複合災害の対応 困難 伊方再稼働 避難計画課題
東京新聞 2016年8月13日
四国電力は十二日午前、伊方(いかた)原発3号機(愛媛県伊方町、出力八十九万キロワット)を再稼働させた。同日午後、制御棒を段階的に引き抜くとともに、核分裂を抑えるホウ素の濃度を調整する作業を進めた。十三日午前六~七時ごろに、核分裂反応が安定的に持続する「臨界」に達する見込みで、十五日に発電と送電を始める予定。
九州電力川内(せんだい)1、2号機(鹿児島県)に加え、稼働原発は三基となる。再稼働が進む一方で原発審査や事故に備えた避難計画、賠償制度には課題もあり、対応が急務となっている。
安倍政権は原発活用路線を継続し、原子力規制委員会による新規制基準の適合性審査に適合した原発は再稼働させる方針。これまでに適合したのは三原発七基で、いずれも加圧水型と呼ばれるタイプ。同型の九電玄海3、4号機(佐賀県)や北海道電力泊(とまり)3号機(北海道)で審査が大詰めを迎えている。事故を起こした東京電力福島第一原発と同じ沸騰水型は審査が長期化しており、適合は早くて来年以降の見通しだ。
一方、全国で原発の運転差し止め訴訟などが起こされ、新基準の妥当性が問われる場面も増え、関西電力高浜3、4号機(福井県)は大津地裁の仮処分決定により運転できない状態が続く。規制委は六月、訴訟に活用できるよう、新基準の策定経緯や内容を解説する資料をまとめた。
事故時の避難計画についても周辺住民らの不安は依然残るほか、賠償制度の見直しも遅れている。現在は、事故を起こした電力会社の無限責任を定めているが、負担が重すぎると電力業界が見直しを要望。国の原子力委員会が議論しているが方針はまとまっていない。
伊方原発の周辺では南海トラフ巨大地震の発生が想定されるほか、敷地北側には日本最大規模の活断層「中央構造線断層帯」もある。地震をきっかけに原発事故が起きる可能性もあり、災害対応は困難を極めそうだ。
「やれるだけのことをやるしかない」。原発から約十一キロ離れた愛媛県八幡浜市の市立八幡浜総合病院の越智元郎副院長は強調する。越智副院長によると、南海トラフ巨大地震による被害想定では、地震発生から一時間余りで同病院に九メートルの津波が襲来し、病院一階の天井まで浸水する想定だ。
同病院には約四百人のけが人の搬送が見込まれる。汚染検査や除染などを担う被ばく医療機関に指定されているため、被ばく患者への対応も必要だ。地震・津波被害と原発事故への対応で相当の混乱が予想されるが、越智副院長は「県内には津波被害がより厳しい地域もあり、県による救援が遅れることも覚悟する必要がある」と話す。同病院では災害対応の強化のため、六階に非常用電源を設置するなどの改築を進めている。
熊本地震をきっかけにして、新たな課題も浮上している。
避難所も被災した熊本地震を念頭に関係自治体からは「地震と原発事故の複合災害の際、屋内退避が最適と言えるかどうか考えるべきだ」(高浜原発の三十キロ圏に入る滋賀県)との声も上がっている。
伊方原発を巡っては、立地している佐田岬半島の住民約五千人が事故時に孤立しないか懸念されている。
地震・津波被害で陸路や海路が使えなければ避難所などで屋内退避する想定だが、「伊方原発をとめる会」の和田宰(つかさ)事務局次長は「海岸近くに設置されている避難所もあるが、津波で周辺道路が浸水すれば避難所に到着すらできない」と問題点を指摘した。