田原総一朗「『原発』をテーマにした知事選に勝てない自民党」
dot. 2016年10月27日
週刊朝日 11月4日号
“反原発”の候補者が当選した新潟県知事選挙について、ジャーナリストの田原総一朗氏が持論を展開する。
* * *
10月16日に投開票が行われた新潟県知事選挙では、共産、社民、自由の野党3党が推薦した米山隆一氏が初当選した。
当初、この選挙は、3期12年にわたって新潟県知事を務めた泉田裕彦氏が出馬すると表明していて、県民の圧倒的な支持から、今回も勝利するだろうと思われていた。
ところが泉田氏は、地元紙である新潟日報の記事に強い不満を抱いて、8月末に不出馬を表明した。
そこで自民・公明は、長岡市長を5期務めた森民夫氏を推薦した。米山氏は、その対抗馬として出馬した。実は米山氏は、民進党の次期衆院選挙の公認候補として新潟5区から立候補することが内定していたのだが、民進党は米山氏を推薦できず、自主投票となった。
その原因は、連合新潟の内部事情にあった。連合新潟では、東京電力の労働組合が非常に力を持っていて、東電労働組合は柏崎刈羽原発の再稼働に賛成だった。ところが、米山氏は原発再稼働に慎重な立場をとったので、連合新潟は反米山となり、連合を支持母体としている民進党としては、格好がつかなくなってしまった。
そんなこともあって、当初は自公推薦の森氏が圧勝するのではないかと報じられていた。
新潟県は景気が低迷していて、地域の活性化こそが最大のテーマであるはずで、その意味でも、中央との太いパイプがある森氏が優位と思われていたのだ。
ところが、米山氏が「泉田知事の路線を継承する」と宣言したことで、戦況が大きく変わった。
泉田前知事は、2011年3月の東京電力福島原発の事故以来、「事故の検証と総括なしに、柏崎刈羽原発の再稼働の議論はできない」と主張していた。東電にとっては、非常に厳しい注文をつけていたわけだ。
さらに、原子力規制委員会に対しても、「原発事故が発生したときの住民の避難計画について審査していない」と鋭く問題点を指摘していた。米山氏は、こうした泉田氏の路線を継承すると宣言したわけだ。
柏崎刈羽原発は東京電力の7基の原発が集中する世界最大規模の原発施設だ。もちろん、福島第一原発の事故以来、稼働は停止している。
それに、02年には東京電力が原子炉のひび割れを隠していた問題が発覚し、07年の中越沖地震では3号機近くの変圧器から火災が発生し、非常に微量ではあるが放射性物質漏れが起こっている。
米山氏が泉田氏の路線を継承すると宣言したことで、選挙の争点が「景気浮揚」「新潟県の活性化」ではなく「原発」となった。
朝日新聞が行った県内投票所の出口調査では、「柏崎刈羽原発の再稼働」について、反対が64%、賛成が28%であった。これでは米山氏が当選するのは当然だ。
新潟県に限らず、選挙で原発がテーマになると必ず反対派が勝利している。例えば7月に行われた鹿児島県知事選でも、脱原発を訴えた三反園訓氏が当選した。また14年に行われた滋賀県知事選でも「卒原発」を唱えた三日月大造氏が当選した。
実は、政府の原発政策には根源的問題がある。現在、使用済み核燃料は1万7千トンたまっているにもかかわらず、その処理方法は定まっていないし、現在のところ定めようという姿勢もうかがえない。これでは、無責任と言うしかない。