2024年4月29日月曜日

柏崎刈羽原発「再稼働でも電気料金下がらない」というのはなぜ?

 電力会社はこれまで発電コストに関して原発の優位性を強調し、原発を稼働させれば電気料金が下がると宣伝して来ました。それでは今度柏崎刈羽原発7号機が再稼働すれば電力料金が下がるのかというと「下がらない」ということです。

 騙されたような話ですが、その理由は現在公表しているコストは再稼働を見越した数字だからということです。毎日新聞が報じました(もともと原発のコスト計算では、核燃料の後処理を除外するなどの不正確さがありました)。
 今度の記事で分かったことは、電力会社はこれまで原発の発電コストを確か10円前後というレベルで発表して来ましたが、実際には41・51円だということです。似ても似つかない数字で、これでは「何をコストと呼ぶのか」ということから説明し直してもらわないと分かりません。
 こんな謎だらけの世界であるならば、そもそも原発のコストが安いなどという欺瞞の宣伝は止めるべきでしょう。
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柏崎刈羽原発「再稼働でも電気料金下がらない」なぜ?
                            毎日新聞 2024/4/28
 東京電力は再稼働を目指している柏崎刈羽原発7号機(新潟県)の原子炉に核燃料の装着を始めた。政府と電力会社はこれまで「原発は発電コストが安い」「原発を再稼働すれば電気料金を抑制できる」と主張してきた。ところが東電の場合、柏崎刈羽原発が再稼働しても「さらに電気料金が安くなることはない」という。一体どういうことなのか。【毎日新聞経済プレミア・川口雅浩】

 東電は2024年4月15日、柏崎刈羽原発7号機の原子炉に核燃料の装着を始めたが、4月17日朝に制御棒の駆動用モーターの電源に不具合が発生。東電は核燃料の装着作業を一時中断し、約16時間後に作業を再開した。
 福島第1原発の事故後に再稼働した全国の6原発12基は、いずれも地元が同意した後に核燃料を装着している。今回のように地元の同意前の装着は異例なだけに、柏崎刈羽原発をめぐってはメディアの注目度が高い。
 このため東電は4月18日、柏崎刈羽原発7号機の核燃料装着作業を報道陣に公開した。作業は土日を含め24時間態勢で行われ、核燃料872体を2週間程度かけて原子炉に装着するという。
 岸田文雄首相はこれまで「原発の再稼働で電力価格上昇が抑制される」と国会で答弁している。岸田政権が原発の再稼働を目指すのも、国民の電気料金の負担を抑える狙いがある。
 東電は今回、核燃料の装着を始めた柏崎刈羽原発7号機だけでなく、同6号機の再稼働を目指している。再稼働すると1基当たり約1100億円の収支改善効果があるという。2基再稼働すれば約2200億円と改善効果は大きい。

◇「再稼働は料金に織り込み済み」
 ところが、仮に6、7号機が再稼働しても「さらに電気料金が安くなることはない」とはどういうことなのか。東電によると、「現在の電気料金の原価には、あくまで料金算定上の仮置きとして、原子力の稼働を織り込んでいるからだ」という。
 東電は23年6月1日、家庭などに供給する電気の規制料金を平均15.9%値上げした際、原発2基の再稼働で「年間900億円程度の費用削減効果になる」と説明していた。再稼働に伴い、核燃料代などはかかるが、卸電力取引市場を通じて他社から購入する火力発電などの電力が少なくなるからだと主張していた。
 それが今回、「1基当たり約1100億円」という説明になったが、いずれも現在の電気料金には「織り込み済み」のため、再稼働しても電気料金に変化はないのだという。
 

◇再稼働のメリットは?
 原発が再稼働しても電気料金が下がらないのであれば、消費者にとっては再稼働のメリットは少ないともいえる。
 福島第1原発事故の賠償や廃炉費用を捻出するため、東電は柏崎刈羽原発に核燃料を装着し、一日も早く再稼働させたいのかもしれない。
 しかし、政府や東電が目指す再稼働の行方は見通せない。能登半島地震は原発事故時の避難に課題があることを浮き彫りにした。
 今回の7号機の核燃料装着を受け、4月21日に新潟市内で開かれた有識者のシンポジウムでは、新潟県内で地震と原発事故が起きた場合、「現在の避難計画が実行可能とはとても思えない」と専門家が指摘している。柏崎刈羽原発の再稼働をめぐっては、慎重な対応を求める声が強まるのは間違いない。

◇燃料代の抑制より維持費が高い?
 東電が23年に公表した資料によると、原発2基の再稼働で東電は年間119億キロワット時の電力を発電する想定で、その費用の総額は4940億円となっていた。
 この中には日本原子力発電と東北電力から原発の電力を購入する契約に基づき、東電が日本原電に支払う約550億円と東北電力に支払う約313億円が含まれている。両社の原発は動いていないため、東電が実際に受け取る原発の電力はゼロだが、契約に基づき人件費や修繕費などを支払うことになっている。
 年間119億キロワット時の電力を4940億円かけて発電するので、1キロワット時当たりの発電コストは4940÷119=41.51円となる。
 ところが東電が他社から購入する火力などの電力の市場価格は1キロワット時当たり20.97円となっている。
 このため東電は原発2基を再稼働するよりも、市場から火力発電など他社の電力を購入した方が安く済む計算になると、23年6月に毎日新聞経済プレミアでリポートした(「原発が安いは本当?『東電資料』から見つけた意外なデータ」)。
 このデータから「原発は燃料代を抑えられたとしても維持費が高く、電気料金の抑制効果はほとんどない」という脱原発派の主張には説得力がある。東電の「織り込み済み」とは、この辺の事情を加味してのことだろう。
 柏崎刈羽原発が再稼働しても電気料金が安くならないことについて、原子力政策に詳しい龍谷大の大島堅一教授(環境経済学)は「織り込み済みだという東電の主張はその通りだろう。実際には再稼働で電気料金が下がる分よりも、私たちが電気料金で支払っている原発の維持費の方が高いはずだ」と話している。
 原発は安全対策の強化で発電コストも上がっている。経済産業省の試算では、30年の1キロワット時当たりの発電コストは原発の11.7円以上に対して、陸上風力は9.9~17.2円、事業用の太陽光発電は8.2~11.8円と、原発の価格優位性は揺らぎつつある