2016年8月14日日曜日

伊方原発再稼働 住民は誰が守るのか

 四電の伊方原発は地震減の中央構造線までの水平距離が僅かに5~8キロで、ほぼ真上に立っています。東京新聞は、「伊方原発は浜岡原発と並んで一番再稼働させてはいけない原発である」としていますが、12日、強引に再稼働しました。
 原発は、日本一細長い佐田岬半島の付け根にあり、その先に住む約5千人には、過酷事故が起きた時に避難できる保証がありません。住民は被曝を覚悟で原発の門前を通って東に逃れるか、船で対岸の大分県に逃げるしかありませんが、船は天候や津波の状況によっては動かせません。運よく避難用の船が接岸できる条件に恵まれたとしても、半島のいたるところが急傾斜地崩壊危険箇所なので、大地震の時には道路が寸断され住民が港にたどりつける保証はありません。
 
 遊ばせているのに比べて稼働させれば年間数百億円儲かるからという「企業の論理」を規制委と国が容認して再稼働させたわけですが、それでは住民は誰が守るのかと、東京新聞は社説で述べています。
 
 高知新聞の「企業の論理色濃く 崩れる安定供給神話」の記事も併せて紹介します。
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【社説】伊方原発再稼働 住民は誰が守るのか
東京新聞 2016年8月13日
 四国電力伊方原発の再稼働に、住民は特に不安を募らせる。そのわけは周辺を歩いてみれば、すぐ分かる。それはあってはならない場所にある。
 日本で一番再稼働させてはいけない原発の一つ ― 。伊方原発をそう呼ぶ人は少なくない。
 その根拠は特殊な立地にある。
 伊方原発は、日本一細長い愛媛県の佐田岬半島の付け根のあたり、瀬戸内海に面したミカン畑のふもとに立つ。
 原発の西には四十の集落が、急な斜面に張り付くように点在し、約五千人が住んでいる。小さな急坂と石段の町である。
 四国最西端の岬の向こうは、豊予海峡を挟んで九州、大分県だ。
 八キロ北を半島とほぼ平行に、中央構造線が走っている。最大級の断層帯だ。発生が心配される南海トラフ巨大地震の想定震源域にも近い
 
 「日本三大地滑り地質」とも呼ばれ、「急傾斜地崩壊危険箇所」などの標識が目立つ。二〇〇五年には、半島唯一の国道197号の旧名取トンネルで地滑りの兆候が見つかり、崩落の危険があるとして廃止されたこともある。
 このような土地柄で、巨大地震と原発の複合災害が起きたらどうなるか。専門家であろうがなかろうが、想像には難くない。
 大小の道路は寸断され、トンネルは崩落し、斜面の家は土砂崩れにのみ込まれ…。
 それに近い光景が四月の熊本地震で展開された。その震源とは中央構造線でつながっているらしい。住民の不安は増した。
 四国電力が五月から六月にかけて実施した半島の“お客さま”への調査でも、「地震・津波への不安」を訴える人が増えている。
 たとえ国道が無事だとしても、西側の住民は、原発の前を通って東へ向かうことになる。
 
◆造ってはならないもの
 県と愛媛県バス協会が交わした覚書では、運転手の被ばく線量が一ミリシーベルトを上回ると予測されれば、バスは動かせない。
 海路はどうか。港湾施設が津波の被害を受けたらどうなるか。放射能を運ぶ海陸風から、船舶は逃げ切れるだろうか。
 県は先月、広域避難計画を修正し、陸路も海路も使えないケースを明示した。要は屋内退避である。避難所には、学校や集会所などの既存施設が充てられる
 コンクリートの建物で、耐震は施されているものの、傾斜地に暮らすお年寄りたちが、そこまでたどり着けない恐れは強い。
 「半島の多くの住民が、逃げ場がないという不安を感じ、生命の危険を押し殺しているはずだ」
 「伊方原発をとめる会」事務局次長の和田宰さんは言う。
 
 そもそも伊方原発は、住民の安全が第一ならば、建ててはいけないところに建っているとはいえないか。
 原子力規制委員会は、避難については審査しないし、かかわらない。誰が住民を守るのか。
 やはり伊方原発は、動かすべきではないというよりも、動かしてはいけない原発なのである。
 大規模な避難訓練が必要になるような原発は、初めから造ってはならないものなのだ。
 伊方原発だけではない。3・11の教訓を無駄にしないため、文字通り原発を規制するために生まれた規制委が、その機能を果たしていない。
 規制委は今月初め、始動から四十年の法定寿命が近づいた関西電力美浜原発3号機の運転延長を了承した。同じ関電高浜原発の1、2号機に続いてすでに三基目。延命はもはや例外ではないらしい。
 政府の原発活用路線に沿うように延命の審査を急ぐ規制委は、独立した審査機関とも言い難い。
 「コストさえかければ、四十年を超えて運転できる」と明言する姿勢には驚かされた。
 
