2019年3月16日土曜日

宮城県議会、女川原発再稼働・住民投票条例案を否決

 東北電力女川原発2号機の再稼働の是非を問う住民投票条例案について、宮城県議会15日の本会議で議案を採決し、自民党・県民会議、公明党県議団などの反対で否決しました。
 議員57人のうち、反対は自民会派30人と公明会派4人、21世紀クラブ1人の計35人。賛成は旧民進党系会派のみやぎ県民の声9人、共産党県議団8人、社民党県議団2人、無所属の会2人の計21でした。自民会派の1人が採決前に退席しました。
 
 これで国内で行われた原発再稼働に関する住民投票条例制定の直接請求は6すべてが議会で否決されました。これは住民投票自体を行わせないもので、住民と議会との間に問題意識の乖離があると思われます。議員は原発の賛否だけで選出したのではないとはいえ残念なことです。
 
 河北新報は、14日に行われた県議会の総務企画、環境生活農林水産の両委員会連合審査会の様子を詳報しています。併せて紹介します。
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<女川再稼働> 宮城県議会、住民投票条例案否決 自民など反対多数
 河北新報 2019年3月16日
 東日本大震災後に運転を停止している東北電力女川原発2号機(宮城県女川町、石巻市)の再稼働の是非を問う住民投票条例案を巡り、宮城県議会2月定例会は15日の本会議で議案を採決し、最大会派の自民党・県民会議、公明党県議団などの反対で否決した。
 
 東京電力福島第1原発事故後、原発再稼働に関する住民投票条例制定の直接請求は宮城を含め計6件あったが、いずれも議会で否決されている。
 議長を除く議員57人のうち、反対は自民会派30人と公明会派4人、21世紀クラブ1人の計35人賛成は旧民進党系会派のみやぎ県民の声9人、共産党県議団8人、社民党県議団2人、無所属の会2人の計21人だった。自民会派の1人が採決前に退席した。
 
 原案の採決に先立ち、野党側は公務員による意見表明が可能とした項目を削除するなどした修正案を提出したが、自民、公明両会派などの反対で否決された。
 与野党会派の計4人が討論に立った。県民の声の佐々木功悦氏は賛成の立場で「県民が意思を表明する機会を逸しない判断をするべきだ」と訴えた。
 自民会派の村上智行氏は二者択一方式に課題があると指摘し「県民の再稼働に対する思いを十分くみ取りきれない恐れがある」と反対理由を説明した。
 村井嘉浩知事は本会議終了後の取材に「結果を受け止める。再稼働を巡る判断などで答えを出す際、県民の代表である県議会や立地自治体の首長などとよく話し合い、私なりの考えをまとめたい」と述べた。
 
 条例制定を請求した市民団体「県民投票を実現する会」の多々良哲代表は「署名した11万人の願いを受け入れず、県民が意思表示する機会を奪った。議会と知事の責任は非常に重いと自覚してほしい」と述べた。
 
 
<女川再稼働> 住民投票 「全県リスク高い」「政治参加の手段」
        審議白熱5時間に 宮城県議会連合審査会
河北新報 2019年3月15日
 東北電力女川原発2号機(女川町、石巻市)の再稼働の是非を問う住民投票条例案を14日に審議した宮城県議会の連合審査会では、総務企画、環境生活農林水産の両委員会の議員らが住民投票の在り方や選択肢などについて持論を展開。審議時間は約5時間に上った。
 
 女川原発がある立地自治体の選出議員は地元と他の地域が同一条件で投票することを疑問視。自民党・県民会議の本木忠一氏は「立地自治体は原発と共存してきた。他の自治体とは温度差がある」と指摘した。
 同会派の畠山和純氏も「被災地最大の課題である産業を維持する上で、原発再稼働は大きな問題。(住民投票について)立地自治体の意思を聞かず、県全体で実施することはリスクが高い」と主張した。
 
