2022年7月14日木曜日

東電旧経営陣4人に計13兆円余の賠償命令 東京地裁

 福島第一原発の事故で東電が多額の損害を被ったとして、東電の株主が、旧経営陣5人に対し22兆円を賠償するよう求めた裁判で、東京地裁は元会長ら4人に合わせて13兆3000億円余りの賠償を命じる判決を言い渡しました。

 原発事故をめぐり旧経営陣の民事上の責任を認めた司法判断は初めてで、賠償額は国内の裁判では過去最高です。
 判決は、国の地震調査研究推進本部が2002年に公表した「長期評価」の信頼性について「推進本部の見解は、組織の位置づけやメンバー構成などから科学的信頼性がある知見」で「旧経営陣に津波対策を義務づけるものだった」と指摘し「旧経営陣はいずれも重大な事故が生じる可能性を認識しており、事故が生じないための最低限の津波対策を速やかに実施するよう指示すべき義務があったのに怠った。浸水対策をとっていれば重大な事態を避けられた可能性が十分ある」として、4人の賠償責任を認めました。
 裁判長には、東電の経営者たちが、防潮堤築造などの出費をしたくないため、推進本部よりも専門性においても低位の土木学会にチェックをさせることで時間稼ぎをしたことで、結果的にあの大惨事を引き起こしたことへの怒りがあったように思われます。
 なお賠償金は東電に対して支払われるもので株主に支払われるものではありません。巨額なので実際に支払われる可能性はありませんが、経営者が負うべき責任の大きさについてのこの上ない警鐘になります。NHKの記事を紹介します。
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東電旧経営陣4人に計13兆円余の賠償命令 判決のポイントは
                     NHK NEWS WEB 2022年7月13日
福島第一原発の事故で多額の損害を被ったとして、東京電力の株主が、旧経営陣5人に対し22兆円を会社に賠償するよう求めた裁判で、東京地方裁判所は元会長ら4人に合わせて13兆3000億円余りの賠償を命じる判決を言い渡しました
原発事故をめぐり旧経営陣の民事上の責任を認めた司法判断は初めてで、賠償額は国内の裁判では過去最高とみられます。
東京電力の株主たちは、原発事故が起きたために廃炉作業や避難者への賠償などで会社が多額の損害を被ったとして旧経営陣5人に対し、22兆円を会社に賠償するよう求めました。

13日の判決で東京地方裁判所の朝倉佳秀裁判長は、勝俣恒久元会長と清水正孝元社長、武黒一郎元副社長、それに武藤栄元副社長の4人に合わせて13兆3210億円の賠償を命じました。
判決は、国の地震調査研究推進本部が2002年に公表した「長期評価」の信頼性について「推進本部の目的や役割、メンバー構成などから一定のオーソライズがされた相応の科学的信頼性がある知見だった」として「旧経営陣に津波対策を義務づけるものだった」と指摘しました。
そのうえで「旧経営陣はいずれも重大な事故が生じる可能性を認識しており、事故が生じないための最低限の津波対策を速やかに実施するよう指示すべき義務があったのに怠った。浸水対策をとっていれば重大な事態を避けられた可能性が十分ある」として、4人の賠償責任を認めました。
小森明生元常務についても過失があったと認めましたが、就任したのが震災の前の年の6月で、対策を指示しても間に合わなかったとして、賠償責任はないと判断しました。
賠償額は廃炉と汚染水の対策費用として1兆6150億円、被災者への損害賠償で支払いを合意している7兆834億円、さらに除染と中間貯蔵の対策費用で平成31年度までに必要とされた4兆6226億円の総額で、これらが最終的に東京電力の負担になるとして、旧経営陣による損害と認定しました。
原発事故をめぐり旧経営陣の民事上の責任を認めた司法判断は初めてで、賠償額は国内の裁判では過去最高とみられます。

記者はどう見る 
この判決について社会部 伊沢浩志記者の解説です。
Q.判決のポイントは。
A.主な争点は、
▼国の地震調査研究推進本部が2002年に公表した「長期評価」の信頼性
▼巨大津波が原発を襲う可能性を旧経営陣が事前に予測できたかどうか
▼対策を講じていれば事故を防ぐことができたかどうか
でした。
株主側は、「長期評価」は信頼できるとした上で、「旧経営陣は巨大津波が原発を襲う可能性を事前に認識していて、必要な対策をとるべきだったのに怠った」と主張しました。
一方、旧経営陣側は「『長期評価』の信頼性は低く、巨大津波による被害は予測できなかった。仮に予測できていたとしても対策は間に合わなかった」などと主張していました。
判決は、株主側の主張をほぼ全面的に認めた形です。
「長期評価」については国の機関の目的や役割やメンバー構成などから、「一定のオーソライズがされた相応の科学的信頼性がある知見だった」として、「経営陣に津波対策を義務づけるものだった」と認定しました。

