巨大地震で最大級の津波が発生した場合の浸水想定について、東北6県のうち宮城県だけが加工しやすいデータの公開に難色を示しています。理由は「市町以外にデータを提供してしまうと、市町のハザードマップより先に第三者のマップが完成する可能性がある」からということですが、他の東北5県は公開しているのでそれは通用しません。河北新報が報じました。
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津波浸水想定の1次データ提供、宮城県だけ難色 「情報多いと住民混乱」 オープンデータ化に逆行
河北新報 2022年6月22日
巨大地震で最大級の津波が発生した場合の浸水想定について、東北6県のうち宮城県だけが加工しやすいデータの公開に難色を示している。今後、データを基にハザードマップを作成する沿岸市町と県の関係に支障が生じかねないという。県の対応は、民間が活用しやすい形式でのデータ提供を求める国の方針にも反している。(コンテンツセンター・佐藤理史、藤沢和久)
東北5県は公開
(宮城)県は5月10日、ホームページ(HP)で国土地理院の地形図を8段階の浸水深ごとに色分けした想定図を公表した。公表データは2次加工が難しいPDF形式だった。
河北新報社は、パソコンやスマートフォンに自宅や職場の危険度を見やすく表示するため、地理情報システム(GIS)の技術を活用した地図の作成に取りかかった。GISには、落とし込みやすいシェープ形式のデータが必要になる。浸水想定エリアを10メートル四方に細かく区切り、地点ごとに緯度、経度と浸水深を記したデータだ。
参考にしたのは、秋田魁新報社(秋田市)が独自に作った津波リスクマップ。秋田県がHPで公開しているシェープ形式のデータを活用した。河北新報社もシェープ形式のデータ提供を求めたが、宮城県は「沿岸市町以外に提供した例がない」(河川課)と断った。
情報公開制度に基づき開示請求すると、非開示決定とともにその理由として「本県及び市町の事務事業に係る意思形成に支障が生じる」ことを挙げた。
県河川課の担当者は取材に「市町以外にデータを提供してしまうと、市町のハザードマップより先に第三者のマップが完成する可能性がある。住民に情報を与え過ぎると、迷ってしまう」と説明する。
津波浸水想定は、東日本大震災を受け2011年12月に施行された津波防災地域づくり法に基づき、都道府県が作成する。同法は浸水想定が完成したら関係市町村に通知し速やかに公表するよう義務付けている。
公表するデータの形式に関する規定はなく、PDFでも問題はないが、国土交通省は都道府県向けの手引きでGIS活用を視野にデータをそろえ、民間の求めに応じて提供するよう働きかけている。同省の担当者も「データは使いやすい形式で提供するのが最近の流れだ」と話した。
HPで公開の秋田県「出しても問題ない」
津波浸水想定のデータに関し、国は民間が使いやすい形式でデータを提供する「オープンデータ化」を都道府県に推奨しており、宮城以外の東北5県もホームページなどでデータを公開している。
秋田、福島両県は、地理情報システム(GIS)向けのシェープ形式の1次データを、浸水想定図とともに県のHPにアップしている。想定図は最大浸水深を最大7段階で色分けしているが、1次データには1センチ単位の浸水深と浸水開始時刻も記録されている。
福島県は2019年3月に地図を公開した際、企業や報道機関などから「データを利用したい」との声があり、数カ月後にデータの公開に踏み切った。県河川計画課の担当者は「人命に関わるだけに、広く周知するには民間との連携が欠かせないと判断した」と明かす。
秋田県は行政資料のオープンデータ化を進める庁内の方針に沿った。県総合防災課は「担当者や所属長が『出しても問題ないデータ』と判断し、地図の公表と同時に掲載した」。
青森、山形両県は、国土交通省が運営するサイト「国土数値情報ダウンロードサービス」にシェープ形式のデータを掲載。岩手県も同サイトでの公開に向け準備しているが、現在でも報道機関などから要請があればデータを提供している。