2024年4月27日土曜日

最悪を想定せず屋内退避を議論し始めた原子力規制委

 規制委は、原発事故時には道路の混雑を避けるために、5~30キロ圏内の住民は次の指示があるまで自宅退避とする」としています。
 しかし家屋の倒壊や半壊が想定され、また津波が襲来する中では自宅退避は「非現実的である」という指摘が当初からありました。元日に起きた能登半島地震で家屋の半壊が多数生じたことから、その指摘が的中したことが証明されました。

 原発事故時の屋内退避について規定する原子力災害対策指針を見直すため、原子力規制委が設置した検討チームの初会合が22日に開かれまし。そこでは屋内退避の安全性等を議論するのではなく、原発事故が起きた場合でも「新」規制基準によって放射能は大量に放出されないという前提の下に、屋内退避の具体的な日数や対象範囲などを議論していく方針であり、そのことに出席者から異論は出なかったということです。しかしそれはそういう趣旨の委員会であったから誰も異論をはさまなかったのでした。
 日本では基準地震動を3000ガル程度にあげておく必要があると言われているのに、実際に基準地震動を僅か数百ガル程度に低く設定している原発も沢山ある規制基準のどこが一体安全だというのでしょうか。
 規制基準に合格した原発は事故時でも大量の放射能を放出しないというのは正に「新たな神話」です。原子炉格納容器内の圧力が上昇した際には、容器の破裂を防ぐために大気放出しますが、その際に通す「ろ過設備」は海外のものに比べると余りにも貧弱で、到底放射能が低く抑えられるなどと言えるものではありません。

 1年掛けて屋内退避の具体的な日数や対象範囲などを定めたとしても、屋内退避の安全性の問題は何も解決しません。折角屋内退避の問題を議論する委員会を作ったというのに何というピントの外れ方でしょうか。
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原発事故で放射性物質が漏れる事態「回避できる」 最悪を想定せず屋内退避を議論し始めた原子力規制委員会
                         東京新聞 2024年4月22日
 原発で事故が起きた時の屋内退避について規定する原子力災害対策指針を見直すため、原子力規制委員会が設置した検討チームの初会合が22日、開かれた。東京電力福島第1原発事故のように、大量の放射性物質が原発の外に漏出するような最悪レベルの事故を想定しないことが示された

◆「新規制基準で対策が強化されている」
 事務局はこの日、福島事故後につくられた新規制基準で設置が求められる事故対策がうまく機能した、とする三つの想定を提示。いずれも、格納容器が破損して放射性物質が大量漏出した福島事故のような重大事態を回避できる状態とした。担当者は「新規制基準で対策が強化されており、現実的な事態」と説明した。
 想定しているのは原発のフィルター付きベントなどで放射性物質の漏出を制御できるような事故。被ばく線量をシミュレーションし、屋内退避の具体的な日数や対象範囲などを議論していく方針で、出席者から異論は出なかったチームは放射線医学の専門家や自治体職員、内閣府の担当者ら約20人で構成する

◆能登半島地震では屋内退避は困難だった
 現行の指針では、原発事故時、5~30キロ圏内ではいったん屋内退避し、放射線量により段階的に避難するとしている。能登半島地震では家屋倒壊が多発し、北陸電力志賀原発(石川県)で事故が起きていたら屋内退避が難しい状況だった。だが、規制委は屋内退避が有効な手段との認識を示し、チームは屋内退避を前提に議論し、本年度内に報告書をまとめる。(渡辺聖子)


原子力災害対策指針を見直しへ…でも規制委は大幅変更を否定 能登半島地震で「避難の前提」総崩れになったのに
                         東京新聞 2024年1月17日
 原子力規制委員会は17日の定例会合で、能登半島地震を受けて原発の立地自治体から事故時の屋内退避のあり方について意見があったとして、原子力災害対策指針を見直す方針を決めた。現行の指針では示されていない屋内退避の解除の時期などを明記する見通し。
 原子力災害対策指針 東電福島第1原発事故後、重大な原発事故が起きた場合に備え、原子力規制委員会が策定した。重大な事故時は原発の5キロ圏内は避難し、5〜30キロ圏内は屋内退避することなど、住民避難や被ばく防護措置が定められている。

◆家屋倒壊、道路寸断見ても「現在の指針対応できる」
 指針は原発の立地自治体が地域防災計画をつくる際に参考とする。今回の地震では北陸電力志賀原発(石川県)で事故が起きた場合、家屋倒壊などで屋内退避そのものができない状況となった。しかし、踏み込んだ見直しにはならない可能性が高い。
 定例会合で、山中伸介委員長が見直しに向けた議論を提起。地震津波の審査を担当する石渡明委員は、自然災害によって避難に支障が出る事態について「現在の指針は少し足りない」と述べた。山中委員長が議論の論点を提示するよう事務局に指示した。
 一方で、山中委員長は定例会合後の記者会見で、現在の指針について「能登半島地震への対応に問題はない」と述べ、大幅な見直しにはならない考えを示した。多数の家屋倒壊や道路寸断が発生したことを踏まえた見直しの必要性を問われても、「現在の指針や自治体が策定する地域防災計画で対応できる」と述べるだけだった。
 見直しを提起した理由については、13日に東北電力女川原発(宮城県)の立地自治体と意見交換した際、出席者から屋内退避の解除時期を巡る質問が相次いだと説明。「(解除時期を)より明確に示したい」と述べ、見直しにかかる期間については「難しい議論になるため、数カ月はかかる」との見通しを示した。(渡辺聖子)

◆リスクを軽視する規制委 福島第1原発事故を忘れたのか
 <解説> 原発事故時の避難行動のベースとなる原子力災害対策指針の見直しを限定的な範囲にとどめようとする原子力規制委の姿勢は、原子力災害のリスクの大きさから目を背けるもので、規制当局としての役割を果たしていない
 能登半島地震では、多くの家屋が倒壊し、指針が定める屋内退避が現実的に不可能であることが明白になった。避難の判断に使う放射線量の実測値も、北陸電力志賀原発(石川県)の30キロ圏で最大18カ所のモニタリングポストが測定できなくなった。避難に使う道路も寸断され、船での避難も断層活動による隆起で一部の港が使えなくなるなど、指針の前提はことごとく崩れた
 2011年3月の東京電力福島第1原発事故の教訓は、原発に100%の安全はなく、常にリスクと向き合い対策を改めていくことにある。指針が機能しない現実が明らかになった以上、問題点を詳しく洗い出し、抜本的な見直しに臨むことが規制当局としてのあるべき姿だ。規制委は、福島事故で今も2万人を超える福島県民が避難を続けている現状を忘れてはならない。(小野沢健太)