2019年3月10日日曜日

100ミリシーベルト安全説がまた復活!?

「100ミリシーベルト閾値」説というものがあります。それは被曝100ミリシーベルトまでは人体に発がんのおそれはなく、それを超えると徐々にがん発病の確率が上昇するというもので、理解はしがたいものの原発推進者には便利な理論で、福島原発事故の翌月、県立福島医大の特命教授として突如登場した山下俊一氏らによって盛んに強調されました。
 それは、原発事故までは1kg当たり100ベクレルの物質は「放射性物質」としてドラム缶内等で厳重に保管が義務付けられていたものが、事故後は1kg当たり8000ベクレルに引き上げられ、代わりに1kg当たり100ベクレル以下であれば安全な食品と見做されるように変えられ、それまでは年間1ミリシーベルトが被曝の限度とされていたものが、20ミリシーベルトまでであれが安全に居住できるとされ、それ以下の地域から県外に転居した人たちを「自主避難者」として法律で様々に差別したのと、軌を一にしたものでした。その一方で、年間5ミリシーベルト以上被曝するエリアを「放射線管理区域」とする法令は現在も生きています。
 原発事故を機に日本は正に無法国家に変わりました。
 
「100ミリシーベルト閾値論」については良心的な研究者は勿論認めないし、その説を否定する事例や見解は世界の研究機関から色々と出されています。
 一時はなりを潜めていた「100ミリシーベルト安全説」が、ここにきてまた復活しつつあるということです。
 東京新聞がそれに警告を発する社説を出しました。
 
 なかでも最も許せないことは、原子力規制委が昨年10月、原発事故後1週間の被ばく線量の目安を100ミリシーベルトに決めたことです。
 それは極論すれば、乳児・幼児を含めて住民が避難に何十時間かかろうが何日掛かろうが問題ないということで、自治体が実効性のない避難計画を立てたとしても健康上問題ないとして容認しようとするものです。
 こうして規制委はまさに新たな無法を展開しようとしていますが、東京新聞は立地自治体や周辺自治体の住民にとって、原発事故で被ばくするリスクに見合うメリットは何もない以上、原発に起因する被ばく「許容量」は存在しないと述べています。明解です。
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【社説】 3・11から8年 100ミリシーベルトを神話にするな
東京新聞 2019年3月9日
 福島第一原発事故を招いたのは、安全神話に依存した結果だった。今また、一〇〇ミリシーベルトという新たな神話が原子力ムラを徘徊(はいかい)しているようだ。
 原発事故の影響についてよくいわれる言葉がある。
 「一〇〇ミリシーベルト以上被ばくした住民はいない。一〇〇ミリシーベルト未満なら放射線の影響は考えにくい」
 だが、その説明が揺らいでいる。
 1号機が爆発した二〇一一年三月十二日午後三時半すぎ。福島県双葉町で十一歳の少女が友だちと屋外で遊んでいた。放射線医学総合研究所が少女の被ばく線量を一〇〇ミリシーベルト程度と推計していた。本紙が今年一月に報じた。
 
◆避難開始は早く
 旧ソ連のチェルノブイリ事故では未成年者の甲状腺がんが多発した。原因は主に放射性ヨウ素131だが、半減期が八日と短い。国が行った調査は一一年三月下旬で、対象は三十キロ圏外にいた十五歳以下の千八十人。避難が遅れた人の存在は無視された旧ソ連はチェルノブイリ原発事故で数十万人を調べたという。
 
 実測だけではない。被ばく線量の推定も難しかった。東大や国立環境研究所などの研究チームが福島県などに設置された浮遊粒子状物質(SPM)計に使われていたテープ濾紙(ろし)を百一カ所から集め、精緻な方法でヨウ素131の挙動を調べることに成功し、発表した。
 研究では同県内全市町村と、十八通りの避難ルートについて、一歳児の被ばく線量を推定した。呼吸だけで、食事や飲料水による摂取は含まれていない。爆発が起きた十二日に双葉町の屋外にいて、同日夜、避難を始めたケースは、最大八六ミリシーベルトだった。避難開始時間や避難ルートによって被ばく線量は変わるが、少女や友だちが大量被ばくした可能性は高い。
 双葉町は国や東京電力からの情報がなく、避難が遅れた。井戸川克隆町長(当時)は町民の避難を進めている最中に爆発が起きたと本紙に語っていた。一〇〇ミリシーベルト以上の被ばくをした住民がいるかもしれない、と考えるべきである。
 
◆少量でもリスク
 健康への影響はどうだろうか。
 米国立がん研究所は一昨年、小児甲状腺がんに関しては被ばく線量が一〇〇ミリシーベルト以下でもリスクがある、という論文を出した。五〇ミリシーベルトの被ばくでは、被ばくしていない人に比べるとリスクが一・五倍になる。
 医療被ばくは近年、世界的な関心事である。被ばくのマイナスより早期発見など、医療上のプラスの方が大きいとして制限は設けられていない。
 厚生労働省は一昨年、「医療放射線の適正管理に関する検討会」を設置した。海外の研究を基に(1)被ばくの影響は年齢によって多少、差があるが、相対的リスクは二十歳未満が高い(2)皮膚がん、乳がん、脳腫瘍、甲状腺がんは影響が強い-という。
 医療機器による被ばく量は結構、大きい。コンピューター断層撮影(CT)検査は一回で一〇ミリシーベルト程度被ばくする。低線量でもがんになるリスクがあることを前提に議論している。
 
 子力規制委員会は昨年十月、原発事故後一週間の被ばく線量の目安を決めた。自治体が作る住民の避難計画に生かすためだが、その数値は一〇〇ミリシーベルトだった
 更田豊志委員長は記者会見で「福島の事故で多くの人命が損なわれたのは、十分に計画されていなかった避難を強行した」からとして「高齢な方であれば、無理な移動の方が数百ミリシーベルトの被ばくより危険です」と語っている。
 たとえ高齢者や入院患者には避難よりも屋内退避の方が良くてもスタッフはどうなのか。病院を支えるのは医師、看護師だけではない。福島では派遣会社がスタッフの派遣をやめ、調理や清掃に苦労した病院もあった。
 
 東大などの研究では、事故後、原発立地自治体の大熊町や双葉町に滞在し続ければ、最大一〇〇〇ミリシーベルトを超える被ばくをしていた。屋内退避で防ぐのは難しい。今回の目安は、規制委と医学界との間には認識のズレがあるのではないか、と疑わざるをえない。
 
◆適正管理はない
 厚労省が検討しているのは、適正管理。つまり、メリット、良いこととデメリット、悪いことの比較だ。
 立地自治体や周辺自治体の住民にとって、再稼働後、事故で被ばくするリスクに見合うメリットはあるのだろうか。メリットがなければ、受容できる被ばく量などはないはずだ。一〇〇ミリシーベルトの目安は、原子力ムラにとって都合がよいだけではないか。そうなら、原発が人と共存できないことを端的に示しているのだろう。