2022年4月13日水曜日

13- トリチウム水海洋放出「見切り発車」に募る不信

 福島第1原発から出るトリチウム水の海洋放出をめぐり、関係者の理解が十分に進んでいないのに政府が「見切り発車」的に方針を決定したことに、識者からは「最悪の意思決定だった」とした上で、福島以外の地域で放出に賛成する人が増えつつあるのは、背景に「『福島産品を食べなければ済む』といった考えがあるのではないかと指摘されています。
 海洋放出に当時から一貫して反対している県漁連との溝は埋まりそうにありません
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「見切り発車」、募る不信 放出強行に警戒 福島第1処理水
                               時事通信 2022/4/13
 東京電力福島第1原発から出る放射性物質トリチウムを含む処理水の海洋放出をめぐり、漁業者ら地元関係者が不信感を募らせている。
 理解が十分に進んでいないのに、政府が「見切り発車」的に方針を決定したためで、識者からも批判の声が上がる。放出強行への警戒感も高まっている。
 「福島県で漁業を続け、生活していきたい。反対の立ち位置を続ける」。福島県漁業協同組合連合会の野崎哲会長は今月5日、萩生田光一経済産業相から風評被害対策について説明を受けた後、こう表明した。福島では昨年4月、原発事故後に続いた漁獲制限から本格操業に向けかじを切ったばかりで、風評被害が広がれば死活問題となる。

 処分方法を議論した政府の小委員会で委員を務めた小山良太福島大教授は、昨年4月の政府の決定について「福島の復興にとって最悪の意思決定だった」と批判する。
 小山氏は、福島以外の地域では理解が進まないまま放出に賛成する人が増えつつあると分析。背景には「『福島産品を食べなければよい』といった考えがあるのでは」と指摘する。消費者の理解が不十分な状況で放出を強行すれば、問題が生じた際などに深刻な風評被害を招くとの懸念を示した。
 ただ、処理水の処分を先送りすれば、廃炉作業に影響が及び、原発が立地する福島県双葉町・大熊町の負担が増す恐れがある。双葉町の伊沢史朗町長は3月、報道各社のインタビューに「放出に賛成しているわけではない」と苦しい胸の内を語った。その上で、「(処理水を保管する)土地を提供しますといった方策は出てきていない。『流すな、ためておけ』では問題の先送りにしかならない」と訴えた。
 高い安全性を主張しながら原発事故を起こした東電と原発利用をはじめとする核燃料サイクルを政策として推進してきた政府。放出を強行する背信を繰り返せば不信は増幅しかねない。


風評払拭、進まぬ理解 処理水海洋放出方針決定から1年
                               河北新報 2022/4/13
 東京電力福島第1原発にたまり続ける放射性物質トリチウムを含む処理水の処分に関し、政府が2023年春ごろに海洋放出する方針を決定してから13日で1年がたつ。海洋放出まで残り1年。政府は昨年12月末に中長期の行動計画を策定し、予想される風評被害の払拭に向けた理解醸成の施策を随時進めるが、手応えはいまひとつだ。福島県内の関係者には焦りの色がにじむ。(福島総局・横山勲)
 「処理水放出について地元の思いは人それぞれ。もっと本音を伝えていくべきだ」。3月24日に福島市であった県廃炉安全確保県民会議。浪江町行政区長会議会長を務める佐藤秀三委員(77)は席上で率直な思いを吐露した。
 処理水には除去が難しい放射性物質トリチウムが大量に含まれる。通常の原子力施設でも海や大気に放出して処分している。政府と東電は安全性を繰り返し強調する。
 佐藤さん自身は放出自体はやむを得ない、という立場だ。「地元の大多数は安全性を理解した上で、できるなら放出をやめてほしいと思っている」。佐藤さんはそう推測している。地元の人が処理水をどう捉えているかを正確に発信しなければ「かえって風評を招く」と危惧する。
 福島県漁連の野崎哲会長は4月5日、全国漁業協同組合連合会(全漁連)の岸宏会長と共に都内で萩生田光一経済産業相と面会。終了後の取材に「(処分問題への)『理解』と『了解』は違う」と強調し、改めて反対姿勢を鮮明にした。
 15年に事故炉周辺でくみ上げた地下水の海洋放出を県漁連が「了解」した際、一部反対派の批判の矛先が漁業関係者に向いた経緯もある。県漁連は「処理水」の放出については当時から一貫して反対しており、溝は埋まりそうにない

 東電は本年度から第1原発構内に福島県内の住民を招く視察会の実施回数を拡充するなど、理解促進の取り組みを大幅に強化する。東電福島復興本社の高原一嘉代表は「信頼を失っている自覚はある。まずは処理水の安全性を理解をしてもらうことを最優先に説明を尽くしたい」と話す。

処理水] 第1原発の原子炉建屋に流れ込んだ雨水や地下水が、溶け落ちた核燃料(デブリ)に触れて発生する汚染水を、多核種除去設備(ALPS)で浄化し放射性物質をこし取った水。除去が難しい放射性物質トリチウムが含まれる。放出時は処理水と海水を混ぜ、世界保健機関(WHO)の飲料水基準の7分の1(1リットル当たり1500ベクレル)未満に薄める。2021年中の汚染水の1日平均発生量は150トン。処理水の保管量は3月末時点で約129万トンで、上限量(約137万トン)の約95%に達した。タンクは23年春ごろに満杯になるとされる。


処理水海洋放出の本体工事340億円 福島第1原発、東電が見通し
                               毎日新聞 2022/4/13
 東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出を巡り、東電は12日、1キロ沖合へ放出するための海底トンネルや送水管など設備の本体工事に、約340億円かかるとの見通しを明らかにした。今後3年間では、海水に含まれる放射性物質の濃度の測定費は計25億円を見積もっており、海洋放出の関連費用は本体工事費を含め計約437億円に上る。
 東電は、福島第1原発の廃炉作業や汚染水対策に使うため「廃炉等積立金」を積み立てている。経済産業省はこの日、こうした費用を盛り込んだ廃炉等積立金に関する2021年度の計画について承認した。
 計画の中で、東電は予備費を含めた廃炉などの費用として、22年度が2376億円、23年度が2789億円、24年度が2251億円を計上した。汚染水対策や溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)の取り出し、使用済み核燃料プールに残る核燃料の取り出しなどにかかる費用だという。
 東電の海洋放出の実施計画について、原子力規制委員会の審査は大詰めを迎えている。認可されれば、東電は6月にも本格的な工事を始め、23年4月中旬にも完成させたい考えだ。ただ、地元の漁業関係者らは反発している。【吉田卓矢】