2022年6月30日木曜日

「起きるべくして起きた電力ひっ迫」節電に頼るだけでいいのか?

 ABEMA TIMESが「起きるべくして起きた電力ひっ迫 ~ …節電に頼るだけでいいのか?」という興味深い記事を出しました。
 背景には電力自由化の問題があり、具体的には再エネが増えたことによって電気料金が下がったために電力の売上が落ち、電力会社が採算取れない古い石油火力から止めてきた結果、ピーク電力を賄えなくなったという問題のようです。
 電力の売り上げが落ちた中で、電力会社がそれまで大企業に電力の節減を要請していたことがなくなったことも実は決定的に大きいようです。その辺をまずクリアにすることが大前提で、経産省が必要な指導を何もして来なかった結果ということになります。
 また年間数日(または十数日)1日2時間程度の逼迫に対応するために、危険であるだけでなく発電量の調整が全く利かない原発を再稼働するのは基本的に間違いです。
 なお記事中で紹介されている動画は28日に収録されたABEMAニュース(約32分)です。
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「起きるべくして起きた電力ひっ迫」「原発再稼働がウクライナ支援につながるという考え方もある」…節電に頼るだけでいいのか?
                         ABEMA TIMES 2022/6/29
 厳しい暑さが続く中、政府は東京電力管内に対して連日の「電力需給ひっ迫注意報」を発出している。現状についてエネルギーアナリストの大場紀章氏は「ついにこの日が来たという感じだ。なるべくして起きたと思っている」と話す。
  動画電力ひっ迫「政策ミス」再エネ優遇→火力衰退が原因?

 「まず、残念ながら運が悪かった。通常、電気の需要のピークは8月頃なので、そこに向けて火力発電所を立ち上げていくが、その手前の6月にこれほど暑くなってしまうという想定はしていなかった。さらに、仕組みも悪かった。一部の専門家は“このままでは停電になる”と、電力不足にならないような仕組みを作るべきだと警鐘を鳴らしていた。ところが“そうはならない”という専門家もいて、そちらの意見に沿って今日まで来てしまった」。

 背景にあるのは気候変動問題というよりも、電力自由化の問題だったと言う。
 「ベースラインとして、数千万キロワットに及ぶ石油火力発電所が休止していたが、そもそも政府が脱炭素政策のためにフェードアウトしろと言っていたのは古い石炭火力であって、LNG(液化天然ガス)火力や石油火力に関しては減らせとは言っていなかった。つまり気候変動問題とはあまり関係がなく、単純に事業者が経済合理性の中でコストパフォーマンスが悪いとして休止の判断をすることになる。
 その背景にあるのが電力自由化だ。再エネが増えたことによって電力市場の価格、そして電気料金が下がったために売上が落ちる。そして再エネが増えた分だけ火力発電の出力、つまり稼働率が落ちていく。そこで採算が取れない、効率が悪く古い石油火力から止めていくという判断をするということだ。こうした火力発電を再稼働するためには数カ月かけて油を差したり、メンテナンスをしたりしなければならず、一度休止してしまうと年単位で動かせなくなってしまうということだ。

 また、事業者は必ずしも供給責任を負わない。最悪の事態に備えコストをかけてでも石油火力を維持する必要がないのであれば、当然、経営合理性の判断で切るだろう。これが電力自由化の結論だし、結論は見えていたことだ。お金を付ける仕組みが動き出すのは2024年からで、前倒しするべきだという議論もあったのに、“大丈夫だ”と後回しにしたため、みんな火力発電を維持しなくなってしまった。これを防ぐ仕組みがないままに、今に至っている」(大場氏)。

