2022年6月2日木曜日

北電 泊原発運転差し止め命令(植草一秀氏)/「先延ばし」に厳しい姿勢(産経新聞)

 植草一秀氏が、札幌地裁「津波に対する安全性の基準を満たしていない」として、北電・泊原発1~3基を運転しないよう命じる判決を言い渡しことについて考察する記事を出しました。

 植草氏は、原発が重大事故を起こした場合の損失は無限大に拡大する可能性があるので、中途半端な対応は許されず、何よりも地震対策、津波対策が万全に実施されていること最低限の条件になっているのに対して、政府と電力会社は再稼働の最低限の条件も備えず無限大のリスク放置したまま原発の再稼働に突き進んでいると述べました。
 そしてそれを助長しているのが、政府の意向を忖度し原発の耐震性は「高度の専門技術」分野であるからとして判断を行わずに、国や電力会社側の主張を丸呑みしてきた裁判官たちであるとしました。
 裁判官をその方向に仕向けているのは、裁判官の人事権を握っている最高裁事務総局と言われています。

 また産経新聞は、札幌地裁活断層の有無など複数の争点で北電の最終的な主張を待つことなく1月の時点で審理を打ち切って、「津波対策の不備」という一点をもって運転差し止めを命じたのには、煮え切らない対応で主張を「先延ばし」にしてきた北電への批判が込められているとの趣旨の記事を出しました。
 札幌地裁は、北電が事実上審理を長引かせることについて、「審理の継続は、原告らに被告の主張立証に延々と対応することを余儀なくするもの正当化は難しい」と批判しました。
 そして同地裁は今回、科学的知見や資料を持つ電力会社側が立証責任を尽くさない場合「安全性を欠く」とする過去の原発関連訴訟で示された判断枠組みを適用したと指摘しました
 いずれにしても、津波によって原発への浸水が起きれば巨大な被害が生じることは福島原発事故で証明されたことなので、不十分な津波対策のみで安全性に問題があるとした判断は極めて正当です。
 2つの記事を紹介します。
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北海道電力泊原発運転差し止め命令
                植草一秀の「知られざる真実」 2022年6月 1日
北海道泊村にある北海道電力・泊原子力発電所の安全性が争われた裁判で5月31日、札幌地方裁判所は「津波に対する安全性の基準を満たしていない」として、北海道電力に3基ある原発すべてを運転しないよう命じる判決を言い渡した。
津波対策が不十分だとして原発の運転を認めない司法判断は初めて。
北海道電力・泊原発の1~3号機について、周辺住民など1200人余りが、「津波や地震への安全性が不十分だ」と主張して運転の禁止や、使用済み核燃料の撤去、それに原発の廃炉を求める訴えを起こしていた。裁判の審理には10年余の時間を要した。
そのなかで、津波対策が十分に取られているかどうかが争点になった。
原告は「福島第一原発の事故のあと新設された防潮堤は地震による液状化で支持地盤が沈む可能性があり津波を防げない」などと主張した。

5月31日の判決で札幌地方裁判所の谷口哲也裁判長は
「泊原発では大地震が起きた際に、少なくとも12メートルから13メートル余りの津波が想定される。それなのに北海道電力は防潮堤の地盤の液状化や、沈下が生じる可能性がないことを裏付ける説明をしていない。また今後、建設するとしている新たな防潮堤についても、高さ以外には構造などが決まっていない」と指摘。
そのうえで「泊原発には津波防護施設が存在せず、津波に対する安全性の基準を満たしていない」と結論づけ、北海道電力に対し泊原発の1~3号機すべてを運転しないよう命じた。

この判決について日本共産党の小池晃書記局長は、31日に国会内で記者会見し、判決が生命や健康が脅かされるのは人格権の侵害だとする原告の住民らの訴えを認めたものだとして、
これは泊原発以外のすべてのあらゆる原発に当てはまる論点であり、非常に重要な判決だ」と指摘した。

2011年3月11日に発生した東京電力福島第一発電所の重大事故が明らかにしたように、原発は私たちのいのちと暮らしを根底から破壊するリスクを内包している。重大事故が発生した場合の損失は無限大に拡大する可能性があり、中途半端な対応は許されない
福島原発事故で東日本全体が消滅する事態は回避されたが、最悪の事態が回避されたのは、多くの偶然が重なったためである。
奇跡的にカタストロフィー⇒壊滅・破局が回避されただけであって、この奇跡的な偶然がなければ、東日本全体が消滅していた可能性が高い。