◆危機感が薄れる中で
 熊本地震を経験し、この国の誰もが地震の揺れに敏感になっている。それなのに、地震の専門家である前委員長代理の「地震の揺れは過小評価されている」という重い指摘も規制委は顧みない。
 住民の暮らしは、命は、誰が守るのか-。
 日本一危険とされる再稼働に際し、特に自治体や規制委にあらためて問いかけたい。
 最低限、避難の有効性がしかるべき機関に保証されない限り、原発は動かすべきではない。
 
 
伊方原発の再稼働「企業の論理」色濃く 崩れる「安定供給神話」
高知新聞 2016年8月13日
 四国電力は12日、愛媛県伊方町の伊方原発3号機を再稼働させた。これまでの取材の中で愛媛県知事や伊方町長らによる「電力の安定供給のため再稼働はやむを得ない」という説明を何度も耳にした。しかし、2015年春から四国電力の担当となって原発取材を進めるにつれ、次第に違和感が大きくなってきた。東京電力福島第1原発の事故から既に5年以上。「やむを得ない」という考えは「安定供給神話」であり、その神話は電力需給一つとっても、崩れつつあると感じるからだ。
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 東京電力福島第1原発の事故後、四国電力管内の電力需要は節電意識の定着や省エネ家電の普及で年々減少している。供給力確保のため繰り延べていた火力発電所の定期点検を2016年2月から通常ペースに戻し、今後10年間の需給見通しでも原発なしで安定的な供給予備力を見込んでいる。それでも四国電力は「トラブルで火力が1基脱落すると、安定供給に支障を及ぼしかねない」(広報担当者)などと説明する。
 そうした事態に陥らないよう、全国規模で電力のやりくりを指揮する電力広域的運営推進機関が2015年発足したはずではなかったか。
 
 一方、四国電力は2016年春から首都圏と関西圏の小売り事業に参入。その判断と再稼働について、佐伯勇人社長は「既存の資産を有効活用するのが経営の考え方」「これからは稼ぐ時代。余力が出てくれば、他の地域への電源として活用する」と述べている。安定供給という「公益性」よりも、経営効率の良い原発で利益を求める「企業の論理」が色濃く出た発言だった。
 
 こうした姿勢に対し、関西電力高浜原発3、4号機(福井県)の運転を差し止めた仮処分申請に携わった井戸謙一弁護士の主張は明快だ。
 「事故のリスクを否定できない以上、それを受け入れさせる理由があるとすれば公益性しかない。でも、原発ゼロの経験ができた。リスクを受忍する正当性はどこにありますか」
 
 伊方原発も松山地裁、広島地裁、大分地裁の3地裁で運転差し止め訴訟や仮処分の申し立てがある。中央構造線断層帯への熊本地震の影響を懸念する声も根強く、再稼働後も司法判断によって停止する可能性がある。佐伯社長も認める「訴訟リスク」を抱え、安定供給の説得力は揺らいでいる。
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 このような状況下で伊方原発3号機は再び動きだした。四国電力は住民の不安や不信の払拭(ふっしょく)に一層努めなければならないはずだ。ただ、この1年余りの取材では、ひたすら目の前の再稼働に全力を注ぐ姿勢が目立った。
 例えば、電源構成比率や二酸化炭素排出量の数値目標など中長期的な事業計画や将来像を目に見える形で示し、今後焦点となる2号機の扱いも含めて伊方原発の位置付けを明確にすることが必要ではないか。電力自由化で新電力の参入が進めば、経営環境はさらに変化するからだ。
 
 一方、防災避難計画の実効性向上は、愛媛県や高知県など各県の自治体に課せられたままになった。万が一事故が起きれば、事故収束や損害賠償などは一企業の手に負えない。原発はそういう存在だ。それでもエネルギー政策の中核として原発を維持するなら、本来は国が防災避難計画の実効性を担保する審査制度や、あいまいな「地元同意」の枠組みを変更するなどの実効策に取り組むべきだ。
 
 伊方町の傾斜地に広がるミカン畑を見ると、2015年秋の原子力総合防災訓練に参加していた町民の声を思い出す。「うちのミカンは都会でも人気がある」「古里を離れたくない思いは強いよ」。なし崩し的な原発回帰でこのような日常生活を奪うことがあれば、「やむを得ない」では済まされない。