震災遺産 教育現場で活用
河北新報 2016年10月30日
東日本大震災や東京電力福島第1原発事故を物語る「震災遺産」の学校現場での活用や検討が、福島県内で広がりつつある。保存を進める「ふくしま震災遺産保全プロジェクト」実行委員会(事務局・福島県立博物館)が出前授業などを展開。関係者は「福島の経験を若い世代に継承する取り組みが欠かせない」と語る。
プロジェクトでは津波被災地や原発事故の避難区域などで遺産を収集。ゆがんだ道路標識や避難後に残された新聞の束など計1500点を保全している。
学校との連携は2015年度に始めた。メンバーはこれまで、高校での出前授業や教員向けの研修会などに10回ほど足を運んだ。
授業では、避難区域となった富岡町の富岡高にあったバドミントンラケットなどの写真パネルを見せ、生徒に印象に残った物を尋ねる。避難所で明かりを取るため、ろうそくを立てたマグカップなどの実物を手に、当時の様子を一緒に考えることもある。
「がれきと聞くと目を背けたくなるが、経験を後世に伝える活動に共鳴した」「小学生は記憶のない子が増えている。教師が活動を知ることは大切」。研修会に参加した教員からはこうした感想が寄せられた。
生徒たちの積極的な動きも出てきた。福島北高(福島市)では30日、3年生が震災遺産を借り文化祭に展示する。敷地には原発事故で避難する富岡高のサテライト校があり、富岡高関連の遺産を中心に紹介する。
生徒会顧問の斎藤毅教諭(53)は「教員と生徒が震災とその後の5年半について、きちんと向き合い考える場にしたい」と話す。
県立博物館の高橋満主任学芸員は「震災を知らない世代が育ち始めている。震災の多様な事実を伝える『物』を通し、何が起きたのか想像力を働かせてほしい」と、震災遺産活用のさらなる広がりに期待する。