米国でも原発で発生する使用済み核燃料の最終処分地は決まっていないということで、全米の各原発では使用済み核燃料は「乾式キャスク」と呼ばれる容器に収納されたまま、多くは敷地内で野ざらしで保管されているということです。
最終処分地を選定する責任は連邦政府にあるのですが、候補地で反対運動が起きるためいまだに決まらず、この先の見通しもないようです。
東京新聞が報じました。2本の記事を紹介します。
核兵器用の核廃棄物の処分は、ニューメキシコ州の地下約660mのところに地層処分の試験施設を作り、2030年度分まで受け入れる予定でしたが、2014年2月に放射能漏れ事故を起こし使用不能になったようです。
⇒(14.02.18)米の放射性廃棄物地層処分施設で放射線もれ
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米国でも最終処分地が決まらず、行き場のない核のごみ
「負の遺産」を抱え続ける観光の街
東京新聞 2022年4月25日
全米の各原発では、高レベル核廃棄物である使用済み核燃料の処分地が見つからず、敷地内にたまり続けている。観光地がある東部メーン州でも、運転停止から26年になる廃炉原発の敷地の屋外に、行き場のない核ごみが、たなざらしとなっている。処分先のめどは立たず、街は「負の遺産」を抱え続けざるを得ない状況だ。(メーン州ウィスカセットで、金杉貴雄)
巨大なコンクリートの円柱が並んでいるのが、500メートルほど離れた公道から見えた。高さ5・5メートル、重さは約150トン。高レベル核廃棄物のための「乾式キャスク」と呼ばれる容器64個が、厚さ約1メートルのコンクリートパッドの上に置かれている。中には計1400本の使用済み核燃料棒などが封印されている。
メーン州にある人口3700人ほどの街ウィスカセット。「州で最も美しい」とも言われる風光明媚な土地で、主要産業は観光業。夏は避暑地としてにぎわう。そんな街の中心部からわずか5キロの場所に、原発の高レベル廃棄物がずっと取り残されている。
「敷地には入らないでください。写真はこの道路からだけです」。管理する原発会社メーン・ヤンキー社の広報担当エリック・ハウズさんが警告した。「警備については言えない」と説明を拒むが、地元紙によると、自動小銃などを持つ武装警備員が24時間体制で警護する物々しさだ。
このメーン・ヤンキー原発は1972年に稼働したが、7年後のスリーマイル島原発事故をきっかけに反対運動が起きた。10年で3度の州民投票はいずれも否決されたが、その後、米原子力規制委員会(NRC)の査察で多数の欠陥を指摘され96年に運転停止。そのまま廃炉が決定した。
廃炉作業は2005年に完了したものの、高レベル核廃棄物の使用済み核燃料は行き場がなく、会社は今、核ごみの管理のためだけに存続している。運転停止の3年前に入社したハウズさんは「これほど長期になるとは思わなかった」と漏らした。
◆最終処分場の選定地は地元が反対
米国では、1982年の核廃棄物政策法で最終処分の責任は連邦政府にあるとし、98年までの処分開始を約束。だが、最終処分場に選定した西部ネバダ州ユッカマウンテンは地元の反対で頓挫、約束はいまだに果たされていない。このため、全米33州の停止済みを含む75の原発に約9万トンの使用済み核燃料が留め置かれ、毎年増え続けている。
最終処分場のめどが立たない中、全米の使用済み核燃料を集め中間貯蔵する民間施設建設案が南部テキサス州と西部ニューメキシコ州の2カ所で浮上。だが、両州とも知事や議会などが反発し、やはり厳しい。
メーン・ヤンキー原発は稼働中、街の固定資産税の9割を占め、住民の税金は周辺の10〜20分の1だったという。今は恩恵が消えた代わりに、放射能が減衰するまで10万年の高レベルの核ごみが事実上無期限に留め置かれているだけだ。
原発から3キロに農場があり、かつて反対運動に携わったレイモンド・シャディスさん(80)は「原発が停止しても安心感はなかった。核燃料が残ったままだったからだ」と険しい表情で語る。特にテロの脅威やキャスクの安全性に懸念を示し「子や孫の世代が見続けなければいけないのか」と不安を募らせる。
