2016年8月31日水曜日

規制委の基準地震動計算法は地震調査委に否定された方式

 6月、島崎邦彦前規制委員長代理が大飯原発などで基準地震動過小評価していることを指摘しましたが、田中規制委員長は例によって感情的な表現で否定して、従来通りの計算方式維持すると決めました(7月)
 しかし規制委が維持すると決めた計算方法は、地震の研究などを担う政府機関である地震調査委員会が「地震の規模や揺れを小さく見積もる恐れがある」として使用を避けているものであることが明らかになりました。
 
 地震調査委は、06年に断層の幅と長さから、地震の揺れを計算する方法を一旦公表しましたが、この方法だと断層の規模や、地震の規模であるマグニチュードを小さめに算定し、揺れを過小評価する場合があるとの指摘が出たため、断層の長さなどから揺れを計算する新方式を09年に公表し、以後調査委は各地の地震の揺れをそれで計算してきました
 これに対し規制委は「06年方式は断層の詳細な調査を前提に使う方法。電力会社が詳細に調査しており、原発の審査では適切だ」と主張しています。しかし調査委の纐纈一起部会長(東大教授)は「『断層の幅』は詳細調査でも分からないから活断層が起こす揺れの予測計算に09年の方式を使う。これはどの学者に聞いても同じで規制委の判断は誤り」と指摘しています。 
 
 もともと地震動の専門家がいない規制委が、専門家ぞろいの調査委側の意見を聞かず、改良された方式を却下するのは無理な話で、地震動を小さ目にするために06年方式にこだわっていると見られても仕方がありません。
 
 また06年方式が採用している「入倉・三宅式」は17点ほどのデーターを回帰分析した式であって、いわば17点のデータの平均的挙動を示したものに過ぎません(実際のデーターは当然回帰線の上下に大きくバラついている筈です)。
 防災科学の専門家によるとその超過側のバラツキの度合いは、1・6~2倍(地震の1~2割において)、中には3〜4倍の揺れもあるということです。これは「地震動」という複雑な要因を持つ現象を、無理に(他の要因を捨象して)1変数に留めて回帰分析した結果として当然起きることです。
 ここで重要になるのは、平均値基準で求められた値から「基準地震動」(起こり得る最大の地震動)を定める際の「余裕(倍率)」をいくつにするかですが、現基準にはその規定もないということです。その都度恣意的に定めていて、大飯原発の再計算の際にはたまたまその余裕の中に納まったということです。
 これについても専門家からは、「上乗せをどれだけ取るか、リスクをどの程度許容するかについての社会的議論が必要だ」と指摘されています。
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原発・基準地震動 使用回避の計算法、継続の規制委に異議
毎日新聞 2016年8月30日
政府の地震調査委の専門家「規制委の判断は誤りだ」と批判 
 原発の耐震設計の根幹となる基準地震動(想定する最大の揺れ)について、政府の地震調査委員会が「地震の規模や揺れを小さく見積もる恐れがある」として使用を避けた計算方式を、原子力規制委員会や電力会社などが使い続けていることが分かった。調査委は2009年に改良した新方式を採用している。規制委は「(現行の方式を)見直す必要はない」と主張するが、調査委の専門家は「規制委の判断は誤りだ」と批判し、規制委に疑問符を突き付けた格好だ。 
 
 基準地震動を巡っては、規制委の前委員長代理の島崎邦彦氏が6月、関西電力大飯原発などで過小評価を指摘したが、規制委は7月に現行の計算方式の維持を決めていた。現行方式は大飯原発以外でも使われており、この方式への疑問は他原発の安全審査や再稼働にも影響しそうだ。 
 調査委は、地震の研究などを担う政府機関。断層の幅と長さから、地震の揺れを計算する方法を06年に公表し、規制委や電力会社が基準地震動の計算に採用している。だが、この方式には、断層の規模や、地震の規模であるマグニチュード(M)を小さめに算定し、揺れを過小評価する場合があるとの指摘が出た。このため、断層の長さなどから揺れを計算する新方式を09年に公表し、各地の地震の揺れを計算してきた。調査委作成の計算マニュアルでは両方式が併記されているが、調査委は現状を踏まえ、マニュアルを改定する検討を始めた。 
 これに対し、規制委事務局の原子力規制庁は「06年方式は断層の詳細な調査を前提に使う方法。電力会社が詳細に調査しており、原発の審査では適切だ」と言う。 
 
 調査委の「強震動評価部会」の纐纈(こうけつ)一起部会長(東京大地震研究所教授)は「活断層が起こす揺れの予測計算に、地震調査委は09年の方式を使う。規制委が採用する方式の計算に必要な『断層の幅』は詳細調査でも分からないからだ。これはどの学者に聞いても同じで規制委の判断は誤りだ」と指摘する。【高木昭午】 
 
旧方式の見直しを 
 原子力規制委員会が原発の基準地震動で採用する計算方式に、その「開発元」である政府の地震調査委員会メンバーが疑問符をつけた。基準地震動は、原発が想定し、耐えるべき最大の揺れで耐震設計の根幹だ。規制委は調査委の指摘を機に、その決め方を見直すべきだ。 
 規制委は現行の計算方式を使い続ける方針。だが地震動の専門家がいない規制委が、専門家ぞろいの調査委側の意見を聞かず、改良された方式を却下するのは無理がある。しかも基準地震動には、それ以前の問題もある。原発の建物は「起こり得る最強の揺れ」に備えるのが望ましいが、実際の基準地震動は揺れの「平均」に若干の上乗せをした値に過ぎない。 
 悪条件が重なれば、平均を大きく上回る揺れもあり得る。藤原広行・防災科学技術研究所社会防災システム研究領域長らによると、地震の1〜2割は平均の16〜2倍強い揺れを起こし、3〜4倍の揺れもある。だが、どの程度「上乗せ」するかについて、今の新規制基準には規定がない。規制委と電力会社が調整して決めているだけだ。このため、昨春に関西電力高浜原発の運転停止を命じた福井地裁は「基準地震動は理論的にも信頼性を失っている」と断じた。 
 藤原領域長は「上乗せをどれだけ取るか、リスクをどの程度許容するかについての社会的議論が必要だ」と指摘した。【高木昭午】