27日に行われた関西電力高浜原発(福井県高浜町)の広域避難訓練に立ち会った佐賀新聞と神戸新聞の記者が、それぞれ問題点を指摘しました。
佐賀新聞は、重大事故時5~31キロ圏の住民は当面屋内退避するという規制委の方針は、熊本地震の際の実態からみて安全ではないし、内閣府が5月に自宅での避難が難しい場合、近隣の避難所に退避することとした方針についても同様であるとしました。
また自宅や避難所の耐震性の問題以前に、重大事故が起きれば自宅待機という段階避難が機能するとは思えないと、心理(学)的に無理な方針であるという指摘もあります。
屋内退避が可能であるとしても、その期間や解除の指標が明確になっているとはいえません。
規制委の方針ではモニタリングの結果自宅周辺が500マイクロシーベルトに達したら即時避難をするとし、20マイクロシーベルト時以上を足掛け2日間観測してから1週間以内に一時避難するという、一体被曝を防げるのかが不明な基準となっています。
それにモニタリング設備が住民の被曝を防ぐのに十分な密度に敷設されているのか、測定レンジも0.05マイクロシーベルト(通常時)から500マイクロシーベルト超まで一つの計器で測れるのかという問題もあります。
神戸新聞は、広域避難計画では最大約18万人の避難を見込みながら、訓練で避難したのは福井県から兵庫県に向かった約230人を含め約1130人にとどまったことと、計画で想定するマイカーでの避難もほとんど行われず、バスや自治体の公用車を利用したなど、避難計画の想定とかけ離れた訓練内容であったことに、「この訓練に意味はあるのか」と住民も受け入れ側の自治体職員も実効性を疑問視する声が出たと指摘しました。
また実際の事故発生時には多くの住民がマイカーで避難するので、経由地でスクリーニング(放射線量検査)を受けずに避難先へ殺到する可能性も指摘されました。
納得のいく避難訓練ができるのは、まずは避難の基本方針が見直され、避難計画が整備されてからのことです。
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屋内退避実効性に疑問 複合災害への想定甘く
高浜原発広域避難訓練
佐賀新聞 2016年08月28日
関西電力高浜原発(福井県高浜町)の広域避難訓練は、地震と原発事故が連動する複合災害を想定して実施された。原発事故の避難計画は一部の住民に一時的に屋内にとどまるよう求める。だが家屋に甚大な被害が出た熊本地震クラスの揺れに見舞われれば「屋内退避」は困難になる。専門家は「自然災害への想定が甘い」と計画の実効性を疑問視する。
山林と崖に挟まれた高浜町の県道。倒木で道路がふさがれたとの想定で、陸上自衛官が重機で撤去する訓練に当たった。鯖江駐屯地の橋本一郎陸曹長は「道路が寸断される状況も考えられる。迅速に動ける態勢を整えたい」と気を引き締めた。
国の原子力災害対策指針では重大事故時、原発5キロ圏の住民は即時避難する。5~30キロ圏は原則屋内に退避し、放射線量が上がれば避難する「段階避難」を前提とする。
■在り方明確に
しかし震度7を2回観測した4月の熊本地震では、16万棟以上が損壊。大規模災害時に活用する緊急輸送道路も打撃を受け、余震を恐れて車中生活を続ける人も多かった。
内閣府は5月、自宅での避難が難しい場合、近隣の避難所に退避させることを周知する文書を関係自治体に送付した。だが福井県の担当者は「熊本では住宅だけでなく、指定避難所にも被害が及んだ。国は屋内退避の在り方を明確にしてほしい」と困惑する。
高浜町では自宅に避難できないとの想定で、指定避難所に逃げる訓練も実施した。だが、参加した50代の男性会社員は「そういった訓練とは聞いていない」と戸惑いを隠せない様子だった。
■あらゆる可能性
屋内退避を前提とした避難計画を巡っては、各地の首長も疑問を投げかける。7月に就任した鹿児島県の三反園訓知事は、川内原発の一時停止を九州電力に要請。専門家による委員会で、安全性や避難計画を独自に検証する考えを示す。
高浜原発30キロ圏に含まれる滋賀県の三日月大造知事も「屋内で安全に過ごせるのか大きな課題だ」と指摘。屋内退避の期間や解除の指標を明確にするよう国に要望する方針だ。
東京女子大の広瀬弘忠名誉教授(災害リスク学)は「熊本地震では、自宅に戻った人が犠牲になるなど屋内退避が危険を招いたケースもある。重大事故が起きれば、段階避難が機能するとも思えない。道路の寸断や交通渋滞など、あらゆる可能性を想定した避難計画が求められる」と話す。
高浜原発事故訓練、実効性は 参加者に疑問の声も
神戸新聞 2016年8月28日
関西電力高浜原発(福井県高浜町)の過酷事故を想定した27日の訓練。政府が了承した広域避難計画で最大約18万人の避難を見込みながら、訓練で避難したのは福井県から兵庫県に向かった約230人を含め約1130人にとどまった。計画で想定するマイカーでの避難もほとんど行われず、バスや自治体の公用車を利用。避難計画の想定とかけ離れた訓練内容に、参加した住民、受け入れ側の自治体職員の双方から実効性を疑問視する声が出た。
計画では、高浜町の住民約7千人が15カ所の避難所に身を寄せることになる宝塚市。訓練では正午すぎ、市役所に約80人がバスで到着し、市職員らから弁当や非常食などの物資を受け取った。
高浜町横津海の農業山本仁士さん(61)は「今回は1人で参加したが、実際に事故が起きれば家族も一緒。本当に計画通り進められるのか、細かい点で不安はたくさんある」と漏らす。
宝塚市の山中毅危機管理監は「事前に準備しても大変だった。実際に事故が起きたら宝塚市も危ない。受け入れは混乱して難しいと思う」とこぼした。
高浜町から約3千人の避難受け入れを想定する三田市では、市消防本部に34人がバス2台で到着し、健康状態のチェックを受けた。同町の男性会社員(59)は本来、計画ではマイカーでの避難となっているが、今回はバスを指定された。「家族もいるし、バスは現実的でない。この訓練に意味はあるのか」と疑問を投げ掛けた。
実際の事故発生時は多くの住民がマイカーで避難し、経由地でスクリーニング(放射線量検査)を受けずに避難先へ殺到する可能性もある。
「そうなればパニックになる。住民が適切に除染を受けてきたのか、見えないだけに不安だ」と三田市危機管理課の江田政憲課長。避難誘導には複数の自治体などが関わり、それぞれの役割が細分化されているため「全体が見渡せず、よその自治体を信じるしかない」と情報を共有する上での課題を挙げた。