 大場氏の話を受け、環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長も「仕組みが悪かったという意見には同感だ。日本は先進国の中でも途上国型の、垂直統合のガチガチの電力体制だった。それを自由化しつつ再エネを普及するという新しいシステムを目指してきたが、間がぶち切れてしまった。しかも一言でいって安定供給に誰も責任を取ってない、これが最大の問題だ」と指摘。その上で、次のような見方を示した。
 「少し話はずれるが、あたかも悪いことかのように言われている節電が最も即効性がある。11年前の東日本大震災の後を思い出してほしい。あの時、東日本では原子力、石炭火力がボロボロに止まって、果たして夏に電気が足りるのかという話になった。当時の東京電力は牧歌的な垂直統合の会社だったものの、いざという時には需給を減らしてもらう、その代わり普段の料金を安くするという契約を大企業と結び、1割を減らした。そして国も指示を出して計画停電を実施した。
 この頃の“独占体制”から電力自由化の体制に移行する中で、こうした大企業との契約に基づく節電が消えてなくなった。つまりサービスは維持しながら節電する方法は山ほどあるのに、制度設計に失敗していると思う。今年3月にも寒さで電力不足が起きたが、経産大臣がテレビに出てきて謝っていた。途上国かという話だ。一部を犠牲にして全体を救うという事態は無いほうがいい。しかし全面的なリスクを避けるためには計画停電も用意しておかなくてはならない。今回、その話が政府からも一切出てきていない」。

■夏野氏「停電が現実におきない限りダメかもしれない」
 そこで議論に上がるのが原発再稼働の是非だ。松野官房長官は「安全性の確保を大前提に原子力規制委員会が新規制基準に適合すると認めた場合に、その判断を尊重し地元の理解を得ながら進めるというのが政府の方針だ」としている。
 近畿大学情報学研究所所長の夏野剛氏は「電力の問題については政治的な思惑もあると思う。世論の反発も予想される中、原発再稼働というのは特に選挙前は争点にしにくいし、今は触れなくてもいいという“他人事感”を政治家から感じる。そもそも今の再エネの制度は民主党時代に作られたものだし、脱炭素というのは聞こえがいい。もちろん、原子力規制委員会がOKを出したところしか動かせないし、夏には間に合わない。これからは冬に向けてどうするかという議論をすべきではないか」と問題提起。

 飯田氏は「安全性、避難がちゃんとできるか、といったことが俎上に載っていない。また、最高裁が“国に責任はない”という判断を示したが、それでは電力会社が全ての損害賠償の責任を取れということだ。東電が全部、国=国民におんぶにだっこ、という損害賠償はあり得ないということになる。こうした部分の責任が取れるのであれば、私は再稼働してもいいと思う」とコメント。
 「ただし今回の電力不足の1日のうちの2、3時間をどうするかが重要なので、それで原発を動かす、動かさないという議論をするのは短絡的だ。電力会社は未だ独占体制、要は計画経済を維持しているので、どの石炭火力をどこで定期点検するか需要を睨みながら計画しているが、ヨーロッパ型の完全にオープンな市場で、一定の予備力が常に使えるよう市場で維持しておけばこんなことは起きない」。

原発の稼働状況
 一方、大場氏は「飯田さんは原子力はあまり関係ないとおっしゃるが、廃炉が決まっていない発電所だけで30基近く、3000万キロワット分くらいあるのに、電気が足りないと言って喘いでいる国は他にはない。滑稽だ。特に東京電力管内は厳しく、冬にかけては西日本、沖縄、北海道も厳しくなっていく予想だ」と反論。
 「規制委員会の審査で合格が出ていない原発もたくさんあるが、この制度をいじるのには非常に時間がかかる。それから特定重大事故等対処等施設という、いわゆるテロ対策のための施設を5年以内に作らなくてはいけないという要件もある。ただし5年という期間には特段の根拠はないので、例えば1年に緩和すれば動かせる原発が5、6基はある。これを政治判断するという考え方はある。もちろん今の制度では総理が動かせと言えば動くという仕組みではないし、世論のこともあるのでなかなか言いづらいだろう。
 しかしウクライナ戦争が続けばロシアがガスを止めてくる可能性がある。そこに対して日本ができるのが、原子力を稼働させ、LNGをヨーロッパに融通することだ。そうすれば、西側諸国はロシアともう少し戦うことができる。つまり原発を動かした方がテロのリスクを下げ、世界の安全保障にも貢献できるという考え方もある」。
 夏野氏は「みんな危機だとは思っていないし、節電すればなんとかなると思っている。停電が現実におきない限りダメかもしれない」と話していた。(『ABEMA Prime』より)