2024年4月15日月曜日

15- 【霞む最終処分】(27)~(30)

  福島民報が断続的に掲載している「霞む最終処分」シリーズのバックナンバーを4編ずつ掲載して行きます。

 今回は(27)~(30)を紹介します。
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【霞む最終処分】(27)第4部「実証事業の行方」 誘致の見返り期待 風間浦村長、財源不足を考慮
                           福島民報 2024/03/09
 東京電力福島第1原発事故に伴う除染土壌を保管している中間貯蔵施設(大熊町、双葉町)から北に約560キロ。本州最北部の下北半島に位置する青森県風間浦村は、人口約1600人の漁師町だ。津軽海峡に面し、冬場は高級魚のアンコウが水揚げされる。
 村は昨年3月、全国から注目を集めた。「除染土壌を再生利用する環境省の実証事業の誘致を検討している」。村長の冨岡宏が村議会一般質問で突如、見解を示した後、記者団の取材に明らかにした。環境省によると、福島県外の自治体が事業の誘致検討を表明したのは初めてだった。

 村民からは反対の声が相次いだ。冨岡はその後、公の場では実証事業について口を閉ざしている。
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 冨岡が実証事業の誘致を検討するようになった背景には、原発政策を巡る特殊な事情がある。隣接するむつ市には使用済み核燃料中間貯蔵施設、大間町には電源開発大間原発が立地する。両市町は国の原発関連交付金を受けている。同じ下北半島にある六ケ所村では日本原燃による使用済み核燃料再処理工場の建設が進み、国から多額の交付金が入っている。近隣の自治体に降ってくる「原発マネー」は年間2億~20億円に上る。それらを目の当たりにしてきた冨岡にとって、原発関連施設は「喉から手が出るほどほしい」(村関係者)存在だ。
 村の財政需要に占める収入の割合を示す財政力指数は0・10で、青森県内の40市町村で最も低い。村と近隣市町を結ぶ国道279号を除き、村内で唯一、むつ市とつながる村道は道幅が狭く、未舗装箇所が多いが、村の財源不足を理由に改修には至っていない。築85年以上の村役場庁舎を高台に移転する計画もあり、歳出がかさむ。
 村の財政力をどうにか高められないか―。環境省などから情報を集めた末に冨岡が出した答えは、除染土壌の再生利用に向けた実証事業の誘致だった。
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 冨岡の決断には、誘致の見返りとして国の交付金など財政面の恩恵にあやかりたいとの狙いがある。ただ、現状では実証事業の受け入れに伴う措置はない。環境省環境再生事業担当参事官室の担当者は「今後、受け入れ先への支援の可否について協議を進める」と話す。
 ただ、受け入れ側に利点がなければ実証事業は広がりにくいのが実情だ。専門家からはインセンティブ(動機付け)を導入する必要性を指摘する声が上がる。環境省の除染土壌の再生利用に関するワーキンググループ座長を務める北海道大大学院工学研究院教授の佐藤努は、実証事業の受け入れと引き換えに国費でインフラ整備を実施できる仕組みなどを例に挙げ、「放射性セシウムを含んだ土壌を用いる特殊な取り組みなだけに、インセンティブがなければ再利用が加速しないことは自明だ」と強調する。一方で「市町村や住民によって求める内容が異なってきている」とも指摘し、「多様なインセンティブを用意するか、何がいいかを住民と村、国で対話しながら実現を目指す方法が必要だろう」と言及した。(敬称略)


【霞む最終処分】(28)第4部 実証事業の行方 誘致検討、戸惑う村民 風間浦村 合意形成見通せず
                           福島民報 2024/03/10
 昨年3月、青森県風間浦村長の冨岡宏が東京電力福島第1原発事故に伴う除染土壌を再生利用する実証事業の誘致を検討していると報じられると、村内に衝撃が走った。冨岡は「福島のためになる」と説明したものの唐突感は否めず、村民に驚きと戸惑いが入り交じった。
 村商工会で総括経営指導員を務める山本義朗は「先祖が福島と歴史的な交流があるなら分かるが、縁もゆかりもない土地から土を持って来ると言われても理解に苦しむ」と本音を漏らした。村民の50代女性も「村内にも土はたくさんある。わざわざ福島から運んでくる必要はない」と断じた。
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 環境省は中間貯蔵施設(福島県大熊町、双葉町)に一時保管されている除染土壌のうち、放射性物質濃度が比較的低い土を公共工事などで再生利用する計画だ。冨岡の意向はあくまで計画の実現に向けた実証事業の誘致だったが、除染廃棄物の最終処分場の受け入れだと誤解している村民もいる。村内からは「正しく理解されなくては風評のみが広がりかねない。村長は人々と向き合い、自らの発言の趣旨をしっかりと説明してほしい」と求める声が上がる。
 昨年4月の村議選で初当選した山本聡は実証事業の誘致に反対の立場だ。元村職員で漁師でもあり、冨岡が実証事業の誘致検討を示して以降、誘致すれば風評被害が生じると懸念している。昨年6月と9月の村議会一般質問では冨岡の姿勢をただしたが、「情報収集を進める」などの答弁にとどまった。「村長から具体的な説明はなく、納得できない。情報収集していると言うが、全く進んでいないのではないか」と不信感を募らせる。
 築85年以上となった役場庁舎の高台への移転計画を巡り、村が昨年8月に開いた住民説明会では本題でないにもかかわらず、複数の村民から実証事業の誘致に反対する意見が出た。山本は「現時点で村民の合意形成は不可能だ」と指摘する。
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 人口約1600人の村は65歳以上の高齢者が約半数を占める。主要産業である漁業と観光業は後継者不足で衰退の一途をたどる。村を存続させるには安定的な雇用の確保が欠かせない。村内に住む50代男性は「除染土壌を受け入れるのは嫌だが、働く場ができるなら話は変わってくる」と複雑な心境をのぞかせた。
 村企画政策課長の亀谷孝信は「村長は福島の復興に協力したいとの強い思いを持っている」と明かし、誘致検討の中止については否定した。(敬称略)
          =第4部「実証事業の行方」は終わります=


