2024年4月20日土曜日

柏崎刈羽原発再稼働を問う 新潟県知事経験者インタビュー(上)(下)

 柏崎刈羽原発の再稼働を巡り、政府は立地自治体の新潟県に同意を要請していますが、まだ安全な避難の確実性がソフト面でもハード面でも「全く担保されていない」中であり得ない話です。
 東京新聞が新潟県知事経験者の衆院議員米山隆一氏(立憲民主党、新潟5区)泉田裕彦氏(自民党、比例北陸信越)に再稼働について聞きました。
 現役の時から再稼働には反対していた米山氏の発言はそれと整合していますが、現役時代は慎重な姿勢を見せていながら、退任後に自民党議員になって整合性を疑われた泉田氏も、米山氏と同様に慎重な発言をしています。
 現在再稼働に関する賛否を明らかにしていない現役の花角知事も是非両者の慎重な姿勢を見習って欲しいものです。

 自治体が避難計画を作るに当たっては、原子力規制委が示す原子力災害対策指針を参考にします。ところが規制委は2月、問題が山積している「屋内退避」は「できるという前提で議論する」と明言した一方で、方針の見直しには1年かかるとしています。また柏崎刈羽周辺が豪雪地帯で冬場の避難は困難を極めるとみられます。
 まずはそれらに対する規制委の基本方針が決まり、それに対応した道路や家屋、避難所などのハード面の整備が完了することが再稼働の最低の条件になります。
 まだまだ首長に再稼働への同意を迫れるような段階でないことを、まずは政府は理解すべきです。
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<再稼働を問う 新潟県知事経験者インタビュー㊤> 東京電力・柏崎刈羽原発
米山隆一氏、再稼働の意思確認は「住民投票でやるべきだ」 判断材料まだ不足
                          東京新聞 2024年4月18日
 東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働を巡り、政府は立地自治体の新潟県に同意を要請しており、花角英世知事の対応が焦点となっている。一連の動きをどう見るか。原発と向き合ってきた新潟県知事経験者の衆院議員2人のうち、まずは米山隆一氏(立憲民主党、新潟5区)に聞いた。(宮尾幹成)

◆東京電力は「コストを払う」意思表示をうやむやにしている
 —県が再稼働同意の可否を判断する機は熟しているのか。
 判断の材料を県も国も示していない事故時の避難経路は相当程度に渋滞して、一定期間被ばくするのはほぼ確実。だから、そのシミュレーションを基にした避難計画をちゃんと作った上で、東京電力はそのコストを払うという合意があってしかるべきだ。それをうやむやにしている

 —花角知事は、県民の意思確認について「信を問う」と、出直し知事選も示唆している。望ましい意思確認の方法は。
 住民投票でやるべきだ。出直し選挙は党派性や人格などが混じってしまい、実は原発再稼働を問うていないというようなことが起こる。今、出直し選挙をやったら再稼働反対派の野党系が勝つ確率が5、6割あるので、何ならやってもらってもいいが、原理原則では住民投票だ。

◆新潟県は「再稼働に都合のいい情報」だけ出している
 —国からの同意要請については、県議会の自民党からも「時期尚早だ」との声が上がっている。
 政局的なうがった見方をするなら、自民党が花角知事に知事選に打って出てほしくなくて、けん制する意味もあるのではないか。

 —原発事故について県独自の「三つの検証」を総括する有識者会議が花角知事と対立し、事実上休止した。県が報告書を取りまとめる事態となった。
 例えば避難道路の整備について、ただ道路を造るような話になっている。みんなが一斉に逃げた時に渋滞しない道路なんて無理なわけで、むしろ何時間か渋滞することを前提に考えないといけないのに、県の志が低い。再稼働という結論に向かって、都合のいい情報だけ示している。

◆再稼働「選択の問題で、全否定するつもりはない」
 —超党派の地方議員グループに、再稼働の同意の対象を立地自治体だけでなく、避難計画の策定が義務づけられている30キロ圏の自治体まで広げるよう求める動きがある。
 実務的にちょっと難しいのではないか。今の行政の枠組みでは、広域自治体は県という形になっている。30キロ圏の人の声はちゃんと県が集約するという代表の仕方しかないと思う。

 —そもそも、柏崎刈羽の再稼働は必要なのか。
 選択の問題で、全否定するつもりはない。エネルギーコストを考えて再稼働を取るという選択はできるが、同時に大きなリスクと、リスクに対処するためのコストも伴う。それをきちんと示して選ぶべきだ。

米山隆一(よねやま・りゅういち) 1967年、新潟県湯之谷村(現魚沼市)生まれ。医師、弁護士。2016年10月〜18年4月に新潟県知事。前任の泉田裕彦氏が福島第1原発事故を県独自に検証するために設置した有識者会議「原発の安全管理に関する技術委員会」に「原発事故による健康と生活影響に関する検証委員会」「原子力災害時の避難方法に関する検証委員会」と「検証総括委員会」を追加した。21年衆院選で初当選し、22年9月に立憲民主党入り。

