2024年4月1日月曜日

福島民報【霞む最終処分】シリーズ バックナンバーの紹介

 福島民報が断続的に掲載している「霞む最終処分」シリーズはこれまで(1)~(6)を紹介し、そこでストップしていました。このところ記事が多くて翻弄されていました。
 その後同シリーズは、3月31日で29)まで進んでいます。
 今後バックナンバーを随時4編ずつ掲載して行きます。
 今回は(7)~(10)を紹介します。
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【霞む最終処分】(7)第1部「中間貯蔵の現場」 施設の最終型描けず 続く除染、受け入れ拡大
                           福島民報 2023/12/28
 東京電力福島第1原発事故に伴う帰還困難区域のうち福島県大熊、双葉両町に新設された「特定帰還居住区域」で20日、除染作業が始まった。大熊町下野上1区では2台の重機が水田の表土を削り取った。
 現場に赴いた環境省福島地方環境事務所長の関谷毅史は「帰還を希望する住民が戻れるよう着実に作業を進める」と意気込む。一方、大熊町環境対策課長の沢原寛は「復興に向けた大きな一歩だが、帰還困難区域の全ての除染が完了するまでにはあと何年を要するのか見通せない」と複雑な思いを口にする。
 特定帰還居住区域が今後どのように拡大し、除染が進められるのかは現時点で見通せない。除染土壌などを一時保管する中間貯蔵施設(大熊町、双葉町)の受け入れ体制の在り方が課題となっている。
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 環境省は中間貯蔵施設で保管する除染土壌などの総量を約1400万立方メートルと推計し、施設内の整備を進めてきた。この数字に帰還困難区域の分は含まれていない。施設への搬入が始まった2015(平成27)年3月の時点で、帰還困難区域は避難指示解除の見通しが立たず、除染が計画されていなかったためだ。
 除染の方向性が具体化したのは、2016年8月だった。政府は「将来的に帰還困難区域の全ての避難指示を解除」するとし、復興拠点を整備する方針を決定した。翌年12月に拠点内の除染が始まった。
 今年6月には、帰還困難区域の復興拠点から外れた地域の避難指示解除を可能にする「特定帰還居住区域」の新設を盛り込んだ改正福島復興再生特別措置法が成立し、大熊、双葉両町の区域で除染が始まった。富岡町や浪江町でも区域が設定される方向で調整が進む。今後、除染の範囲が広がっていくのは確実だ。
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 放射線量が比較的高い帰還困難区域では、他の地域と同じ面積の除染でも、取り除く土壌はより多くなる可能性が高い。中間貯蔵施設は受け入れ量の拡大を見据え、分別や貯蔵のための新たな施設整備が求められる。
 環境省の担当者は「施設の新設を含め、適切に受け入れる環境を整えなければならない。今は検討段階だ」と明かす。土壌を中間貯蔵施設から運び出して再生利用する見通しも立っておらず、施設の保管体制の「最終型」は描けていない。
 加えて、帰還困難区域の除染が長期化すれば、新たな課題が浮上する。2045年3月までに除染廃棄物の県外最終処分が完了し、中間貯蔵施設が存在しなくなった後で除染した場合、廃棄物はどう扱うのか―。今は全くの「白紙」だ。(敬称略)


【霞む最終処分】(8)第1部「中間貯蔵の現場」 減容化が生む新たな壁 処理後、高線量廃棄物に
                           福島民報 2023/12/29
 東京電力福島第1原発事故に伴う中間貯蔵施設(福島県大熊町、双葉町)の敷地内に幅35メートル、奥行き70メートル、高さ10メートルの体育館のような実証試験用の施設がそびえる。
 放射線管理区域に指定されている建物内で、草木などの焼却処理で発生する灰から放射性セシウムを分離する技術開発が進む。環境省や中間貯蔵・環境安全事業株式会社(JESCO)、民間企業の関係者らが集い、各種装置で試験を繰り返す。
 JESCO中間貯蔵管理センターの担当者は「県外最終処分の量を減らすための試験だ。処分時の安全性を確保できるようにする」と意義を語る。
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 除染で発生した廃棄物の最終処分に向け、草木などの可燃物は焼却して量を減らす。さらに、発生した灰を高温処理することで、廃棄物の容積を20~30分の1程度にできるという。
 処理の際、排ガスに含まれる細かい灰(飛灰)には廃棄物に含まれていたセシウムの大部分が移行しており、水に溶けやすくなる。実証試験はこの性質を利用し、飛灰を水で洗ってセシウムを分離し、吸着剤で回収・濃縮する。その上で固化し、安定して保管できる状態にする。JESCOによると、今年度中の技術の確立を目指すという。
 ただ、施設を訪れた環境省職員は悩ましげにつぶやく。「技術を用いれば飛灰の最終処分量を大幅に減らすことができる。一方、吸着剤のセシウム濃度は高まることになる」
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 実証試験ではセシウム濃度が1キロ当たり4千万ベクレルほどになる。表面の放射線量は毎時2ミリシーベルト程度になるという。接するほどの距離に1時間いた場合、計算上は国内での年間平均被ばく線量と同程度をあびることになる。
 高線量の放射性廃棄物を生み出すことに、環境省の会議に臨んだ専門家からは「中間貯蔵施設から持ち出しにくくなる」と疑問の声が上がる。県外に最終処分場を整備した後も、受け入れに理解が得られない「厄介者」になる可能性もある。
 環境省福島地方環境事務所中間貯蔵総括課長の服部弘は「現在は技術を実証する段階。導入の可否は今後検討する」と語る。試験の成果が生かされるかどうかは現時点で見通せない。(敬称略)


