2016年10月5日水曜日

05- 原発は50歳になっても居直る放蕩息子(大島堅一氏)

 原発コスト計算の第一人者 大島堅一教授が、原発政策における政府の悪辣さ、原発温存政策のデタラメさについてとても分かりやすく説明してくれています。
 
 終わりのところでイギリス原発推進策に触れていますが、イギリスは「原発は高い」と認めた上で国民の負担分に対して合意を得ていると述べる一方で、日本は「原発は安い」と言った上で国民に負担を強制するという支離滅裂なことになっていると述べています。こうなると「国家の品格」の問題です。
 その点においても残念ながら安倍政権の原発政策は、徹頭徹尾マヤカシであると言えます。
 日刊ゲンダイのインタビュー記事を紹介します。
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           (注目の人 直撃インタビュー  
大島堅一氏「原発は50歳になっても居直る放蕩息子です」
日刊ゲンダイ 2016年10月3日
 この国の政府はどこまで悪辣なのか。原発の廃炉費用を国民に押しつける思惑で、有識者会議をスタートさせたことだ。原発はガンガン再稼働させて、事故の賠償金や廃炉費用は国民負担とは、いいとこ取りのご都合主義にも程がある。果たして、原発コスト計算の第一人者、気鋭の学者・大島堅一氏の怒ること  
 
■廃炉費用を出せば債務超過になる東電
 
――経産省はこのほど「東京電力改革」や「電力システム改革」などと名前を付けて、有識者会議を発足させました。ここで原発の廃炉費用などを誰に負担させるかが話し合われるのですが、なんだか、最初に国民負担ありきが透けて見えるようです。この有識者会議設置の狙いは何だとみますか?
  福島原発事故の賠償については、原子力損害賠償・廃炉等支援機構がありますが、廃炉費用の金額は示していない。将来、発生する費用は債務ですから、必ず財務諸表に載せなければいけないのにやっていない。廃炉費用を明らかにすると、債務超過になってしまうからでしょう。メガバンクは東電に無担保で約2兆円を融資していますが、債務超過になりそうな企業に追加融資はできない。そこで、債務超過に陥る前に廃炉費用を捻出する仕組みを先につくってしまおう。そういうことじゃないですか。
 
――その仕組みをつくるための有識者会議であると?
  そうです。しかし、請求書がないのにいきなり、お金を出す仕組みをつくるなんてめちゃくちゃです。
 
――東電の場合、その廃炉費用はいくらぐらいになるんでしょうか?
  それが分からないのです。核燃料がどこにあるかも分からないし、世界を見回しても燃料デブリになったものを取り出したことはないのです。チェルノブイリだって置きっぱなしですからね。福島にはメルトダウンをした原発が3基もある。途方もない額になるのでしょうが、「廃炉費用はいくらです」と言ってしまうと、債務超過になりかねない。経産省は原発事故の直後から「東京電力は債務超過させないことを前提に支援する」と言い続けてきましたから、この前提を崩さないようにしているのです。
 
――原発事故直後、東電破綻処理の議論がされました。廃炉費用で債務超過になるんなら、潰すべきじゃないか。そこに立ち戻るべきですね。
 その通りです。廃炉費用を算出して債務超過になったら東電を解体し、資産を売却する。そうやって国民負担を少なくする。こういうプロセスを踏まなければいけません
 
――しかし、国はそうしない。なんだかこのままだとブラックホールのような東電に国民の税金が吸い込まれてしまうような気がします。
  東電は今まで「研究資金」と称して公的資金で凍土壁をつくって失敗に終わるなど、無駄なお金をじゃぶじゃぶ使っています。東電に廃炉資金を出してやる仕組みをつくれば、また同じようなことになりかねません
 
――国民はそれをチェックできるのでしょうか。
  原子力損害賠償支援機構は、ホームページを見ても情報公開がまったくなされていないのです。議事録さえ載っていないし、どういう資料が配られたのかも分からない。議題しか記載せずに結論だけがポンと出てくる。
 
――原子力損害賠償支援機構は情報公開しなくてもいいのですか。
  国の機関ではなくて外部の機構なので、情報公開法の対象外なのです。外部に機構をつくって、実態上は経済産業省の役人が入って仕切っている。
 
――抜け道ですね。
  廃炉は東電自身がやるべきことなので、国民の税金を無原則に入れるのは間違っています。百歩譲って仮に支援をするにしても、「いくらになりそうなのか」「公的なチェックシステムをどうするのか」などを徹底的に議論する必要があります。
 
