2021年10月28日木曜日

衆院選 原子力政策 ごまかしを続けていては(信濃毎日/西日本新聞社説)

 信濃毎日新聞が「21衆院選 原子力政策 ごまかしを続けていては」とする社説を出しました。安倍・菅政権は福島原発事故を受け、国民の多くが原発に対する不安や不信を強め脱原発を望んだなかで、「原発を低減」すると世論を建前でかわしながら原発復権の道を探ってきました。その動きを「脱炭素」を口実に加速させようとしていますが、そんなに単純に進められるようなものではありません。社説は、誤魔化しで進めてきた現状の問題点を期せずしてリストアップした格好になっています。

 西日本新聞の社説「エネルギー政策 原発の将来像、明確に示せ」を併せて紹介します。
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〈社説〉21衆院選 原子力政策 ごまかしを続けていては
                          信濃毎日新聞 2021/10/27
 「可能な限り原発依存度を低減する」
 岸田文雄政権が先日決定した新しいエネルギー基本計画にこうある。2014年の安倍晋三政権時の計画から同様の表現が続く。原子力政策の基本のはずだ。
 だが今回の計画も、原発を減らす道筋は見当たらない。目立つのは「優れた安定性と効率性」といった原発アピールである。
 福島第1原発事故が起きたのは10年前。その翌年、当時の民主党政権は、30年代に原発ゼロを目指す戦略をまとめた。
 計画に反映させる前に衆院が解散。交代した安倍政権がゼロ目標ではなく「低減」としたのが、14年の計画だった。
 東日本壊滅まで危ぶまれた福島の事故を受け、国民の多くが脱原発を望んだ。原発に対する不安や不信は依然強い
 世論を建前でかわしながら、安倍政権は原発復権の道を探ってきた。その動きはいま、脱炭素を口実に加速しつつある。

<新設や増設に含み>
 総選挙では、自民党が原発活用を訴える一方、公明党は将来の「原発ゼロ」を主張。野党は立憲民主党などが「原発のない社会」を目指すとしている。
 論戦は低調だ。ごまかしをやめ、教訓に立ち戻りながら原発の在り方を考える必要がある。
 岸田首相は「一本足打法は限界がある」とし、再稼働を進める方針だ。これからの主力は再生可能エネルギーだが、それだけでは温室効果ガスの削減目標に間に合わない、との理屈である。
 再エネが困難に直面する状況を踏まえると、既存原発の活用には理解が得られるとみているのだろう。だとすれば原発は、再エネ普及までの「つなぎ」なのか。
 それがはっきりしない。新設や増設、建て替えには慎重姿勢を示しながらも、含みを残す。
 新増設を望む声は党内に強い。世論を刺激しないよう用心し、風化を待つ。安倍政権の姿勢を受け継いだように見える。
 原発や石炭火力にこだわって時が過ぎ、再エネに本腰を入れるのが遅れた。まずは、そのことを反省すべきだろう。

<破綻の核サイクル>
 自民党ではこの秋、原子力政策の根幹の一つが注目を集めた。維持か見直しかが総裁選で争点化した「核燃料サイクル」だ。
 使用済み核燃料を再処理し、プルトニウムを取り出して燃料として繰り返し使う構想である。
 だが、再処理工場だけで事業費を14兆円に膨らませながら実現の見通しはない。再処理した燃料を使う高速増殖原型炉はトラブル続きで廃炉が決まり、一般原発で無理をして使っているだけだ。
 総裁選に出馬した河野太郎氏は見直しを掲げた。原発に詳しいだけに、核サイクルの破綻を無視はできなかったのだろう。
 岸田氏勝利で決着後、異論は消え、温室ガスを出さない原発の利点だけが強調されている。
 原発を巡る深刻な問題は核サイクルに限らない。安倍政権以降9年の間に噴出した不祥事の数々を忘れてはならない。
 東京電力は柏崎刈羽原発でテロ対策の不備が発覚。根深い安全軽視の体質が露呈した。関西電力では、経営陣と原発の地元有力者の癒着が明らかになった。
 福島第1の廃炉は難航し、終わりは一向に見えない。被災者は事故の賠償に納得していない
 廃炉や賠償を担う東電は原発収入に頼る以外の道を見つけられないまま、原発の運転資格に大きな疑問符が付いている。
 福島事故を受け原発は安全対策費が大幅に増え、安価な電源とは到底言えなくなっている。
 行き詰まりを直視すれば、原発復権など論外ではないか。

