか。この裁判で明らかにしていただきたい」

 鴨下さんの訴えを黙殺して、裁判は結審した。落胆、失望は否めない。
 この裁判が示すものは明らかだ。国は自らの手を汚さず、敵でなかった人を敵にさせてしまう。どこまで避難者を蹂躙すれば気がすむのだろう
 判決は5月8日11時20分から、東京高裁101号法廷で言い渡される。