30日、泉田裕彦知事は10月に行われる新潟県知事選挙から撤退することを、文書(下に掲載)で明かにしました。
文書によると地元の有力紙である新潟日報が、新潟県が出資する第三セクターの子会社によるフェリーの購入に絡んで批判のキャンペーンを続けていて、それが県民に不信感を与えた結果正常な県政運営ができなくなっていることや、この状況下では知事選において一番の争点と考えている「原子力防災(=柏崎刈羽原発再稼働の問題)」にたどり付けそうもないことを理由にあげました。
また県庁舎内で森長岡市長が知事選への立候補を表明した際の対応から、新潟日報が森氏側に肩入れしている雰囲気を感じ取ったとも述べています。
新潟日報はこれまで福島原発事故について優れた特集を重ねてきていますが、柏崎刈羽原発の再稼働を実質的に阻止してきた泉田知事をなぜ退場させるようなことをするのでしょうか。記者の良心と社の方針は別だというのでしょうか。
ここで泉田知事を失ってしまうことは脱原発派にとっては大きな痛手です。
NHKニュース、知事文書、ブログD’s Note記事を紹介します。
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新潟 泉田知事 10月の知事選に立候補せず
NHK NEWS WEB 2016年8月30日
ことし10月に行われる新潟県知事選挙に4期目を目指して立候補することを表明していた泉田裕彦知事は、新潟県が出資する第三セクターの子会社をめぐる地元新聞の報道を理由に立候補を取りやめることを30日、文書で明らかにしました。
これは、泉田知事が30日午後、文書で発表したものです。
この中で、泉田知事は新潟県が出資する第三セクターの子会社によるフェリーの購入をめぐって地元新聞が県に対して続けてきた批判的な報道によって正常な県政運営ができなくなっていると立候補を取りやめる理由を述べています。
泉田知事は新潟県加茂市出身の53歳。
経済産業省の課長補佐や岐阜県の局長などを務め、平成16年の知事選挙で初当選し当選直後に起きた新潟県中越地震の復興に向けて取り組んできました。
また泉田知事は東日本大震災のあと停止している東京電力柏崎刈羽原子力発電所の再稼働については、「福島第一原発の事故の検証なくしては運転再開の議論自体がありえない」として慎重な姿勢を示していました。
泉田知事は現在3期目で、任期満了に伴ってことし10月に行われる知事選挙に向け、2月の県議会で4期目を目指して立候補を表明していました。
新潟日報社「あすの紙面で明らかに」
新潟県が出資する第三セクターの子会社によるフェリーの購入について報道した地元の「新潟日報社」は「社としての見解はあすの紙面で明らかにします」というコメントを発表しました。
東京電力「申し上げる立場にない」
新潟県の泉田知事が知事選への立候補を取りやめることを明らかにしたことについて、東京電力は、「知事選については新潟県民のみなさまがお考えになることであり、当社として申し上げる立場にありません。引き続き柏崎刈羽原発の安全対策を着実に進め、県民のみなさまのご理解をいただけるよう努めてまいります」というコメントを出しました。
原発の安全確保に厳しい姿勢
泉田知事は、東京電力柏崎刈羽原子力発電所が立地する新潟県の知事として、原発の安全確保に厳しい姿勢で臨んできました。
泉田知事は平成19年7月に新潟県中越沖地震が起きた際、柏崎刈羽原発で火災や微量の放射性物質が漏れ出す事態が起きたことを受けて、東京電力に免震施設の設置など新たな安全対策を求めました。
5年前の福島第一原発事故のあとは、柏崎刈羽原発の再稼働について、「福島第一原発の事故の検証なくしては運転再開の議論自体がありえない」という姿勢を取っています。
そして、専門家でつくる新潟県の技術委員会で事故の検証作業を独自に進め、この中で、東京電力が事故発生から2か月以上、「炉心溶融」、いわゆるメルトダウンが起きたことを認めなかった問題を追及しました。
その結果、当時のマニュアルに従えば事故の3日後には炉心溶融と判断できたことが明らかになったほか、当時の社長が、炉心溶融という言葉を使わないよう指示していたことも明らかになりました。
こうした問題に対して泉田知事は、今後は、東京電力と合同で検証委員会を設け、真相の解明を続けていく姿勢を示していました。
【泉田知事知事選撤退についての文書】
この秋の新潟県知事選挙からの撤退について
平成28年8月30日
泉田 裕彦
12年前の知事就任時最初の職務は震災対応でした。県で制度設計が可能な復興基金などにより今日まで、復旧復興を進めることができました。その後、公約を元に作成した政策プランにより県政運営を進め、当時不安視されていた県財政を安定させることができました。
3期の任期を振り返りますと、産業面では産業団地利用率が、71.8%(平成16年度末:15.6%)まで高まり、全国に先駆けて導入したマイナス金利制度等により、本県中小企業の設備投資は、全国平均を上回った水準で推移しています。高卒就職率は、リーマンショック時においてもほぼ100%を維持し、セーフティーネットを機能させることができました。存続の必要性が議論されていた表参道ネスパスは、年間で入館者100万人を超え、大阪のアンテナショップとあわせ、新潟の情報発信拠点へ成長しました。
医療関係では、医師・看護師の養成定員の増加、ドクターヘリの導入を進め、全国的にも注目を集める魚沼地域の医療再編を進めることができました。県立病院の経営は安定しています。人口問題では、国予測ほどは減らず、前回調査の将来推計を8,000人近く上回りました。
