福島第1原発事故をめぐり強制起訴された東電の旧経営陣3人(勝俣恒久元会長(82)、武黒一郎(76)、武藤栄(71))の控訴審が6日、結審しました。
事故の予見可能性があったかどうかが最大の争点ですが、予見の可能性はあったものの現実の危機として「社会通念」にはなっていなかったということで、一審東京地裁判決は被告らを無罪としました。
しかし電力会社で自主的に溢水(⇒津波)研究会を立ち上げた中で、福島第1、第2原発の津波対策が特段に不十分であったことは認識されていたのに対して、東電の上層部が対策を講じることに不熱心で先送りしてきたという事実があります。現実に多数の犠牲者が出た中で、単に刑罰を科すのは過酷だという判断だけで免罪にしていいものかということが司法に問われています。
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長期評価、二審どう判断 一審は「社会通念」重視 東電強制起訴
時事通信 2022/6/7
東京電力福島第1原発事故をめぐり強制起訴された東電の旧経営陣3人の控訴審が6日、結審した。
事故の予見可能性があったかどうかが最大の争点で、東京高裁が津波地震を予測した「長期評価」の信頼性をどう判断するかが鍵を握る。
長期評価は2002年7月末、政府の地震調査研究推進本部が公表し、三陸沖から房総沖までの日本海溝沿いでマグニチュード8級の津波地震発生確率を30年以内に20%、50年で30%と予測した。福島県沖でも起こり得るとし、これに基づけば、津波高は第1原発の敷地高を超える最大15.7メートルと試算できた。
一審東京地裁判決はまず、勝俣恒久元会長(82)ら3人が巨大津波襲来の可能性に関する情報に接したのは、早くても2008年6月~09年2月だったと指摘。「事故を回避するには原発の運転停止措置を講じる他なかった」との考えを示した。
その上で長期評価を検討。専門家や内閣府などから疑問が示され、一般防災や原子力安全・保安院の安全審査にも採用されていなかった当時の状況を挙げ、「客観的に信頼性、具体性があったと認めるには合理的な疑いが残る」と判断した。
長期評価の判断は、国と東電を訴えた原発避難訴訟でも分かれる。国の責任を認めたケースは、民間の見解と一線を画す公的な重要見解だと判断しており、結論を導く上での根幹をなす。しかし刑罰を科す刑事裁判は「合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の立証」を大原則とする。ベテラン裁判官は「立証のハードルが確かに高い」と言う。
無罪判決は、原子力安全に対する「当時の社会通念」が重要視された。社内外から津波対策を講じるべきだとの指摘もなく、当時の規制の在り方は「絶対的安全性の確保までを前提としていなかった」と結論付けた。
福島第1原発事故の強制起訴 控訴審判決は12月~23年1月
毎日新聞 2022/6/6
東京電力福島第1原発事故を巡って業務上過失致死傷罪で強制起訴され、1審・東京地裁で無罪判決(2019年9月)が出た勝俣恒久元会長(82)ら旧経営陣3人の控訴審が6日、東京高裁(細田啓介裁判長)で結審した。判決期日は12月から23年1月の間で調整されており、追って指定される。
【写真特集】東京電力福島第1原発のいま
ほかに強制起訴されているのは、武黒一郎(76)と武藤栄(71)の両元副社長。控訴審も1審に続き、3人が原発を襲う巨大津波を予見できたかが最大の争点となっている。
控訴審の公判は21年11月に開始。検察官役の指定弁護士は地震の専門家の証人尋問を申請したが、認められず、3回目の公判で結審した。
指定弁護士側は6日、政府の地震調査研究推進本部が02年に公表した地震予測「長期評価」について「科学的根拠があり、巨大津波の予見は可能だった」と主張。弁護側は「長期評価の信頼性は合理的な疑いが残る。1審判決には誤りがないことは明らか」として改めて無罪を主張した。
旧経営陣3人は、11年3月の原発事故で「双葉病院」(福島県大熊町)から避難した入院患者ら44人を死亡させたなどとして、16年に強制起訴された。【志村一也】