2023年9月16日土曜日

因果関係がないとは言わせない 「311子ども甲状腺がん裁判」を傍聴して

 13日、第7回「311子ども甲状腺がん裁判」が東京地裁であり、7人の若原告を支えようといつものように地裁前には多くの人たちが集まりました。
 福島県甲状腺検査評価委員会はこの間一貫して「児童の甲状腺がんは原発事故によるものではない」という姿勢を貫いてきました。
 普段は100万人に2件程度の甲状腺がんが、検査でその数十倍も見つかったのはスクリーン効果によるものというのが被告側の主張ですが、中にはそういうケースもあるかも知れないものの全てのケースがそうであるというのは暴論です。
 放射能(=放射性ヨウ素)が甲状腺がんの危険因子だということは、チェルノブイリ事故で国際的常識となっているのにその事実を無視するのは、極めて「意図的」なものがあると思われます。
 マスコミが委員会の「因果関係はない」という言い分だけを報道してきたのも、結果的に甲状腺がんの悲劇を隠蔽する方向に作用しました。電力会社は貴重な広告主だから遠慮するというのではそもそも報道機関の機能は果たせません。
 被告が、児童に対しても「100mSv以下の被ばくでは、健康影響は観察されない」と主張しているのは論外というしかありません。妊婦や幼児は勿論ですが児童に対する被ばく限度を100mSvとするのも同様です。次回は12月6日です。
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因果関係がないとは言わせない~第7回「311子ども甲状腺がん裁判」を傍聴して
                      レイバーネット日本  2023-09-14
堀切さとみ
 9月13日、第7回「311子ども甲状腺がん裁判」が東京地裁であった。7人の若き原告を支えようと、いつものように東京地裁前には多くの人たちが集まった
 たとえ発症していなくても、いつ被ばくの影響が出るかわからない。その不安を口にするだけで「復興の妨げになる」と言われるのが、フクシマの実情だ
 そんな中、福島市から避難した大学生、阿部ゆりかさんは「この裁判は私のことだと思っている」と元気に発言した。

 郡山市から二人の子どもと母子避難している森松明希子さんも、大阪から駆けつけた。「『子どもを守れ』とか奇麗な言葉が飛び交っているが、この12年間子どもたちは一度も守られてこなかった。300人を超える子どもたちが甲状腺がんで苦しんでいるということが、大阪ではまだまだ知られていない。マスコミは両論併記が好きなのに、健康問題に関しては『因果関係はありません』という偏ったことしか言わないからだ」「勇気をもって声をあげた原告たちを『応援する』というのではなく、共に歩みたい」とスピーチし、参加者の思いをひとつにした。

   動画(森松明希子さんスピーチ・5分)

 この日の期日では、甲状腺がんと原発事故との因果関係を立証する弁論が行われた。弁護団の中で一番若い31歳の鈴木裕也弁護士が、パワポを使って力強く展開した
 原発事故後に行われた甲状腺検査は、福島県内の18歳以下の子ども38万人を対象に行われ、(現在5巡目まで完了)二巡目までで187人が「悪性疑い」と診断された。事故前には100万人中二件だったことと比べれば「数十倍上昇した」というのは一目瞭然だ。一般的にはがんの原因を特定することは難しいといわれるが、七人の原告の原因確率は99.3%~94.9%と、他の公害事例に比して圧倒的に高い。放射性ヨウ素による暴露が、甲状腺がんの危険因子だということは、すでにチェルノブイリで国際的常識となっているのだ。

 甲状腺がんが事故後に多発したことを、被告側は認めない。反論の主たるものは「スクリーニング効果説」であり、事故前にスクリーニング検査をしていれば、事故後と同じくらい潜在がんは多発していたというものだ。もし東電が主張するとおりであるなら、事故後に生まれた子どもにも、同じようにスクリーニング検査をするべきだろう。ちなみにチェルノブイリでもスクリーニング効果説が指摘されたため、事故後に生まれた(直接放射性ヨウ素に暴露していない)子どもの調査もしたところ、甲状腺がんはゼロだったのだ。