<争点化せず素通り>
 一方、原発ゼロを目指す上で欠かせない再エネの普及が、多くの困難を伴うのも事実だ。
 不安定な供給能力をカバーするには送電網の充実が要る。太陽光は適地を探すのが難しくなっている。洋上風力も遠浅の海が限られる日本ではコストがかかる。
 一つ一つ可能性を探りながら、着実に進めるほかない。各党は国民負担につながる課題にも踏み込み、具体的に語ってほしい。
 政府は今年、廃炉中の福島第1原発で発生する汚染水を処理した水の海洋放出を決めた。影響を受ける地元漁業者らの理解を得ないまま、保管場所が限界に近づいたことを受けた対応だった。
 問題をぎりぎりまで先送りし、追い込まれたら問答無用で押し切る。政府は今後も、そんな対応を繰り返すというのだろうか。
 事故以降、いくつもの国政選挙を経たが原発は主要争点とはならず、事実上素通りされてきた。
 ごまかしを続ける間にも、影響や費用は膨れ上がる。その自覚を持つことを、原子力政策の基本にしなければならない。


社説 エネルギー政策 原発の将来像、明確に示せ
                           西日本新聞 2021/10/26
 原油高騰でガソリン価格が上昇し、冬場の電力安定供給に向けて液化天然ガス(LNG)の確保が懸念される。暮らしや経済の基盤となるエネルギーの問題は、今回の衆院選で大いに論じてほしいテーマの一つだ。
 豪雨災害の多発などで有権者の多くが気候危機を実感しているはずだ。地球環境問題と一体で考えなければならない。
 政府は先週、エネルギー政策の指針となる第6次エネルギー基本計画を閣議決定した。太陽光や風力といった再生可能エネルギーを主力電源と位置付け、最優先、最大限の導入を促すことを明確にした。
 その土台は、菅義偉前首相が昨年宣言した「2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにする」目標の達成である。これは国際公約であり、多くの先進国が同じ目標を掲げている。再生エネの導入拡大は世界的な潮流となっており、出遅れた日本は追い付く必要がある。
 衆院選の主な政党の公約を見ると、再生エネを拡大する方向性ではほぼ共通している。異なるのは原発の扱いである。
 10年前に東京電力福島第1原発事故を経験し、国民の多くが脱原発を求める一方、温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)を出さない脱炭素電源として原発の活用を訴える声もある。
 重要かつ意見が割れている問題だからこそ、国政選挙で原発の「将来像」を有権者に問う価値がある。原発の再稼働や新増設について、立場を曖昧にしている政党があるのは残念だ。
 立憲民主党など野党4党は「原発のない脱炭素社会を追求」を共通政策に盛り込んだ。時期に違いはあるものの、脱原発というゴールは一致している。
 政府の基本計画で30年度に電源構成の36~38%と定めた再生エネの上積みを掲げる政党もある。具体策を説明すべきだ。
 一方、原発の再稼働を進めてきた自民党は「可能な限り原発依存度を低減」するとしつつ、小型モジュール炉の地下立地などの開発を後押しする、と公約に盛り込んだ。
 岸田文雄首相は「電力の安定供給などを考えると、再生エネの一本足打法では応えられない」と原発を選択肢に据える。原発の新増設や建て替えに前向きな甘利明氏が自民党幹事長に就き、電力業界などでは原発回帰への期待も高まっている。
 ただ全原発が再稼働し、原則40年の運転期間を60年に延長できても40年代以降は廃炉が相次ぎ、原発全体の発電能力は急速に落ちる。この穴を原発新増設で埋めるのが現実的かどうか、冷静に考える必要がある。