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◆花角英世知事、再稼働同意の前に「信を問う」と明言
 柏崎刈羽原発7号機は原子炉内に核燃料全872体を入れ終えて、核燃料体から制御棒を引き抜けば、再稼働する。東京電力は地元の同意なしでは「制御棒を引き抜かない」とする。
 花角知事は同意の是非の判断に当たり「県民の信を問う方法が責任の取り方として最も明確であり、重い方法だ」と明言。2022年に再選した際には「『信を問う』との一般的な語感からすれば、存在をかけるという意味合いが強い。知事選も当然一つの形だ」と、任期途中での出直し知事選をほのめかした。一方で「議会の不信任や住民投票も、可能性としてはあるかもしれない」とも語った。
 同じ新潟県の旧巻町(新潟市西浦区)では、計画された東北電力巻原発の建設の是非を巡り、1996年に住民投票を実施。投票率は88.3%で住民の関心の高さを示した。建設反対(1万2478票)が賛成(7904票)を上回り、東北電力は計画断念に追い込まれた
 東京電力福島第1原発事故後に再稼働した6原発では、知事が同意を判断する際、県議会の同意を一つの根拠としてきた。知事選や住民投票を実施したケースはない。(荒井六貴)


<再稼働を問う 新潟県知事経験者インタビュー㊦> 柏崎刈羽原発
泉田裕彦氏、知事在任中に出くわした東京電力の「ウソ」 再稼働の判断前に必要なことがある
                         東京新聞 2024年4月19日
 東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働に向けた動きについて、新潟県知事を経験した衆院議員2人に聞く連続インタビュー。2回目は泉田裕彦氏(自民党、比例北陸信越)に語ってもらった。(宮尾幹成)

◆「30キロ圏には40万人の住民がいる」
 —政府が県に再稼働の同意を要請した。判断の機は熟しているか。
 熟していない。2007年の中越沖地震や11年の東日本大震災で明らかになった課題に対処できていない。やるべきことをやっていないのが今の段階だ。
 (自然災害と原発事故の)複合災害で屋内退避が行われた時に、電気・ガス・水道のどれか一つ止まれば煮炊きはできない。道路の復旧はどうするのか。雪が降っていたら誰が除雪するのか。こうしたことを全く決めていない。大混乱が生じるのは火を見るより明らかだ。
 (広域避難計画策定が義務づけられている)30キロ圏には40万人の住民がいる。何万人もの被災者への対応を自衛隊だけでできるというのは幻想で、民間との役割分担が必要だが、こういうことも考えていない。

◆やるべきことをやらないから「今、意思を問うたところで…」
 —知事が県民の意思を確認するのは、どんな方法が望ましいか。花角英世知事は「『信を問う』」と述べている。
 その議論をしたら一人歩きして、やるべきことがこんなにあるというメッセージが伝わらなくなる事故になれば何が起きるかを県民に伝えた上で、どんな体制を組むかが先だ。今、意思を問うたところで、分からない人に聞くことになり、賛成する人も反対する人も不利益になる。

 —超党派の地方議員グループが、再稼働の事前同意の対象を、避難計画の策定が義務づけられている30キロ圏内の全自治体に広げるよう求めている。この動きをどう見るか。
 県がやるべきことをやらないで逃げているから、こういう声が出てくる。やるべきことをやった上で、市町村に負荷をかけないようにしていれば、また別の風景が見えるかもしれない。

 —東京電力の原発事業者としての信頼性は。
 ない。ゼロだ。福島第1原発事故で4号機が爆発して少し落ち着いた後に、柏崎刈羽の幹部に説明に来てもらったが、メルトダウン(炉心溶融)しているんでしょうねと聞いたら、していないと。最初から分かっていたはずなのに、原発立地県の知事にこういううそをつく

 —そもそも、柏崎刈羽の再稼働は必要か。
 やるべきことをやっていないのだから、それも議論する段階にない。

泉田裕彦(いずみだ・ひろひこ) 1962年、新潟県加茂市生まれ。通商産業省(現経済産業省)を経て、2004年10月〜16年10月に新潟県知事。13年2月に有識者会議「原発の安全管理に関する技術委員会」を設置し、東京電力福島第1原発事故について県独自の検証を始めた。17年衆院選に自民党公認で立候補し初当選。現在2期目。

  ◇    ◇
◆前提崩れた「屋内退避」…原発の避難計画の現状は
 原発30キロ圏内の自治体に義務付けられている避難計画には、深刻な事故が起きた際、自治体から住民への情報伝達、甲状腺被ばくを抑えるヨウ素剤の配布方法、避難先までのルートや交通手段、介護が必要な人への対応などが記される。新潟県柏崎市が公表する避難計画はA4判で120ページになる。
 自治体が避難計画を作るに当たっては、原子力規制委員会が示す原子力災害対策指針を参考にしている。
 指針は5キロ圏内は即時避難で、5〜30キロ圏はいったん屋内退避し放射線量を基に段階的に避難すると示す。
 ただ、能登半島地震では、水道や電気が止まり、住宅が倒壊すれば、屋内退避は困難であることが改めて浮き彫りになった。仮に、学校などに避難し屋内退避できたとしても、原発事故で水や食料などが十分に届くのかは分からない。
 規制委は2月、指針の見直しに着手する方針を示したが、「屋内退避できる」との前提で議論することとした。この見直し議論でも1年近くかかるとされる。
 柏崎刈羽でいえば、屋内退避の問題に加え、周辺が豪雪地帯で冬場の避難は困難を極めるとみられる。そうした対応が決まっておらず、内閣府は避難計画を最終的に了承していない。(荒井六貴)