Q.訴えられていたのは旧経営陣5人だが、賠償が命じられたのは4人なのはなぜか。
A.判決は、5人全員が対策を講じる義務を怠ったと判断しています。
原子力部門のトップだった武藤元副社長が「長期評価」について信頼性が不明だと判断し、事故を防ぐための津波対策を速やかに講じるよう指示せず、そのほかの4人も武藤元副社長の判断をそのまま認め、対策を指示しなかったと指摘しました。そして、東京電力の担当部署が指示を受けて、原発の建物の中に水が入らないようにする「水密化」という対策をとっていれば、重大事態を避けられた可能性は十分あったとしています。
小森元常務も過失があったとされましたが、取締役に就任したのが震災の前の年だったため、2年程度かかる「水密化」の対策を指示しても不可能だったとして賠償責任はないと判断されたのです。

Q.今回の裁判は株主が会社に変わって旧経営陣の責任を追及する株主代表訴訟で、賠償は株主に対してではなく東京電力に行うことになる。13兆円を超える賠償額が認められたのはなぜなのか?
A.認められたのは
▼廃炉と汚染水の対策費用として1兆6150億円
▼被災者への損害賠償で支払いを合意している7兆834億円
▼除染と中間貯蔵の対策で平成31年度までに必要とされた4兆6226億円の総額です。
これらが最終的には東京電力の負担になるとして、旧経営陣による損害だと認定しました。国内の裁判では過去最高の賠償額とみられます。

Q.今回の判決の意義は?
A.判決は冒頭で「原発事故が発生すると従業員や周辺住民だけでなく国民全体に対しても甚大な被害を及ぼし、ひいてはわが国そのものの崩壊にもつながりかねない。原子力事業者には重大事故を万が一にも防ぐ社会的な義務がある」と指摘しました。それにもかかわらず旧経営陣は対応を怠ったとして、「原子力事業者に求められている安全意識や責任感が根本的に欠如していたと言わざるを得ない」と厳しく非難しました。
原子力事業を担う会社の役員には重い責任と、より慎重な判断が求められることを極めて厳しくつきつけたといえます。

原告団「社会的責任を認定してくれた」
判決のあと、原告団は東京地裁の前で「株主勝利」と書かれた紙をかかげ、支援者たちに報告をしました。
原告の1人は「取締役たちの安全意識や責任感が根本的に欠如していたということを裁判所は、はっきり言いました。会社を運営するということは、社会的責任をともなうということを認定してくれました」と声を震わせながら語りました。

また海渡雄一弁護士は、判決について「裁判所の東電に対する激しい怒りがはっきり示されていて画期的だ」と述べたうえで、来年1月に判決が予定されている旧経営陣3人に対する刑事裁判の控訴審についても「決定的な影響を与えるだろう」という見解を示しました。

原告団が記者会見「歴史的な意味がある名判決」
判決を受けて、原告団が東京・霞が関で記者会見を開きました。
原告の1人である木村結さんは「東電のずさんな経営を許してはいけない、首都圏の電気をつくるために福島の人たちが危険にさらされる現実を変えなければと長きにわたって闘ってきた。原子力発電所は、ひとたび事故を起こせば、取り返しのつかない被害を生命と環境に与えるもので、その重責を担う覚悟を持たないものは取締役などになってはいけないということを示していただいた」と述べました。

海渡雄一弁護士は「原発事故で非常に苦しい生活に追い詰められた大勢の住民に心から喜んでもらえる100点満点の判決になったと思う。原子力事業者の取締役たちに事故の責任があると認定されたことで、今後各地の原子力事業者の経営判断にも影響が出てくると思う」と述べました。
また、河合弘之弁護士は「きょうの判決で非常に印象的だったのは裁判官たちの正義感だ。手を抜いて逃げ回って、何も対策を取らずに事故を起こした旧経営陣に対する怒りが満ち満ちていた。歴史的な意味がある名判決だと思う」と述べ、判決を高く評価しました。

東京電力「改めて心からおわび申し上げます」 
判決について東京電力は、「個別の訴訟に関することは回答を差し控えさせていただきます」としたうえで、「原発事故により、福島県民の皆さまをはじめ、広く社会の皆さまに大変なご迷惑とご心配をおかけしていることについて、改めて、心からおわび申し上げます」とするコメントを出しました。

勝俣元会長と清水元社長の代理人弁護士「コメント差し控える」
判決について、東京電力の勝俣恒久元会長と清水正孝元社長の代理人をつとめる弁護士は「判決内容を精査できていないので、コメントは差し控える」としています。

福島の集団訴訟 原告団長「よく賠償責任認めたと思う」
先月、最高裁で判決が言い渡された福島県内の原発避難者の集団訴訟で原告団長を務めた中島孝さん(66)は、「よく賠償責任を認めたと思う。自己破産してしまうような金額だが、廃炉にかかる膨大な費用を考えると素直な判断だと思う。上告するだろうが、2審の高等裁判所もこの判断を踏襲してほしい」と話していました。

そのうえで「原発事故から11年たったが、被害は広く、深く、長い。処理水が海洋放出されれば福島の命運は尽きると思う。国も含めて、この事故の原因やいきさつを検証し、反省するプロセスが引き続き求められるので、司法には頑張ってもらいたい」と語りました。

福島 いわき市民は
 (後 略)