鹿児島の紫尾山系で風力発電施設の建設計画を進めているユーラスエナジーホールディングスの環境影響評価(アセスメント)準備書に対し2月末、経済産業省の勧告が出ました。
競合する電源開発にも昨年すでに勧告が出ています。両社の準備書の大きな違いは、建設に伴う残土処分地(土捨場=どすてば)の記載の有無で、ユーラス社は建設地近くで処分する方針で、住民からは土砂災害への不安の声が後を絶ちません。一方、具体案を示さない電源開発にも不信の声が上がっています。
ユーラス社が21年6月に公表した準備書では、建設場所に近い薩摩川内市東郷町の山林7カ所を土捨場候補地として、計36ヘクタールの森林を伐採し、120万立方メートルの盛り土を行う計画です。
南日本新聞が残土処分を中心にした記事を出しました。
再生エネ発電の拡大にも様々な問題が伴います。
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大規模風力発電計画で発生する残土はどこへ… 120万立方メートルを盛り土? 住民からは不安の声
南日本新聞 2022/4/3
鹿児島の紫尾山系で風力発電施設の建設計画を進めているユーラスエナジーホールディングス(東京)の環境影響評価(アセスメント)準備書に対し2月末、経済産業省の勧告が出た。競合する電源開発(東京)にも昨年すでに勧告が出ている。両社の準備書の大きな違いは、建設に伴う残土処分地(土捨場=どすてば)の記載の有無だ。ユーラス社は建設地近くで処分する方針で、住民からは土砂災害への不安の声が後を絶たない。一方、具体案を示さない電源開発にも不信の声が上がる。
【写真】関連地図・紫尾山系で進む風力発電計画
経産省勧告は2社いずれに対しても、主にクマタカなど希少動植物の保護のため、一部風車の設置取りやめや配置変更などを求めている。残土処分については、土地の改変を最小限に抑え、残土発生量を極力抑制することとしている。
ユーラス社は2021年6月に公表した準備書で、風車建設場所に近い薩摩川内市東郷町藤川の山林7カ所を土捨場候補地として挙げた。計36ヘクタールの森林を伐採し、120万立方メートルの盛り土を行う計画だ。
同社は「7カ所はあくまで候補地。災害発生時の影響を回避低減できると思われる土捨場の案を複数立案した」とし、「ヤード設計を地形に合わせた形にするなど工夫を重ね、残土量を抑えている。うまくいけば1~2カ所ですむ可能性もある」と説明する。
準備書の前段階の方法書に対する鹿児島県知事の意見書では、残土処分を「谷部分を埋める方法にて実施しないこと」との記載がある。にもかかわらず事業区域内で行うとした理由を、同社は「経産省勧告に盛り込まれなかったため」と説明している。
この点について経産省は「方法書はアセスの手法について示すもの。段階に応じて勧告を出すため、盛り込まない内容もある」とし、知事意見書は「地元への十分な配慮を促すため添付している」との見解だ。
準備書に対する環境大臣意見書では、もろい地質から「土地の改変に慎重を要する地域」と指摘。環境負荷を十分に低減できない場合は「土捨場の設置を取りやめること」としている。
一方の電源開発は、2020年11月に準備書を公表。残土処理は「専門の処理業者に委託し、対象実施区域外で適正に処理する」としているが、具体的な搬出先は示さず、残土の建設工事への一部再利用にも言及している。南日本新聞の取材に対しても同社は「地区外の複数の受け入れ先と交渉を進めており、現時点で搬出先の公表はできない」との説明を繰り返し、具体案は明らかにしていない。
同社の準備書に対する勧告には、切り土・盛り土量の低減以外に残土処分についての指摘はない。だが添付された県知事意見書は「建設残土の処分方法が具体的に示されていないことから、処分方法及び処分場所を評価書に記載すること」と要求。環境大臣意見も同様に、評価書に処分方法を記載するよう求めている。
計画地周辺は1997年の県北西部地震の震源に近い。マグニチュード6・5、最大で震度6弱を観測した。ユーラス社が挙げる土捨場候補地の中には、震源地のすぐ近くに位置している箇所もある。
藤川の住民や出身者の一部は昨年「藤川風力発電学習会」を立ち上げ、勉強を重ねている。メンバーの男性(54)は「計画全体に反対しているわけではない」としつつ、「地震で山が傷み、今でも大雨が降ると頻繁に避難する地域。山の怖さを分かった上での計画なのか」と疑問を投げかける。電源開発に対して「土捨場の具体案を早く出してほしい。本当に地区外に搬出されるのか疑いたくなる」と求める。
土捨場候補地(地図中(1)~(5))の西側に位置する本俣地区は北西部地震の発生当時、「土砂災害の危険が大きい」として全36世帯85人が143日間にわたり集団避難した経緯がある。現在は17世帯26人が暮らし、75歳以上が7割を超える。
昨年7月、静岡県熱海市で26人が死亡する大規模な土石流災害が発生したことも、住民の不安に拍車を掛けた。土石流の起点となった土地の盛り土は約7万立方メートルあったとされる。現場はずさんな管理実態が指摘されており単純比較はできないが、紫尾山系の風力発電計画で発生するとみられる残土量120万立方メートルは、これをはるかに上回る。
本俣地区の住民の多くはかつて林業に従事した。本俣自治会の男性(66)は「地質のもろさや、崩れたらどこへ流れるか、住民は長年の経験で知っている。こんな場所に盛り土をするのは考えられない」と危機感をあらわにする。
■計画地は2社で競合
薩摩川内、出水、阿久根3市とさつま町の紫尾山系を東西に分けて立てた電源開発の計画は、西地区の大部分がユーラス社の計画と重なる。発電事業の前提となる固定価格買い取り制度(FIT)の事業計画認定は、同じ地番で複数の事業者が取得することはできない。両社間で協議しているものの、互いに自社の正当性を主張し、平行線をたどっている。
重複する地域ではユーラス社が2019年3月にFIT認定を取得。ただし、認定日から3年後までに、土地契約書の写しなどの書類とともに経済産業省に申し立てを行わなければ、認定が取り消される可能性がある。ユーラス社は今年3月末がその期限だった。同社は「時間を要した理由や最新の工程について経産省への説明は完了している」とし、判断を待っている。
FIT認定を管轄する資源エネルギー庁は「一般論として、不利益処分を行う場合は各種手続きを踏んでからになる」との見解で、近日中に認定が取り消される可能性は薄い。
電源開発はユーラス社の認定取り消しの可能性を見据え計画を進めている格好だ。だが電源開発も、西地区の一部と東地区で取得しているFIT認定の期限は23年3月末となっている。
両社は経産省勧告を踏まえ、環境アセスの最終段階である評価書を作成する。勧告を受けての変更点は両社とも明らかにしていないが、残土処分の方法を含め、どのような内容になるか注目される。