約60年にわたり日本の原子力研究を担ってきた京大の研究炉(KUR)は4年後に運転停止と発表されました。
それは全国の研究者に、中性子の研究の場を提供してきた貴重な原子炉でしたが、福島第1原発事故後、安全性が厳格化された新基準が適用されるようになり、必要な増強工事を行い、運転を続けてきました。しかし今後も老朽化に対応する修繕費の負担が増えるし、使用済み燃料の処分方法に解決策が見つからないことが、廃炉の決め手になりました。
しかしKURの廃炉は科学のインフラを失うようなもので、国内の施設が減れば、研究者が海外に流出する可能性もあるとし、「日本の研究力、国力の低下につながりかねない」と危惧する声も上がっています。産経新聞が報じました。
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研究炉廃炉「科学のインフラ失う」 国力低下を危惧
産経新聞 2022/4/5
約60年にわたり日本の原子力研究を担ってきた研究炉は、その役目を終えることになった。5日、4年後の運転停止が発表された京都大複合原子力科学研究所の研究炉(KUR)。研究から発生する使用済み燃料の処分に目途が立たず、廃炉せざるを得ない状況となった。
【地図でみる】各原発の使用済み燃料の貯蔵可能量に占める割合
「全国の研究者に、中性子の研究の場を提供してきた貴重な原子炉だ」。5日に会見した中島健所長は、KURの存在意義を振り返った。手術なしで、正常な細胞を傷つけずにがん細胞だけをピンポイントで破壊する「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)」の進展などに貢献。令和2年度には学内外の延べ約3300人が利用していた。
ただ、平成23年の東京電力福島第1原発事故後、原発の稼働に対し、安全性が厳格化された新基準を適用。新基準は各地の商業用原発だけでなく、大学の研究炉も運転の一時停止に追い込んだ。KURは新基準に適合するための関連工事を行い、運転を続けたが、今後の老朽化に対応する修繕費の負担も増えると懸念されていた。
さらに、研究で発生する使用済み燃料の処分方法に解決策が見つからないことが、廃炉の決め手になった。国内の使用済み燃料の処理をめぐっては、商業用原発でも17カ所の保管容量は全体で計約8割近くにまで到達。最終的な処分の解決策は見つかっておらず、研究炉も同様の問題を抱えている。
京大では令和8年5月分まで米国が引き取ると合意したが、その後の見通しはなく、大学で保管するには安全面から適切ではないと判断された。
昭和46年までに5大学に設置された研究炉は、現在は京大にKURを含む2基と近畿大に1基しか残っていない。KURの廃炉は今後の研究にどのような影響を与えるのか。近大原子力研究所の若林源一郎教授(放射線工学)は、「研究炉は幅広い分野での基礎研究を支えてきたので、科学のインフラを失うようなもの」と説明。国内の施設が減れば、研究者が海外に流出する可能性もあるとし、「日本の研究力、国力の低下につながりかねない」と危惧する。
東京都市大の佐藤勇教授(核燃料材料工学)も「放射線を扱う研究は幅広い分野に応用でき、エネルギーを支える原発をいかに安全に運転するかにも結びつく。そのための方法を失っては、根本的な解決には結局至らない」と指摘した。(森西勇太、鈴木文也)