――それなのに、最初に結論ありきで、急に有識者会議がつくられた。そんな印象を受けます。
 「(東電は)もう危ない」「頭を一番悩ませているのは廃炉のお金だ」と聞いています。東電が積んでいる2兆円(純資産)では不足しかねないので、新たに廃炉資金を早急に捻出する道をつくらざるを得ないのだと思います。有識者会議のメンバーには財界関係者が数多くいる。産業界が(原発を)望んでいるのなら、自分たちが資金を出せばいいのに、廃炉費用を国民にツケ回すような仕組みをつくろうとしている。原発の最大の問題は結局、最終的なコストが分からないことなんですよ。それなのに原発を再稼働させるのは、次世代への無責任なツケ回しとしか言いようがありません。 
 
電力会社の仕組みはマトモな資本主義では通用しない
 
――そんな電力会社に対して「コストは支払わないのに利益だけを欲している」とおっしゃっていましたね。
  まともな資本主義ではありませんよ。再稼働をしたいのなら、「事故が起きた時は全部、自分たちが支払います」という仕組みに変えなければおかしい。「事故を起こしたら、その費用は国民持ち、利益だけは電力会社」では儲かって仕方がないということになる。それで、東電は3000億円の利益を出しています。
 
――東電の最新の資料には、廃炉費用や原発事故の費用を全部入れても「原発のコストは一番安い」と書いてあります。
  安いのなら「事故の費用も自分で払う」のが筋です。その費用を払えないのであれば、「原発は高い。稼働させる必然性はない」となる。原発が不経済であれば、再稼働の理由はなくなる。電力会社が自ら出した中期計画を見ると、原発がなくても電力需要は賄えることがはっきり分かる。将来性がある再生可能エネルギーに税金を投入するのとは次元が違う話です。
 
――「原発を止めると地域経済が破綻する」と原発推進派は言いますが。
  たしかに「影響はない」とは言えないのですが、精査してみると、それほど大きな影響はない。影響があるのは飲食や旅館業などで、原発立地地域においても、多くの産業は原発に依拠していない。よく「この地域は原発が動いていないからシャッター街になっている」という映像が流れますが、今や地方はどこもシャッター街です。そこに因果関係はないし、従って原発があれば、地域が発展することもない。自治体がそれぞれ独自に工夫をして街づくりをする。そういう地域の方が原発立地地域よりも、はるかに生き生きとして人口が増えています。
 
■50年経っても自立できない放蕩息子が居直っている
 
――廃炉費用を支援する新スキームが浮上しているのは、原発再稼働を進めたい安倍政権の意向、思惑がらみなのでしょうが、そこまでして原発を推進する政権についてはどう思われますか?
 安倍政権は恐らく既存の原発を最大限に使ったうえで、新設の仕組みもつくりたいのでしょう。原発輸出を進める上でも原発技術を残しておきたい。原発新設をしてもペイする仕組みを導入したい。イギリスはそういう仕組みをつくりましたから。
 
――イギリスは原発推進なんですか?
  ただし、イギリスは「原発は高い」と認めているんです。「だけど社会的要請、国家的利益があるので維持する。補助が必要」と言ってきた。考え方は間違っていると思いますが、理屈としては立っている。一方、日本は「原発は安い」と言っておいて、新設には補助がいるというのですからまったく筋が通りません。国が取るべき政策とは公平公正であることが大事ですが、そこには論理的整合性がなければダメです。何をやるにしても、論理的整合性が担保されていないと、国民に対する説明責任を果たせない。普通の経済原則では原発というビジネスは成り立たないのです。
 それでもやりたいならば国営しかない。原発ができてから50年ぐらい経っている。もう自立してしかるべき産業なのに自立できない。いつまで経っても国にオンブに抱っこです。将来性が全く見えない産業なのです。電力会社は自立できないことをいいことに逆に居直っていますね。自分で稼げなくて親に迷惑ばかりかけている放蕩息子が、50歳になっても居直り、ふん反り返っている。国民生活にとって百害あって一利なしです。
(聞き手=ジャーナリスト・横田一)
 
▽おおしま・けんいち 1967年生まれ。福井県立武生高等学校を経て、一橋大社会学部卒、同大大学院経済学研究科修了。高崎経済大学助教授を経て、立命館大学国際関係学部教授。「原発のコスト-エネルギー転換への視点」で第12回大佛次郎論壇賞受賞。