悪夢が発生した原因は地震と津波に対する備えが不十分であったこと。
したがって、原発を稼働させるための最低限の条件は地震対策、津波対策が万全に実施されていることということになる
ところが、現実には地震対策も津波対策も依然として不十分だ。
原発稼働は許されないが、政府と電力会社は再稼働の最低限の条件も備えずに原発稼働に突き進んでいる無限大のリスクは完全に放置されている

今回の判決は津波対策の不備を指摘したものだが、津波対策だけでなく地震対策の不備も鮮明だ。無限大リスクを放置したまま原発稼働を推進する政府の対応は狂気の沙汰である。
福島の教訓がありながら、その教訓から何も学ばぬ姿勢は万死に値する。
日本の原発の耐震性能は極めて低い。
福島事故以前、日本の原発の耐震設計基準はほとんどが400ガル程度に定められていた。
福島事故を受けて基準が引き上げられたが、それでも耐震設計基準は450ガルから800ガルの水準までしか引き上げられていない
しかし、日本では1500ガルを超える地震の揺れが頻繁に確認されている。
そして、その1500ガルを超える揺れは日本列島のすべての場所で発生する可能性がある。

大飯原発等の運転差止命令を発した福井地方裁判所元裁判長の樋口英明氏は原発の耐震設計基準が不十分であることから運転差止命令を発した。当然の合理的な司法判断だ。
しかし、このような適正な判断を示す裁判官は決して多くない。
多くの裁判官が政府の意向を忖度して原発稼働を容認する司法判断を示す
その根拠とされている考え方が「原発訴訟は高度の専門技術訴訟である」というもの。
原発の耐震設計基準が十分であるか否かは「高度の専門技術」によって判断されねばならず、政府の専門家委員会が審査して合格させたのであるから、その判断が尊重されるべきだとする。
しかし、1500ガルを超える地震が頻発するなかで原発の耐震設計基準が800ガルまでしかないということは「高度の専門技術」がなくても誰でもが不十分であると判断できる
このような理性と常識による判断を排除して、行政府の意向を忖度する司法は、司法の独立性自体を自己否定するものでしかない。
裁判所の堕落が私たちのいのちと暮らしを危機に追い込んでいる。

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「先延ばし」の北海道電に厳しい姿勢 泊原発訴訟
                            産経新聞 2022/5/31
再稼働に向けた原子力規制委員会の審査が今も続く中、札幌地裁は31日、活断層の有無など複数の争点で北海道電力の最終的な主張を待つことなく、「津波対策の不備」という一点をもって運転差し止めを命じた。煮え切らない対応で主張を「先延ばし」にしてきた北海道電に、厳しい姿勢を示した形だ
今回の訴訟で北海道電は、規制委による審査の推移を見ながら主張立証する姿勢を貫いたが、結果として住民側の提訴から10年が経過しても審査は終わらず、訴訟は長期化した。
審理の継続は、原告らに被告の主張立証に延々と対応することを余儀なくするもの。正当化は難しい」。谷口哲也裁判長は判決の中で、北海道電が敷地内断層に関する主張を書面で提出する意向を示していたにもかかわらず、今年1月に審理を打ち切り判決を出した理由をこう説明した。
地裁は今回、科学的知見や資料を持つ電力会社側が立証責任を尽くさない場合「安全性を欠く」とする過去の原発関連訴訟で示された判断枠組みを適用した。
泊原発の既存の防潮堤がある地盤で液状化が起きる可能性は低いとする北海道電の主張には「資料による裏付けをしていない」とし、建設予定の新しい防潮堤も「高さ以外の構造が決まっていない」と指摘。規制委の設置許可基準を満たしていないと結論づけた。
その上で、ほかに争点となっていた海底活断層や敷地内の活断層の有無については判断することなく、不十分な津波対策のみで安全性に問題があるとした
保管中の使用済み核燃料の安全性に関しても、「北海道電は具体的な検討に基づいた根拠を何ら示していない」と厳しく指弾。一方で、適切な撤去場所を特定していないことなどを理由に、原告側の撤去請求自体は退けた。
北海道電は判決後、「最新の知見を踏まえながら、科学的・技術的観点から説明を重ねてきた。当社の主張を理解してもらえず誠に遺憾であり、到底承服できない」とするコメントを出し、速やかに控訴する方針を示した。