 もうひとつ、被告側は「100mSv以下の被ばくでは、健康影響は観察されない」と主張しているが、100mSv以下で健康に影響が出たという研究発表はいくつも存在している。
 東電はこれ以上、どう反論するつもりだろうか
 日比谷コンベンションホールで行われた報告集会は、高校生や大学生の姿もあり、あらゆる世代の人たちで埋め尽くされた。福島原発の裁判は多いが、これほど原告が若い裁判は他にない。原告たちはあの日、自分の生き方を決めることが出来ない6歳から16歳の子どもだったのだから。大人たちの責任ということを、皆が考えた集会となった。

 副弁護団長も海渡雄二さんと河合弘之さんから、若い斎藤悠貴さんと杉浦ひとみさんにバトンタッチ。若い原告の気持ちを汲み取るために、そして7人の原告のうち5名が女性であることから、そうしたのだという。
 これまでの期日で、七人の原告すべてが意見陳述を行なった。それは、裁判官の心さえも揺さぶるものだったが、突然今回から裁判長が変わった。弁護団は「原告がどういう思いで裁判に臨んでいるのか、新しい裁判長にも聞いてほしい」と要求したが、「遮蔽を準備する人員を確保できない」という理由で断ってきたという。あらゆる差別や暴言から身を守るため、名前を公表せず衝立越しに証言するしかなかった原告たちは、裁判所の言い分を聞いて「遮蔽なしで証言する」と決意したそうだ。
 意見陳述は次回の期日に見送られたが、原告たちが言葉を紡ぎ出すために、どれほどの痛みと向き合って来たか。それを再度繰り返さなければならないことに、申し訳なさを感じつつも、それを聞かなければ原発事故の被害を理解することができない。そんな大人げない司法であり、社会であることを再認識した。
 再稼働を止めようとしない。老朽化原発も動かす。その政策を変えられないなら、せめて放射能による被ばくから身を守る権利を確立しよう。それは罪なのではなく、必ずやらなければならないことなのだ。
 次回期日は、12月6日14時から、東京地裁301号法廷にて。


小児甲状腺がん 潜在がんは「机上の空論」〜甲状腺がん裁判で原告主張
                        Our planet -TV 2023/09/13
東京電力福島第一原発事故に伴う放射性物質の影響で甲状腺がんになったとして、事故当時、福島県内に住んでいた若者7人が東京電力に損害賠償を求めた「311子ども甲状腺がん裁判」の第7回口頭弁論が9月13日(水)に開かれた。裁判長の交代に伴い、原告側はこれまでの弁論内容を説明した。

これまでの裁判結果を説明した鈴木裕也弁護士は、通常10万に2人程度の小児甲状腺がんが、福島県民健康調査で多発していることを改めて指摘。被告・東京電力が、甲状腺がんが増えているのは、将来、治療の必要のない「潜在がん」を検査によって多数検出しているとの主張は、「机上の空論」だと批判した上で、原発事故によって放出された放射性物質に暴露したことにより、原告らが甲状腺がんになったと考えるのが合理的であると述べた

傍聴席に原告と同世代の姿、多数
大学がまだ夏休みの時期であることから、傍聴者には、原告と同世代の若い学生の姿が多数見られた。事故当時小学生だった時に原発事故が起き、福島市から京都に避難した阿部ゆりかさんは「2週間前に県民健康調査の通知が来た。(甲状腺がんの問題は)私にとっても、一生、ついてくる話だと思っている。この裁判が立ち上がった時に、これは私たち自身のことだと感じて、支援をするようになった。今日、初めて裁判を傍聴し、鈴木弁護士が堂々とカッコよく陳述していて、わかりやすかった」「裁判長が良い判決を下してくれることを願っています」と力をこめた。