【霞む最終処分】(29)第5部 福島県外の除染土壌 千葉・柏㊤ 中核市の地中に〝潜む〟 市有施設など600カ所余
                            福島民報 2024/03/31
 廃炉作業が進む東京電力福島第1原発から南に200キロほど離れた千葉県柏市。首都圏のベッドタウンとして開発され、約43万人が暮らす中核市だ。主要駅周辺は大規模な商業施設や高層マンションが立ち並び、人々が足早に行き交う。原発事故とは無縁の日常が広がるが、市有施設や住宅などの地中600カ所余には今も、除染土壌がひっそりと眠り続けている。
 市南部にある公共施設のグラウンドの隅には、除染土壌約300立方メートルが埋められている。地表から約30センチ下に遮水シートで包まれて保管され、10年ほどが経過した。周囲に埋設を知らせる案内板などは設置されておらず、住民の関心が向くことはほぼない。

 近くを散歩していた60代男性は「除染で出た土が今も埋まっているとは驚きだ。安全と言われても、あまり気分が良いものではない」と表情を曇らせた。
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 2011(平成23)年3月に起きた原発事故では福島第1原発の建屋外に放射性物質が飛散。風の影響で柏市にも到達したとされる。市内では同年10月、市有地の土壌から最大で1キロ当たり27万6千ベクレルの放射性セシウムが検出された。現地を調査した文部科学省放射線規制室長(当時)の中矢隆夫は「原発事故由来の放射性セシウムを含んだ雨水が濃縮され、土壌に蓄積した」との見方を示した。市民に混乱が広がる中、市の対応は「原発が存在せず、除染などの知識は全くない状態」(市環境政策課)から始まった。
 環境省は同年12月、柏市などを国の財政負担で除染を行う汚染状況重点調査地域に指定した。市は学校や保育園、公園、スポーツ施設など約800カ所で表土の剥ぎ取りや高圧洗浄を実施した。
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 柏市の除染は2014年3月末までに完了。除染土壌は千葉県内で最多となる4万6447立方メートルが発生し、現場にとどめ置かれることになった。
 福島県の場合、県内の市町村の除染作業で生じた土壌や廃棄物は中間貯蔵施設(大熊町、双葉町)に搬入され、2045年までに県外で最終処分されることが法律に明記されている。
 一方、福島県外の除染土壌や廃棄物に関しては放射性物質汚染対処特措法に基づく基本方針で「除染土壌が生じた都道府県内において処理するものとする」とされているが、処分に関する具体的な基準はいまだに示されていない。
 最終処分の手法が定まらない中、柏市では民有地に埋めていた除染土壌が紛失し、管理の在り方が問われる事態も生じた。(敬称略)

 東京電力福島第1原発事故に伴う除染は福島県内のみならず、県外でも広い範囲で行われた。地面から剥ぎ取られた土壌などは今も保管が続き、最終的にどう処分するかは決まっていない。県外の除染土壌を取り巻く現状を探る。


【霞む最終処分】(30)第5部 福島県外の除染土壌 千葉・柏㊦ 造成工事で所在不明 長期保管 課題浮き彫り
                            福島民報 2024/04/01
 東京電力福島第1原発事故に伴う除染が行われた千葉県柏市で2018(平成30)年度、民有地に埋設保管されていた除染土壌が掘り返され、行方が分からなくなる問題が起きた。会計検査院が2020(令和2)年2月に行った現地調査で明るみに出た。市はそれまで、事態を把握していなかったという。
 議場で市に事実関係をただした市議の末永康文(無所属)は「国が早く処分基準を決めないために生じた事態だ。除染廃棄物が最終処分されないままでは、今後、同じことがまた起きても不思議ではない」と語気を強める。
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 会計検査院や市などによると、問題となった民有地には除染土壌50立方メートルが埋設されていた。所有者が行った土地の造成工事の過程で、土壌が敷地外へと運び出されたとみられる。市は土壌の搬出先を探そうとしたが、行方はつかめなかった。運び出された土壌の放射線量は人体に影響のない数値と推計し、調査を終えている。
 原発事故に伴い、福島県外で発生した除染土壌の総量は33万198立方メートルに上る。このうち、94・4%に当たる31万1755立方メートルは埋設などの方法で除染現場にとどめ置かれたままだ。残りも仮置き場での保管が続いている。
 柏市は環境省に対し、各自治体の実情に応じた処分基準を早期に示すよう要望してきた。同省はこうした自治体からの声を受け、安全な埋め立て処分方法の検討を進めている。宮城県丸森町などでの埋め立て処分の実証事業の結果を踏まえ、2024年度中に処分基準を策定する方針だ。
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 柏市では除染土壌が各地に埋設されている他、清掃工場「市北部クリーンセンター」の敷地内には原発事故発生後、市内で収集された草木などの廃棄物を燃やした結果、放射性物質濃度が高まった焼却灰が保管されている。
 センターから直線距離で200メートルほどの場所に暮らす、パート従業員の増田則政は「このまま半永久的に残り続けるのではないか」と処分の行方が定まっていない現状に不安を抱く。地震や台風など大規模災害により、保管中の焼却灰が外部に流出する可能性もゼロではないのではとの懸念がある。
 「除染廃棄物を抱えている点で、福島県民と同じ被災者の立場だと感じている。国に対し、廃棄物をどのように最終処分するかを一刻も早く示すよう求めたい」と訴えた。(敬称略)