2023年9月9日土曜日

海洋放出差し止めを 福島の住民ら151人、全国初の提訴 福島地裁

 福島第1原発にたまるアルプス処理水の海洋放出を巡り、福島、宮城、岩手県などの住民や漁業関係者ら151人が8日、国に計画の認可取り消しを、東電に放出差し止めをそれぞれ求める訴えを福島地裁に起こしました。海洋放出に絡む提訴は全国で初めてです

 訴えによると、8月24日に始まった海洋放出で「漁獲や水産物販売が著しく困難となるのは明らかだ」と強調し、政府が示した補償方針は損害が生じることの証明であり、違法な認可だと主張しました。そして海洋放出は原発事故被災者への「二重の加害」で、漁業者のなりわいの権利や周辺住民の平穏に暮らす権利を侵害するとしています
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処理水の海洋放出差し止めを 福島の住民ら151人、全国初の提訴 福島地裁
                             河北新報 2023/9/9
 東京電力福島第1原発にたまる処理水の海洋放出を巡り、福島、宮城、岩手県などの住民や漁業関係者ら151人が8日、国に計画の認可取り消しを、東電に放出差し止めをそれぞれ求める訴えを福島地裁に起こした。処理水の海洋放出に絡む提訴は全国で初めて

■原告側「処分方法の検討が不十分」 10月末にも2次提訴
 原告は今後さらに増える見通しで、10月末にも2次提訴を予定する。
 訴えによると、8月24日に始まった海洋放出で「漁獲や水産物販売が著しく困難となるのは明らかだ」と強調。政府が示した補償方針は損害が生じることの証明であり、違法な認可だと主張している。
 さらに、処理水の海洋放出は原発事故被災者への「二重の加害」で、漁業者のなりわいの権利や周辺住民の平穏に暮らす権利を侵害するとしている。
 原告側は、国の基準値以下でも放射性物質トリチウムを含む水を長期間流し続けることで生じる影響や、放出以外の処分方法の検討が不十分だったことなども争点としたい考え。
 福島市で記者会見した原告弁護団共同代表の広田次男弁護士(福島県弁護士会)は「うそを重ねて(海洋放出を)強行する国と東電の姿勢を許すわけにはいかない」と述べた。
 提訴に対し、原子力規制庁は「現時点で訴状の送達を受けておらず、コメントは差し控えたい」、東電は「訴状が届き次第、適切に対処したい」と話した。
 処理水は溶け落ちた核燃料(デブリ)に触れた水を浄化処理した水で、8月末現在の保管量は約134万トン。放出時は大量の海水で薄め、トリチウム濃度を世界保健機関(WHO)の飲料水基準の7分の1以下にする。計画では第1原発の廃炉完了目標の51年まで海に流し続ける。

■原告団「海を汚さないで!」 デモ行進で反対アピール
 「海を汚さないで!」。8日の福島地裁への提訴に先立ち、原告団が福島市内をデモ行進し、東京電力福島第1原発処理水の海洋放出への反対をアピールした。提訴後の記者会見では原告の住民や避難者ら5人が発言し、海洋放出への憤りや悔しさ、不安を語った。
 いわき市の男性は、処理水の放出が少なくとも約30年続くことを問題視。岸田文雄首相らが福島県産水産物「常磐もの」を食べて安全性をアピールする姿に「30年続けられるのかと言いたい」と声を荒らげた。
 同市の織田千代さん(68)は原発事故経験者としての思いを吐露。「これ以上、放射能を広げるなと警告する責任がある」と力を込めた。「望みは基本的なこと」と語り、安心して海や山に親しみ、子どもたちの元気な声が聞こえる暮らしが続くことを願った。
 福島県大熊町から新潟県に避難中の大賀あや子さん(50)は処理水の処分に絡み、大熊町議会が2020年9月に可決した意見書に言及。国民の理解醸成に向けた説明や風評被害対策の拡充などを国に求めたが、議会が住民の声を聞く機会は少なかったという。「(結局)国に従うということは(原発事故前と)変わっていないのか」といぶかった。
 放出が始まった8月24日、岸田首相は「処理水処分が完了するまで政府として責任を持って対応する」と表明した。原告の女性(54)は「孫子のことを考えれば、慎重な行動が求められる」と指摘した。

 記者会見に出席できなかった漁業者の手紙が紹介される場面も。原発事故後、山にあるキノコ類の摂取制限が続く現状に触れ「魚も何年か後にはこうなるのではないかと恐れている」との危惧が紹介された。 (福島総局・岩田裕貴)