難病対策、新潟水俣病対策、ひとり親世帯支援、全国に先駆けたいわゆる出世払い奨学金の導入、障害者支援などに積極的に取り組み、支援の必要な社会的に弱い立場の人に光があたる環境をつくるため、心を砕いてまいりました。
県の審議会等への女性登用率も大幅に上昇しました。農業関係では、農家所得の向上を目指した取り組みを進め、1経営体当たりの売上額は約400万円増加し、米の輸出は全国トップで、本県が全体の40%を占めることができました。
土木関係では、地元の経済循環を目指した施策を講じ、建設業のすべての規模階層で利益率がプラスとなり、全国46位に甘んじていた設計労務単価は26位まで上昇いたしました。 北陸新幹線開業時の国との交渉での830億円の支援策の獲得により並行在来線の安定運営の基盤を確保でき、この効果は他県へも波及しました。佐渡汽船は黒字化し、経営は安定しています。
漸減していた県立図書館の入館者も改革の結果ほぼ倍増しました。個を伸ばす教育を基本に取り組みを進めた結果、小学校で全国上位の学力を獲得し、高等学校では、特色ある学科を設置し、全国的にも注目を集める事例がでてきました。
最後に、一人当たり実質可処分所得もこの間12%程上昇したこともあり、昨年10月の県民意識調査では、すべての項目で満足層が増加し、不満足層が減少する結果につながったものと思います。
こういった中、今回の選挙は政策論と関係ない動きが続いていると感じています。特に、日本海横断航路に関する一連の新潟日報の報道は、憶測記事や事実に反する報道が続きました。再三の申し入れ ( http://bit.ly/2bYbBed )にもかかわらず、訂正や説明もなく、最近まで県から申し入れがあった事実も報道してもらえませんでした。また、読者からの説明を求める投書に対する回答を一両日でお返ししたにもかかわらず、県からの回答が現在に至っても掲載されません。
このため、県が組織的に虚偽答弁をしているのではないか等の誤った印象が形成されているように思います。県庁内においては、憶測記事や事実に反する記事への対応のため、通常業務に支障が出ていますし、職員の残業時間も大幅に増加しています。県庁舎内での森長岡市長の知事選への立候補表明の際には、クラブの代表幹事社として、庁舎管理責任を有する県職員の同席を認めない上に録音も禁止する一方、その後、十分な情報無しで森市長立候補表明に対するコメントを求めるということもありました。
新潟県内で大きな影響力を有する新聞社が、県の説明は読者に伝えることはせず、一方当事者の主張に沿った報道のみがなされている状況です。また、東京電力の広告は、今年5回掲載されていますが、国の原子力防災会議でも問題が認識されている原子力防災については、例えば、県が指摘している現在の指針に従えば避難が必要になったときにはUPZ圏内の住民40万人強を2時間で避難させなければならなくなる問題等県民の生命・健康を守るうえで重要な論点の報道はありません。このような環境の中では、十分に訴えを県民の皆様にお届けすることは難しいと考えています。
以上のような状況に鑑み、この秋の新潟県知事選挙からは撤退したいと思います。これまで、ご支援をいただいた皆様方には、お詫び申し上げますとともに心よりの感謝を申し上げます。
泉田知事が知事選出馬を撤回
ブログD’s Note 2016年8月30日 17:18
(前 略)
県知事選には泉田知事の他に森・長岡市長も立候補を表明していて事実上2人による一騎打ちと見られていたのですが、泉田支持バイアスを除いた客観的な視点で見ても森さんが泉田知事に勝る点など1つもないので泉田知事の再選は確実、あとはどれだけ大差をつけて柏崎刈羽原発再稼働阻止へプレッシャーをかけられるかがポイントだと私は見ていましたが、ここに来てまさかの不出馬とは。
泉田知事は撤退の主な理由として、日本海横断航路に関して新潟日報が事実と異なる報道を続けてることを挙げていて、ウチも新潟日報取ってるのでその辺はよく見てはいますが、確かに偏向報道がヒドいです。あとはテレビではBSNあたりもかなり偏向らしいですね(テレビのニュースは見てないので聞いた話ですが)。推測するところ、たぶん原発動かしたい側(=泉田知事がジャマ)からの圧力でもかかってるのでしょう。
ただ、泉田知事が本当にこれだけの理由で撤退を決めたとは思えないんですよねぇ。
いや、日報の報道に相当ムカついてたのは事実だと思います。撤退によってどれだけ日報がヒドいかを知らしめる意味もあっただろうし、メディア以外も含めた泉田包囲網によって疲れてもいたでしょう。でも責任感の強い泉田知事が「日報フザけんなよ!」って投げ出すとは到底考えられない。きっと真意は他にあると思わずにはいられません。
・・・・これは以前から思っていたのですが、私たち新潟県民はあまりにも泉田知事一人に頼りすぎていたのではないでしょうか。
特に原発に関しては東京電力や原子力規制委員会などへの理論的かつ毅然とした対応を見て「泉田知事なら何とかしてくれる」と甘え過ぎていた部分が多かったように思います。
本当は我々一人ひとりが県民の総意として「柏崎刈羽原発再稼働No!」を突き付けなければならなかった。
(中 略)
撤退の理由を圧力と見る方もいるかもしれませんが、「私は自殺しません」と死んだ場合は暗殺と判断してくれって言うくらいの覚悟をもってやってきた人が、今さら外からの圧力に屈するとは思えないし、もちろんお金で動かされるような人でもないし、このまま森さんに県政任せていいとも思ってないだろうから、まったくの無策のまま撤退ってことはどうにも考えられないんですよね。
ま、現時点では撤退の表明があったばかりでいかんせん情報不足。憶測で話でもラチがあかないので、今後の泉田知事の動向を見守りたいと思います。