2022年7月18日月曜日

「13兆円超!」東電旧経営陣4人に賠償命令 払えなければ? 弁護士に聞く

 東京地裁13日、福島第1原発事故を巡り、旧経営陣4人に対し計13兆円余の支払いを命じましたが、現実的に1人当たり3兆円余りの賠償を支払うのはまず無理と思われます。

 それでは具体的にどうなるのでしょうか。旧経営陣が支払わない場合は、彼らの所有する財産を特定して、強制執行(差し押さえなど)することができます。
 債務者側自力では返済ができないとして自己破産を申し立てることも考えられます。その場合は旧経営陣の保有している財産は処分され、そこから債権者に弁済されることになり、残りの債務は免除されます。
 オトナンサーが弁護士の見解をQ&A形式で報じました

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「13兆円超!」東電旧経営陣4人に賠償命令 払えなければ自己破産? 弁護士に聞く
                       オトナンサー編集部 2022/07/17
 東京電力福島第1原発事故を巡り、東電の株主が旧経営陣5人に対し、「津波対策を怠り会社に巨額の損害を与えた」として、総額22兆円を東電に賠償するよう求めた株主代表訴訟の判決で、東京地裁が7月13日、うち4人に計13兆3210億円の支払いを命じたとの報道がありました。国内の民事訴訟で最高額とみられる賠償額ですが、1人当たり3兆円余りの賠償を支払うのは、現実的には無理そうです。

 13兆円!高額賠償の命令を受けた東京電力旧経営陣はこんな人たち
 まだ一審判決ではありますが、仮にこの判決が確定して、4人が賠償額を支払えなかった場合、どうなるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

財産の範囲が現実か
Q.仮に、13兆円超という賠償額が確定した場合、非現実的な額であっても、支払い義務が生じるのでしょうか。
佐藤さん「判決が確定した場合、たとえ現実的に支払うことが困難と思われる金額であっても、支払い義務は生じます
なお、旧経営陣の支払い義務は、会社(東電)に対して負うものです。株主代表訴訟は、株主が会社に代わって取締役などの責任を追及する制度であり、株主が勝訴したとしても、株主が賠償金を受け取れるわけではありません

Q.4人が支払えなかった場合、どのようになるのでしょうか。
佐藤さん「判決が確定すると、東電は4人に対して13兆3210億円の支払いを求める権利があることになり、この債権回収に努める義務が生じることになります。しかし、債権を行使するか、行使するとして、どのように行使するかは、会社の判断になります。
仮に、会社が4人に対して支払いを求めなかった場合、債権回収を怠ったとして、現経営陣の責任を追及するための新たな株主代表訴訟が提起される可能性があるでしょう。
そこで、会社は、4人に対し任意弁済を促し、いつまでにどのような形で支払ってもらうか話し合うことが考えられます。旧経営陣がこれに応じない場合、彼らの所有する財産(不動産や預貯金など)を特定して、強制執行(差し押さえなど)することができます。
その他、不当な資産の流出を回避し、総資産を債権回収の対象にするなどの理由で、会社が4人の破産を申し立てる方法もあります。一方、債務者側(今回の場合は旧経営陣)が自力では返済ができないとして、自己破産を申し立てることも考えられます。破産が認められると、旧経営陣の保有している財産は処分され、そこから債権者に弁済されることになり、残りの債務は免除されます。
いずれにせよ、全額の回収は困難であり、4人の所有する財産の範囲で支払ってもらうことになるでしょう」

Q.もし、「少しずつでも東電に支払う」となった場合、4人に給与収入や年金収入があれば、それらは差し押さえの対象になるのでしょうか。
佐藤さん「給与収入や年金については、差し押さえが法律で制限されています。差し押さえにより、債務者が生活できなくなってしまうと困るからです。
給与収入については、手取り給与の4分の3に相当する部分は、差し押さえが禁止されています(民事執行法152条)。ただし、手取り額が44万円を超えている場合は、差し押さえできないのは33万円で、それを超える分について差し押さえが可能です。
国民年金や厚生年金などの年金については、差し押さえが禁じられています(国民年金法24条、厚生年金保険法41条)」

Q.4人が支払い切れなかった残りの賠償額は、どのような扱いになるのでしょうか。
佐藤さん「損害賠償金の回収が不可能となり、一定の要件を満たした場合には、貸倒損失として東電は損金の額に算入できます。ただし、例えば、旧経営陣に対する損害賠償金の回収を途中で免除したような場合、損金の額に算入できないこともあります」

Q.過去の高額賠償を命じる判決で、支払いができなかった主な事例を教えてください。
佐藤さん「旧大和銀行(現りそな銀行)の巨額損失事件の株主代表訴訟では、一審の地裁判決で、役員ら11人に、総額7億7500万ドル(当時のレートで約829億円)の賠償が命じられました。二審の高裁で2億5000万円という金額で和解が成立しましたが、仮に一審判決が確定していたとしたら、全額回収するのは現実的ではなったでしょう。
オリンパスの粉飾決算事件では、有罪が確定した元社長らに590億円以上の支払いが言い渡され、確定しています。こちらも、全額の回収は現実的には困難だと思われます」