 住民投票の実現を訴える野党会派は、実施に消極的な与党議員の意見や執行部の説明に対して攻勢を強めた。みやぎ県民の声の藤原範典氏は「住民投票は間接民主主義を補完し、住民の政治参加の手段としても意義がある」と強調した。
 社民党県議団の熊谷義彦氏は「福島の原発事故で今も苦しんでいる人たちの痛みや苦しみを受け止め、しっかりと議論を尽くすべきだ」と求め、結論ありきの審議にくぎを刺した。
 野党会派の修正案協議の中でも論点となった選択肢に関し、公明党県議団の庄子賢一氏は「2択にして多様な県民の声が反映できなければ、投票率が下がる」と懸念を示した。
 共産党県議団の角野達也氏は村井嘉浩知事が条例案に付けた意見を踏まえ「100人いれば100通りの考えがある。3択にすれば知事の懸念はクリアできるのか」と批判した。
 連合審査会の開催は1976年以来、43年ぶり。午前10時40分に始まり、2回の休憩を挟んで午後5時に閉会した。会場の議会棟大会議室と議会棟1階ロビーで計約170人の傍聴者が議論を見守った。
 
◎意見陳述要旨
<意思表示の機会、当然/県民投票を実現する会代表 多々良哲氏>
 原発再稼働問題は国策と言われるが、人権問題でもある。原発が必要なエネルギーと言うならば、古里を失うリスクや子どもたちの健康を損なうリスクを引き受けた上で、国策に協力するのかが問われる。誰もが当事者となる重大問題について、県民が意思表示の機会を求めるのは当然だ。
 県議会の議論と県民投票を対立的に捉える必要はない。県民投票の実施は議会に対する県民の関心を高め、議会での議論を活性化することに寄与する。県民投票は間接民主制を補い、地方自治をより豊かにする
 女川原発2号機再稼働に国の合格が出れば、東北電力からの事前了解の申し入れに対し、知事は了解するかどうか2択で回答する。知事の政治的意思決定に県民の意向を反映させる県民投票も、2択が原則だ。県民にさまざまな情報が提供されれば、賛成か反対かを判断する力は十分ある。
 
◎参考人意見要旨
<県民の信託応える判断を/成蹊大法科大学院教授 武田真一郎氏>
 住民投票は中立的制度だ。住民は原発再稼働に賛成、反対両方の意見を聞き、比較して一票を投じる。東北電力など再稼働推進派にとっても県民理解を得る絶好のチャンスとなる。
 間接民主制では首長、議員が住民の望まないことをしようとしてギャップが生じることがある。埋めるための直接民主制として住民投票が求められている。宮城ではギャップは生じていないが、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故を目の当たりにし、県民意見を聞いてほしいとなった。
 選択肢を賛成、反対の2択にしたのは適切だ。住民投票は世論調査ではなく政策決定のために行われる。原発再稼働にはするかしないかしかあり得ない。
 県民代表の県議会が県民の意見を聞かない理由はなく、聞くことに何ら損失もない。署名には県民の思いが託されており、信託に応える判断をしてほしい。
 
<安易に決めれば禍根残す/東北大大学院准教授 河村和徳氏>
 今回の住民投票条例案は不備が多すぎる。二元代表制との整合性の議論が足りない。盲目的に住民投票に賛意を示すと議員は不要となりかねない。安易に決まれば政局になり、禍根も残す。混乱を招き、東日本大震災の復興が遅れる。
 意見を聞くだけなら世論調査という代替措置もある。市町村の手を借りないと執行できないが、被災自治体の負担は大きい。原発30キロ圏内の緊急防護措置区域(UPZ)の7市町から投票実施を拒否されたらどうするのか。決めておかないと県議会の怠慢となる。
 選択肢の議論も不足している。二者択一では少数の声を聞くのは難しい。脱原発は時間軸が重要論点。今すぐ廃炉か、条件付き再稼働かなど多様な声がある。
 国や東北電力にどう対応するのか。訴訟リスクもある。県議会は条例を定める以上、説明責任がある。厳しい未来も描くべきだ。