住民らで作る「メーン・ヤンキー地域諮問委員会」のドン・ハドソンさん(71)は「核燃料がある限り、原発跡地は再開発ができない」と嘆く。安全性については当面不安はないとしつつ「100年かかるなら海面上昇などの気候変動の影響を受けるかもしれないし、永久に続く人工物もない」と早期の解決を希望する。長期化すれば、会社では後継者問題も発生する。
デニス・シモンズ町長(57)は悲観的だ。「核廃棄物を抱えている少数の地域より、これから持ち込まれることに反対する人の方がはるかに多い。核のごみは私が生きている間はどこにも行かないだろう」
「なし崩しで最終処分地に」 核のごみ、米国でも日本と同じ懸念 解決策は見えず
東京新聞 2022年4月4日
世界最多の原発が稼働する米国で解決策を見つけられない「核のごみ」処分問題。使用済み核燃料の暫定的な保管場所とされる中間貯蔵施設だが、最終処分のめどが立たない中で「このまま最終処分地となるのでは」との不安は日本と同じ構図だ。核のごみが各原発でたまり続ける姿は、東京電力福島第一原発事故があっても原発を再稼働させている日本と共通している。(米西部ニューメキシコ州などで、金杉貴雄、写真も)
◆「一度事故起きれば、チェルノブイリ」
「一度事故が起きれば、ここは西テキサスのチェルノブイリになる。子どもたちのため、生まれ育った地域を全米の核廃棄物の処分場にしない」。米テキサス州の西端、アンドルーズ郡で使用済み核燃料などの高レベル核廃棄物の中間貯蔵の候補となっている施設前で、エリザベス・パディーヤさん(33)は訴える。
運営企業は使用済み核燃料4万トンを全米から受け入れ乾式キャスクと呼ばれる容器で地上保管する計画で、米原子力規制委員会(NRC)が昨年9月に許可。期間は40年だが最終処分地がなければ更新可能だ。
もうひとつの候補地、ニューメキシコ州リー郡の場合、別の民間会社がNRCに申請した計画では、最大17万トンの使用済み核燃料を1万個の容器で保管する。会社側は「容器は200年以上耐えることができる設計だ」と豪語するが、同郡に住むニック・キングさん(69)は「高レベルの廃棄物を集めたらほかに移そうという意思はなくなり『永久』になる」と懸念する。
◆最終処分地の計画頓挫、「核のごみ」行き場なく
中間貯蔵施設の計画が浮上している背景には、最終処分地の計画が頓挫し、「核のごみ」の行き場がなくなっていることにある。
使用済み核燃料は放射能が減衰するまで10万年かかる。米国は連邦法で処分責任は連邦政府にあるとし、1987年にネバダ州のユッカマウンテンを唯一の最終処分の候補地に決定。だが、地元から反対論が起き2010年に許可申請手続きが終了し事実上白紙となり、その後の動きはない。
米国の使用済み核燃料は約9万トンで世界全体の2割を占め、各原発で保管され続け年2000トンずつ増えている。米議会付属の政府監査院(GAO)の分析では、各原発での保管に関する連邦政府の債務総額は20年段階で約4兆円、10年後には約6兆円に達する。
このため中間貯蔵施設は各原発から使用済み核燃料を集め保管費用を軽減し、最終処分までの「つなぎ」を担う。だが、州をまたいだ二つの候補地で共和・民主両党の州知事が猛反発し、議会でも施設の設置を禁止する法律を可決もしくは審議を進めている。
◆日本では青森県に 懸念くすぶる地元
日本では、使用済み核燃料の一部が青森県六ケ所村の再処理施設に運び込まれているほか、同県むつ市には中間貯蔵施設が建設中だ。ただし国の最終処分地は未定で、地元では事実上の最終保管になることへの懸念がくすぶっている。
米スタンフォード大のロドニー・ユーイング教授は、米国の中間貯蔵施設は「安全面ではなく、増え続ける保管費をなくしたい財政問題が推進の理由だ」と指摘する。元NRC委員長のアリソン・マクファーレン氏は「数百年以上の期間で核廃棄物を人間が監視し続けられる保証はない」と「中間」の長期化による安全性を憂慮し、最終処分地の選定が必要だと強調する。
最終処分の計画は行き詰まり、それがなければ中間貯蔵施設もできない。広大な国土の米国でも、核のごみが原発にたまり続けるという袋小路に陥っている。
米国の原発と使用済み核燃料
米国の原発は2010年当時に104基が稼働していたが、日本の福島第一原発事故などの影響もあり、現在は94基で全電力の約20%を占める。米議会は1982年に原発から出る使用済み核燃料の処分の責任を連邦政府とし、98年までに最終処分を開始すると定めたが現在も約束を果たせず、連邦政府は各原発で保管する電力会社に賠償金を支払っている。