2022年6月13日月曜日

福島原発事故による自治体の損害63億円が支払われず

 福島第一原発事故関東地方の7都県が必要になった費用として東電に請求した損害賠償額は計325億円に上っていますが、そのうち計63億円余の賠償を東電が認めず、支払われていないことが東京新聞の取材で分かりました。
 東電は、文科省の原子力損害賠償紛争審査会が賠償基準を定めた「中間指針」や、それを基に東電が独自に示したガイドラインに基づき、賠償に応じるか判断したとしています
 「中間指針」が賠償額を低く抑える要因になってきたことは度々指摘され、改正を要求されてきましたが、審査会はそれを門前払いして応じませんでした。
 そもそも加害者である東電が賠償額を査定するというのも不可解なことです。
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福島原発事故による自治体の損害63億円が支払われず 首都圏7都県 賠償範囲は東電主導で決定
                          東京新聞 2022年6月12日
 東京電力福島第一原発事故後、関東地方の7都県が事故の影響で必要になった費用として東電に請求した損害賠償額は計325億円に上ったが、そのうち計63億円余の賠償を東電が認めず、支払われていないことが本紙の取材で分かった。専門家は、東電が賠償範囲を決められる仕組みの問題を指摘している。(加藤豊大、鈴木みのり)



 事故の影響を受けた都県や市町村などの自治体は東電に対し、臨時職員の人件費▽空間線量計購入費▽風評被害対策PR費—などを請求した。本紙は、このうち関東7都県が請求したものを集計した(市区町村が請求した分は含まず)。東電は、文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会が賠償基準を定めた「中間指針」や、それを基に東電が独自に示したガイドラインに基づき、賠償に応じるか判断した
 福島第一原発事故の損害賠償 国が2011年8月に定めた損害賠償の基準となる「中間指針」には「賠償されるべき損害として明記されていなくても、個別具体的な事情に応じて(事故と)相当因果関係のある損害と認められ得る」と弾力的な運用が可能な記載がある。東電が合意しない場合、原子力損害賠償紛争解決センターが裁判外紛争解決手続き(ADR)で和解を仲介。和解せず、訴訟になるケースもある。

◆事故がなければ必要ない費用なのに
 複数の自治体担当者によると、東電は請求の一部について、「事故との因果関係が認められない」「事故対策とされた経費は通常業務との切り分けが困難」などと主張し、支払いを拒んだという。
 東電が支払いを拒んだ額の最多は、埼玉県の46億5000万円。101億円の請求に対し、支払率は54%にとどまった。浄水場にたまった放射性物質を含んだ汚染土の処分・保管費の多くが拒否され、その額は約30億円に上る。県担当者は「事故がなければ必要のない費用。全額が賠償されるべきだ」と訴える。
 請求額が最多だったのは東京都だ。総額は117億円で、内訳は下水道事業に75億円、水道事業に29億円、空間線量検査に3億円など。総額のうち7億5000万円が支払われなかったが、その内容について都担当者は「手続き中の案件のため詳細は明らかにできない」と話した。
 そのほか、茨城県は5億2000万円、栃木県は2億2000万円の支払いを拒否された。一方、群馬県は12億5000万円を請求し、ほとんどが認められた。
 東電が支払いに応じない場合、自治体が原子力損害賠償紛争解決センターで裁判外紛争解決手続き(ADR)を申し立てるケースもある。ADRで、東電が一部を支払う和解案が示され、自治体が受け入れるケースも。そうして請求を断念したのが神奈川県で1億円、群馬県で5000万円ある。
 賠償の判断について、東電担当者は「個別の案件については回答を控える。賠償は中間指針を踏まえて対応している」と答えた。

◆被害者側の声は反映されず
 都県が賠償請求をした全額が支払われないことに、大阪公立大の除本理史教授(環境政策論)は「中間指針には、自治体を含めた被害者側の声が十分に反映されておらず、機能していない。中間指針やそれを基にした運用により、事故の加害者と言える国や東電自身が主導して賠償基準や運用を決める現在の制度全体に問題がある」と批判する。
 首都圏以外では、2020年10月、事故の影響で計画通りに職員を削減できなかった福島県が人件費の支払いを拒否され、東電に約9000万円の賠償を求めて福島地裁に提訴したケースがある。