2021年11月8日月曜日

行き詰まった核燃料サイクル 施設の廃止作業は遅れ、工場完成は見通せず

 原子力政策の柱とする「核燃料サイクル」が行き詰まっています。

 一つは使用済み核燃料からプルトニウムなどを取り出す六ケ所村の再処理工場完成が見通せないことです。当初用いた基準地震動は古い基準に基づいていて、新基準で再計算すると1・4倍に上がりました。これは建物や機械設備の強度に跳ね返るので、過去半年間の審査が振出しに戻りました。22年の再稼働は無理です。
 また日本原研開発機構の東海再処理施設は18年に廃止作業が始まっていますが、再処理の過程で出た濃厚廃液約360トンのガラス固化がガラスを溶かして廃液と混ぜる溶融炉の運転がうまくいかず、年内に60本のガラス固化体を造る予定は13本にとどまり、28年度までにあと551本を造る計画は遅れる可能性があります。
 また強い放射線を受ける溶融炉は、全ての廃液を処理する前に寿命を迎えるということで、これへの対応も必要になります
 総額16兆円が掛かると算定されている再処理工場には何のメリットもないと言われていますが、現実に何一つうまくいっていません。(10兆円上回るという説も)

 岸田首相の核燃料の再処理についての認識不足に関する記事も併せて紹介します。
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行き詰まった核燃料サイクル 施設の廃止作業は遅れ、工場完成は見通せず
                         東京新聞 2021年11月7日
 政府が原子力政策の柱とする「核燃料サイクル」が行き詰まっている。中核を担う原発の使用済み核燃料からプルトニウムなどを取り出す再処理工場は完成が見通せない。稼働した施設の廃止作業も放射性物質を含む廃液処理すら進まない。岸田文雄首相は脱炭素社会に向け二酸化炭素を排出しない原発の維持姿勢を示すが、核燃料サイクルの見直しは避けられない。(小野沢健太、小川慎一)

◆トラブル続きで2022年度稼働は困難
 「早く終わりたいがために、この程度でいいだろうという気持ちでやっている」。9月の原子力規制委員会定例会合で、原子力規制庁の審査担当者は、核燃料サイクルの施設を担う日本原燃(原燃)を批判した。
 原燃は当初、再処理工場(青森県六ケ所村)などの稼働に必要な設備の設計や工事計画の審査で、耐震性を決める際に10年以上前の地盤データを使った。
 だが規制庁は認めず、原燃が新規制基準の審査で使ったデータで再計算すると、地震時の揺れは当初想定の1.4倍に上がった。規制庁の審査担当者は「(これまでの)半年分の審査が振り出しに戻った」とあきれる。
 1993年に着工した再処理工場は、トラブル続きで25回も完成を延期。原燃は2022年度の稼働計画を崩さないが、「普通に考えて難しい」と規制委の更田豊志委員長は7月の記者会見で指摘した。核燃料サイクルは担い手の力量不足が深刻な状況にある。

◆施設の廃止も想定外の遅れ
 再処理は施設の廃止でも壁にぶつかっている。日本原子力研究開発機構の東海再処理施設(茨城県東海村)は18年に廃止作業が始まったが、再処理の過程で出た極めて放射線が強い廃液約360トンのガラス固化が進んでいない
 廃液は発熱し、保管に必要な冷却設備が故障すれば、最短1日程度で沸騰し放射性物質が外部に漏れ出す事故につながりかねない。ガラス固化はリスクを下げる。
 ところが、ガラスを溶かして廃液と混ぜる溶融炉の運転がうまくいかない。今年8月に約2年ぶりに運転再開したが、2カ月で中断。想定よりも早く溶融炉の底に残留物がたまった。年内に60本のガラス固化体を造る予定は13本にとどまり、28年度までにあと551本を造る計画は遅れる可能性がある。
「不退転の決意で臨んでもらわないと困る」。更田委員長は10月、機構幹部との面談で念押しした。強い放射線を受ける溶融炉は、全ての廃液を処理する前に寿命を迎える
 機構は高性能な炉の開発を同時に進めているが、遅れた場合は「70年、国費約1兆円かかる」と見込む廃止計画全体への影響が必至となる。
核燃料サイクル
 原発の使用済み核燃料から再処理という化学処理でプルトニウムやウランを取り出し、混合酸化物(MOX)燃料に加工して原発や高速増殖炉で再利用する仕組み。高速増殖炉は使った以上のプルトニウムを生み出す夢のような計画だが、原型炉もんじゅ(福井県)の廃炉で頓挫した。放射性廃棄物の有害度を下げる高速炉の開発に転換したが、実用化のめどは立っていない


岸田首相、核燃料サイクルへの認識の甘さ露呈 「止めるとプルトニウムが積み上がってしまう」
                          東京新聞 2021年11月7日
 政府が原発の核燃料を繰り返し使えるかのように宣伝してきた「核燃料サイクル」政策は破綻が明らかにもかかわらず、巨額が投じられ続けている。(小川慎一)
 9月の自民党総裁選ではその是非が争点となったものの、政策の維持を主張した岸田文雄首相は討論会で図らずも認識不足を露呈した。
 日本の原子力政策の柱である核燃料サイクルは、事実上首相を決める自民党総裁選で話題となった。立候補した河野太郎前行政改革担当相が「再処理を止めるのは1日も早い方がいい」と中止を訴えたからだ。
 9月18日、東京・内幸町の日本記者クラブであった自民党総裁選の4候補による討論会。この場でも河野氏は核燃料サイクルについて「再処理してもプルトニウムの使い道がなかなかない」と中止を主張した。
 一方、岸田首相は「核燃料サイクルを止めるとプルトニウムがどんどん積み上がってしまう」と発言。日本は核兵器保有国以外で唯一、核兵器の材料となるプルトニウムを所有して核燃料サイクルを推進しており「外交問題にも発展する」と懸念を示した。
 だが、実際は逆だ。再処理でプルトニウムを取り出さなければ量は増えず、積み上がることはない
 現行計画では、取り出したプルトニウムはウランとの混合酸化物(MOX)燃料にする。この核燃料を使う「プルサーマル発電」ができる原発は現状4基で、プルトニウムの消費量が少ない。日本はプルトニウム約46トン(英仏保管分約37トン)を保有し、既に積み上がっている状態だ。この削減が最優先だ。
 日本原燃再処理工場(青森県六ケ所村)は建設費だけで3兆円超と、既に当初の4倍に。これを含めて核燃料サイクルには消費者が支払う電気代を通じて16兆円が投入される計画だが、実現が見通せない中で費用は膨らみ続けている。