2023年9月9日土曜日

すでに1400億円…海洋放出強行の高すぎた代償 コストは青天井!

 日刊ゲンダイが掲題の記事を出しました。
 アルプス処理水の海洋放出によって中国との溝は決定的に深まりました。水産物で最大の貿易相手国を敵に回したのですから漁業関係者の被害は甚大です。
 因みに22年度の水産物の中国向け輸出額は871億円、香港向けは755億円で合計1626億円。水産物輸出総額に占める中国の比率は22.5%、香港は19.5%、合計42.0%です。1626億円は全体の輸出額(21年度83.1兆円)0・2%ほどですが、水産物輸出総額42%が失われる漁業関係者・同関連業者にとって致命的です。
 日本は中国の意向など無視して最も安価な海洋放出(当初予想額34億円)を選びましたが、現時点での費用は既に1400億円に膨れ上がり、この先数十年乃至100年以上続けば、総額は青天井になります(因みに中国が推奨する水蒸気放出の当初予想額は227~349億円)。
 政府はメンツにこだわるのではなく、税金の無駄遣いを避けるためにも「水蒸気放出」を真剣に考えるべきです。
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すでに1400億円…海洋放出強行の高すぎた代償 中国の“日本パッシング”でコストは青天井!
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 中国に足元を見られている。岸田首相は5日、ASEAN(東南アジア諸国連合)関連首脳会議とG20サミットに参加するためインドネシアへ出発。それに先立ち、岸田首相は官邸で記者団に「現状、中国との対面の会談は決まってはいない」と明かした。汚染水の海洋放出をめぐり、中国との溝が深まる中、解決の手だては一向に見えない。最大の貿易相手国を敵に回してしまい、強行放出の“代償”は高くつきそうだ。
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「複数国間の会談や首脳会談を通じて、透明性を持ってIAEA(国際原子力機関)と協力している日本の取り組みについて説明を尽くしたい」──。海洋放出をめぐり、岸田首相は処理水の安全性をアピールして国際社会を味方につけようと必死だ。しかし、肝心の中国は習近平国家主席のG20欠席を発表。中国による日本の水産物の全面禁輸について、岸田首相と習主席が直接対話する機会はなくなった。
 いくら国際舞台で海洋放出の正当性を訴えても、肝心の中国に相手にされなければ、全面禁輸を解消できるはずもない
 外務省は4日、WTO(世界貿易機関)に対し、「(中国の)輸入停止措置は全く受け入れられるものではなく、即時撤廃を求める」などとする書面を提出。日中両国が締約している自由貿易協定「RCEP(地域的な包括的経済連携)」の規定に基づき、中国政府に討議を要請した。
 しかし、外務省は昨年12月も、福島第1原発事故以来続いてきた中国の日本食品への輸入規制について討議を要請したが、中国側は応じていない。全面禁輸の即時撤廃についても、中国側が討議に応じるとは考えにくい

 中国による露骨な“ジャパン・パッシング”に、岸田政権は猛反発。日本から中国への水産物の輸出額は871億円(2022年)で全体の2割に上るが、「脱・中国依存」を模索。「水産業を守る」と称して、「国内消費の拡大」や「輸出先の転換」など5本柱からなる対策を打ち出した。総額はナント、1007億円にも上る。
 放出強行によって中国の全面禁輸を招き、日本の水産業を危機にさらした岸田政権が「水産業を守る」とは片腹痛い。経産省のALPS小委員会が当初、現実的な処理方法として結論付けたのは「大気放出」と「海洋放出」の2択だったが、コストがかからないなどの理由で政府は海洋放出に決めた
 しかし、コストの安さがウリの海洋放出の費用は34億円だが、海底トンネルや送水管など設備の本体工事を合わせると約390億円に上る。水産業への支援も含めれば、少なくとも約1400億円ものコストがかかる見込みだ。

大気放出なら349億円
肝心の習近平中国国家主席はG20欠席、相手にされなければ意味はない…(C)ロイター
 一方、ALPS小委の報告書(20年2月)によれば、大気放出は349億円。これに工事費用などがかかるとはいえ、中国は海洋放出が始まる前の今年7月、日本政府に「周辺諸国への影響が少ない」として大気放出を検討するよう求めていた
 日本政府がコストや手間にとらわれずに、中国も納得する方法で放出していれば、風評被害で水産業が大打撃を受ける惨状も避けられたのではないか。法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)がこう言う。
「国内外に納得のいく説明もなしに、安易かつコストの安い放出方法を選んだ結果、本来なら不要だった1000億円以上もの税金が費やされています。中国との関係を改善しなければ、海洋放出に伴うコストは青天井です。岸田政権の外交無策による失敗と言わずして何と言うのでしょう。そもそも、中国を仮想敵として敵対関係をあおってきたのに、海洋放出は大目に見て欲しいというのは無理がある。周辺諸国の反発を招き、風評被害に拍車をかけた原因は、海洋放出を強行した政権にある。こんな無策無能に税金を好き放題使われてはたまりません」

 連日、閣僚は国内の水産物に舌鼓を打って安全性をアピールしているだけ。外交無策への反省はないのか