西側はいまロシアを孤立させるため資源の脱ロシア化を進めていますが、濃縮ウランの製造がそのネックになっているということです。原発の燃料には、天然ウラン中にわずか0.7%しか含まれないウラン235の割合を3~5%に濃縮した濃縮ウランが必要です。濃縮操作自体は原発保有の先進国であればどこでもできるのですが、これまで採算が合わないため米国などは撤退して、ロシアをトップに4か国による独占状態になっていました。因みにロシアのシェアは46%に達しています。
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「脱ロシア」が難しい濃縮ウラン 欧米の原子力回帰に水差す
サンデー毎日×週刊エコノミスト 2022/7/5
ロシアのウクライナ侵攻は、原子力発電の燃料であるウランの国際市場も揺るがしている。天然ウランから燃料への加工で必要な「濃縮」ができる工場は世界で限られ、ロシアのシェアが高いからだ。特に自国の濃縮能力が十分でない米国や日本にとっては天然ウランの転換、濃縮がエネルギー供給の急所になりかねない。
◇原発用のウラン濃縮工場は世界で限られる
原発用の核燃料は天然ウランの採掘から、製錬や転換、濃縮、加工などの工程を経て作られる。核燃料に使える核分裂性のウラン235は、天然ウラン中にわずか0.7%しか含まれない。核分裂しにくいウラン238に対し、ウラン235の割合を3~5%に濃縮する必要がある。これには高度な技術が必要であるとともに、核兵器不拡散の観点から工場は限られた国にしか存在しない。
世界原子力協会によると2020年時点での原発向けウラン濃縮能力のシェアは、ロシア・ロスアトム傘下のトベルフュエルが世界トップの45.9%。以降はウレンコ(英独蘭の合弁会社)が30.4%、仏オラノ12.5%、中国核工業11.2%と続く(図)。
⇒ 原発用のウラン濃縮能力を持つ国は限られる(2020年)
一方の天然ウランは日本原子力産業協会の報告書によると、19年基準の生産量では1位のカザフスタンが世界の4割を占めるものの、既知の資源量(19年1月時点)では豪州(28%で世界第1位)やカナダ(9%で同3位)も多い。ウクライナ危機後は天然ウラン価格も約3割上昇しており、両国ではウラン採掘企業が増産体制に入った。天然ウラン自体の“脱ロシア”(ロシアは8%で同4位)は難しくはないと考えられている。
「ただし、ここで問題となってくるのは濃縮能力」と、核燃料に詳しい山崎正俊氏(原子力関連会社「スタズビック・ジャパン」代表)は指摘する。米国では電力供給全体の2割を原発が占めるが、安価な外国産ウランに対し国内濃縮事業は市場競争力を失い縮小していた。日本国内でも濃縮工場は稼働しているものの、国内の需要を満たすには必ずしも十分でない。
◇加工増強は時間がかかる
原発は一度燃料を装荷すれば約1年にわたり運転は可能で、予備燃料もあるため、仮に供給が途絶えても数年は支障はない。「とはいえ、濃縮事業を含む燃料の加工体制を増強するにはそれなりの時間がかかる」(山崎氏)。
濃縮ウランの迅速な脱ロシアは難しい状況で、米国エネルギー省のグランホルム長官は5月5日、「米国はウランの安定供給を確保するための戦略を策定中で、ロシアからの輸入を見直す」との見解を示し、投資の拡大と23年度の新たな予算確保の必要性を主張している。
欧米ではもともと脱化石燃料への原発貢献論が後押しし、そこに脱ロシアも相まって、原発回帰の流れが強まりつつある。だが、「核燃料がロシア産」だと原発増設による脱化石燃料だけでは脱ロシアは図れない。市場経済に委ねたが故に脆弱(ぜいじゃく)なサプライチェーンを甘受せざるを得なかった米国の姿は日本にも重なる。エネルギー供給の脱ロシアは容易な道のりではない。
(荒木涼子・週刊エコノミスト編集部)