【霞む最終処分】(9)第1部「中間貯蔵の現場」除染土壌 資材化に課題 異なる性状、強度不足
                            福島民報 2023/12/30
 東京電力福島第1原発事故に伴う中間貯蔵施設(大熊町、双葉町)の敷地内に今年10月、延長180メートルの新たな「道路」が完成した。盛り土に除染土壌を使う実証事業として環境省が整備した。
 環境省が関東地方で計画する実証事業は手詰まり状態にある。除染土壌を自由に移動できる中間貯蔵施設の敷地内に整備した道路の盛り土を来訪者に見てもらい、除染土壌の再生利用への理解を促す狙いがある。
 ところが、整備の過程で難題が浮かんだ。「現状では、除染土壌を土木資材として大量かつ速やかに供給するのは困難ではないか」。省内から懸念の声が上がる。


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 道路は延長180メートルのうち50メートルの区間で土台となる「路体」に、1キロ当たり平均6400ベクレルの放射性物質を含む除染土壌2700立方メートルを使用した。除染土壌から舗装面までは1・6メートルほどの厚さで放射性物質に汚染されていない土による路床などを設け、のり面は厚さ50センチ以上の覆土を施した。路面上の空間放射線量は毎時0・2マイクロシーベルト程度で、周辺と変わらない。
 盛り土を造るに当たり、土壌の強度が課題となった。中間貯蔵施設で保管されている除染土壌は、県内各地の宅地や農地から剥ぎ取っているため、性状がそれぞれ異なる。特に農地の土は軟らかく、水分を多く含む。道路盛り土に用いるには強度を高めなければならず、焼却灰を溶融したものを冷却固化した物体(スラグ)や石灰を混ぜるなど試行錯誤を重ねた。実際に道路上で車を走らせるなどして、強度や安全性を確認する。
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 除染廃棄物は2045年3月までの県外での最終処分が法律で定められている。実現に向け、政府は放射性物質濃度が比較的低い土壌を道路や防潮堤の整備などの公共事業で使い、処分量を減らす方針だ。再生利用の割合が増えれば、最終処分の量が減り、受け入れ先の負担は軽くなる。
 再生利用を進めていくには、建設現場などでまとまった量を使うケースが想定される。一方、除染土壌の固さや含水量などの品質を一定に保った上で現場に供給する設備は現時点で整っていない。環境省福島地方環境事務所中間貯蔵総括課長の服部弘は「これまでの計画にない、新たな設備が必要になる可能性もある」との見方を示す。(敬称略)


【霞む最終処分】(10)第1部「中間貯蔵の現場」 残された時間「たった22年」 技術と理解醸成必須
                           福島民報 2023/12/31
 東京電力福島第1原発事故に伴う中間貯蔵施設(福島県大熊町、双葉町)に保管されている除染廃棄物については、中間貯蔵・環境安全事業株式会社法で「国は、中間貯蔵開始後30年以内に、福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずるものとする」と定められている。実現に向け、まずは乗り越えなければならない二つの壁がある。「技術」と「理解醸成」だ。環境省は両にらみでの対応が求められる。
 環境省環境再生事業担当参事官の中野哲哉は「簡単に解決できるものではない」と悩ましい表情を浮かべる。
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 県外最終処分に向けては廃棄物の量を減らすため、土壌の再生利用が欠かせない。環境省の有識者会議は再生利用の技術確立に向けた検討を続けている。
 廃棄物の最終処分や土壌を再生利用する際の取り扱い方の基準を設け、2024(令和6)年度までに放射性物質汚染対処特別措置法に基づく環境省令に盛り込む方針。基準により再生利用できる量が明確化し、具体的な最終処分量をはじき出せる。その上で、廃棄物の放射性セシウム濃度を推計し、最終処分場の構造や規模を具体化できると見込む。
 技術を確立する過程で国際原子力機関(IAEA)の知見を取り入れる。既にIAEAと2回の専門家会合を開き、今年度末にも3回目を開く予定。国際的権威のある第三者機関の「お墨付き」を得る考えだ。
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 除染土壌の再生利用を巡っては、環境省が計画する実証事業に反対の動きが出るなど、人々の「拒否感」は根強い。再生利用を進めつつ廃棄物の最終処分先を絞り込むには、国民の理解醸成が欠かせない。環境省は若者と膝詰めで議論する取り組みを今年度中に始める考えだ。2045年ごろに現役世代の中心となる若年層を重視する。
 近く新たなワーキンググループ(作業部会)も設ける。除染土壌の再生利用や県外最終処分場の建設に向け、関係者との効果的な対話の手法などを探る。
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 ただ、最終処分の議論は始まったばかり。最終処分場の選定、建設にも多くの時間を要することが見込まれる。10月に講演した知事・内堀雅雄は「法律で定められた2045年まで、たった22年」と危機感をあらわにし、国が責任を持って対応するよう訴えた。
 政府が福島第1原発の処理水の海洋放出に至る経緯で持ち出した「その場しのぎ」や「結論ありき」の進め方を繰り返せば、国民の理解を得るのは困難になりかねない。中野は「県外最終処分は、中間貯蔵施設のために土地を提供した住民の重荷が永続的にならないように決めた方向性だ。2045年までに県外最終処分を終わらせるとの約束を果たさなければならない」と自らに言い聞かせた。(敬称略)=第1部「中間貯蔵の現場」は終わります=