避難住民らが国に損害賠償を求めた4件の訴訟で17日、最高裁は「長期評価」に基づいて国が東電に安全対策を命じたとしても、津波の規模は予想より大きく、原発事故は防げない可能性が高かったとして国に責任はないという判決を下しました。しんぶん赤旗は19日の「主張」で、判決は未曽有の事故でふるさとを奪われ、苦難を強いられている避難住民の思いに背を向け、政府の主張を追認した不当判決であると批判しました。
そして1人の判事が反対意見として、02年に出された地震調査研究推進本部の「長期評価」は信頼性が高く、これを受けて対策をとっていれば事故は回避できた可能性が高く、防潮堤だけでなく施設の浸水を防ぐ「水密化」も講じていれば、非常用電源設備が機能を失わない効果があったとして、「規制権限の行使を担うべき機関が事実上存在していなかった」と「国の規制権限不行使を違法」と指摘したことを高く評価しました。
判決は前述の通り、02年に出された「長期評価」をベースにして、対策を講じても被害は防げなかったと判断していますが、その後06年にはより厳しい「改訂版耐震指針」が実施された訳なので、そう簡単に断定できるのかは疑問です。実際に東電は保安院の指導に数年間抵抗を重ねた挙句15・7mという津波高さを算定していました。
共同通信の記事:「震災4日前、東電が報告した大津波の想定 ~ 」を紹介します。
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【主張】 原発事故不当判決 「想定外」で国を免罪許されぬ
しんぶん赤旗 2022年6月19日
東京電力福島第1原発事故によって避難した住民らが国に損害賠償を求めた4件の訴訟で、最高裁が国の責任を認めない判決を言い渡しました。津波の規模が想定を超えるものだったから、対策をとっても被害は防げなかったという判断です。2011年3月の未曽有の事故でふるさとを奪われ、苦難を強いられている避難住民の思いに背を向けた不当判決です。事故を防ぐ義務を果たさなかった政府の主張を追認した最高裁判決は到底受け入れられません。
裁判官1人は反対意見
判決が出されたのは、「生業(なりわい)を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟(生業訴訟)、千葉訴訟、群馬訴訟、愛媛訴訟についてです。
原告側は、政府の地震調査研究推進本部が02年7月に公表した地震予測の「長期評価」に基づけば、巨大津波の襲来は予見でき、対策を東電に行わせなかった国の責任を追及していました。
これに対し最高裁は「長期評価」に基づき国が東電に安全対策を命じたとしても、津波の規模は予想より大きく、原発事故は防げない可能性が高かったとしました。
原発は、ひとたび事故を起こせば計り知れない被害を及ぼします。「国策」で原発を推進する以上、国には事故を防ぐためにあらゆる手だてを講じる責任があります。ところが事故の9年前に津波の危険を警告されていたにもかかわらず、国は対策を求めることを怠り重大事故を引き起こしました。この国の不作為を「想定外」を持ち出し免罪することは、最高裁判決が福島原発事故の痛苦の教訓に反する立場に立ったという他ありません。
判決では審理にあたった裁判官4人の中でも見解が分かれ、検察官出身の1人は多数意見に対し反対意見を付けました。
そこでは、「長期評価」は信頼性が高く、これを受けて対策をとっていれば事故は回避できた可能性が高いなどと述べました。防潮堤だけでなく施設の浸水を防ぐ「水密化」も講じられていれば、非常用電源設備が機能を失わない効果があったとも記しました。
多数意見については「長年にわたり重大な危険を看過してきた安全性評価の下で、関係者による適切な検討もなされなかった考え方をそのまま前提にするもの」と批判しました。
「規制権限の行使を担うべき機関が事実上存在していなかった」と国の権限不行使を違法と断じた反対意見を、政府は真剣に受け止めるべきです。
4件の訴訟では、今年3月の最高裁判決で東電が約14億円を賠償することが確定しています。国が目安として定めた賠償額を上回っており、現在の賠償基準が被害の大きさに見合わない低い額であることが浮き彫りになっています。国は原告にとどまらず、全ての被害者に対して真摯(しんし)な謝罪と十分な補償を行う責任があります。
「最大限の活用」やめよ
岸田文雄政権はロシアのウクライナ侵略の影響によるエネルギー供給不足を理由に、原発の「最大限の活用」を打ち出しています。再稼働を推進するために規制を緩めることも企てています。11年が過ぎたいまも住民に深刻な被害を与えている原発事故への反省がありません。安全に対して責任を果たさない政権に参院選で厳しい審判を下す必要があります。
震災4日前、東電が報告した大津波の想定 「砂上の楼閣-原発と地震-」第9回
共同通信 全国新聞ネット 2021/3/10
2008年夏、東京電力は福島第1原発を襲う可能性がある大津波の想定について、対応を「先送り」した。だが、新たな難題が持ち上がる。平安時代の869年に起きた貞観地震の大津波が、福島沿岸に及んだことが解明され始めたのだ。政府の地震調査委員会が貞観津波の研究成果を公表すると知った経済産業省原子力安全・保安院に対し、東電は以前から社内で計算していた高さ15・7mの津波想定を初めて報告した。東日本大震災の4日前のことだった。(共同通信=鎮目宰司)
▽宿題
新潟県中越沖地震(07年)の影響で、保安院は地震想定を中心に、耐震指針に適合しているかを調べるバックチェックの中間報告を求めていた。貞観の大津波が原発に影響する可能性が初めて指摘されたのは09年6~7月、有識者委員の審査会合だった。「貞観の地震で非常にでかい津波が来ている。全く触れられていない」。貞観津波の調査を手がけていた産業技術総合研究所の岡村行信氏が疑問の声を上げた。
福島第1原発を担当していた保安院の名倉繁樹審査官は、津波に関しては中間報告ではなく最終報告に含まれるからと、東電への「宿題」にするとしてその場を収めたが、名倉審査官も彼の上司・小林勝耐震安全審査室長も、東電から肝心なことは何も聞かされてはいなかった。
彼らは直後の9月、東電に貞観津波についての現状報告を求め、研究結果を反映すると福島第1で8~9mの津波が想定されるとの計算結果を聞いた。原子炉建屋のある高さ10mの敷地には届かないかもしれないが、高さ4mの海沿いの敷地にある原子炉冷却用海水を取り込むポンプとモーターは水没する。ちなみに、貞観津波とは別の津波を想定して08年に算出していた最大15・7mのシミュレーションは報告しなかった。
東電は「土木学会で専門家に検討してもらい、自主的に対策する」と説明したとされる。15年9月に政府の事故調査委員会が公開した聴取記録によれば、名倉氏はこの時、東電に具体的な対策を早期に講じ、最終報告を急ぐよう求めたが拒否された。だが、名倉氏はその後、記憶違いだったとしてこの聴取内容を否定。同席した小林氏も「同席しなかった」などと、一時は虚偽の説明をしていた。東電を適切に指導、監督できなかったとの後悔が2人にあるのは間違いないだろう。いずれにせよ、貞観津波についてははっきりしないことが多く、東電の最終報告を待てばいいと判断したようだ。