東電は7月19日の有識者会合で、3月末から凍結を始めた海側凍土壁(約820m 凍土壁全長は約1500m)でなお一部(朝日新聞によると1%)が凍っていないことを報告し、完全凍結は無理だと「告白」したということです。
一部が凍らない結果、地下水の建屋内流入量は凍結前とほとんど変わっていないということで、8月18日の会合では外部有識者の橘高義典・首都大学東京教授は「凍土壁で地下水を遮る計画は破綻している」と述べました(朝日)。
そもそも総工費320億円とも345億円ともいわれる凍土壁は、地下水の建屋内流入量を10分の1くらいに抑制することで汚染水問題を解決するために行われたものなので、完全に失敗したと見るべきでしょう。凍土壁は凍結が進むほど未凍結部分の通水量が増加するので、完全に凍結させることは原理的に無理な話でした。東電はいまだに「セメントなどを注入すれば凍らせられる」と言い訳をしているようですが、その対策はとっくに行っているのに成果が出ていないというのが現実です。
この件に関しては、当初規制委は完全凍結ができるという前提で、その場合に建屋内の水位と地下水位とのバランス調整をどうするのかというような点についてこまごまとした質問を繰り返していました。それで業を煮やした東電が強引に着工したという経緯もありました。
ジャーナリストの高野孟は、本来なら各紙1面トップで報じるべき重大ニュースで、東京五輪の返上が現実味を帯びてきたと述べました。(朝日新聞記事をご覧になりたい方は下記のURLにアクセスしてください) http://www.asahi.com/articles/ASJ8L4QQHJ8LULBJ00K.html
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永田町の裏を読む
福島第1原発「凍土壁」の失敗で東京五輪返上が現実味
高野孟 日刊ゲンダイ 2016年7月28日
7月19日に開かれた原子力規制委員会の有識者会合で、東京電力が福島第1原発の汚染水対策の決め手となるはずだった「凍土壁」建設が失敗に終わったことを認めた。本来なら各紙1面トップで報じるべき重大ニュースだが、ほとんどが無視もしくは小さな扱いで、実は私も見落としていて、民進党の馬淵澄夫の25日付メルマガで知って慌てて調べ直したほどだ。
これがなぜ重大ニュースかというと、安倍晋三首相は13年9月に全世界に向かって「フクシマはアンダー・コントロール。東京の安全は私が保証する」と見えを切って五輪招致に成功した。これはもちろん大嘘で、山側から敷地内に1日400トンも流れ込む地下水の一部が原子炉建屋内に浸入して堆積した核燃料に触れるので、汚染水が増え続ける。
必死で汲み上げて林立するタンクにためようとしても間に合わず、一部は海に吐き出される。そうこうするうちにタンクからまた汚染水が漏れ始めるという、どうにもならないアウト・オブ・コントロール状態だった。
それで、経産省が東電と鹿島に345億円の国費を投じてつくらせようとしたのが「凍土壁」で、建屋の周囲に1メートルおきに長さ30メートルのパイプ1568本を打ち込んで、その中で冷却液を循環させて地中の土を凍結させて壁にしようという構想だった。
しかしこの工法は、トンネル工事などで一時的に地下水を止めるために使われるもので、これほど大規模な、しかも廃炉までの何十年もの年月に耐えうる恒久的な施設としてはふさわしくないというのが多くの専門家の意見で、私は14年1月に出した小出裕章さんとの共著「アウト・オブ・コントロール」(花伝社)でこれを強く批判していた。馬淵もこの問題を何度も国会質問で取り上げて、別のやり方への転換を主張してきた。
凍土壁は6月にほぼ完成したが、汚染水がなかなか減らず、規制委は「壁になりきらず、隙間だらけで地下水が通り抜けているのでは」と疑問を突きつけた。慌てた東電は「凍土が形成されていないかもしれない箇所にセメントを流し込む」などの弥縫策をとったが、やはりダメで、19日の会合でついに「完全遮蔽は無理」と告白した。つまり、安倍の大嘘を後付けのにわか工事で隠蔽しようとした政府・東電のもくろみは失敗したということである。
これが国際的に知れ渡れば、リオのジカ熱どころではない、選手の参加取りやめが相次ぐに決まっている。東京五輪は返上するしかないのではないか。