13日に東京地裁は、東電旧経営陣4人に計13兆円余の賠償を命じる判決を下しました。これについて当ブログではNHKの記事を紹介しました。
⇒(7月14日)東電旧経営陣4人に計13兆円余の賠償命令 東京地裁
この件について東京新聞が、判決のポイントをより分かりやすく解説した記事を出していました。同紙は判決前にも、審理の過程で明らかにされた東電旧経営陣の「逃げの姿勢」を上・下2編に分けて報じていました。
それらを併せて詳報として紹介します。
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東京電力の旧経営陣4人に13兆円賠償命令 株主代表訴訟で東京地裁判決 津波対策を放置「著しく不合理」
東京新聞 2022年7月13日
東京電力福島第一原発事故を巡り、旧経営陣が津波対策を怠ったことで東電に巨額の損害が生じたとして、株主が勝俣恒久元会長(82)ら5人に会社への22兆円の損害賠償を求めた株主代表訴訟の判決で、東京地裁(朝倉佳秀裁判長)は13日、勝俣元会長ら4人に計13兆3210億円の支払いを命じた。
4人は勝俣氏のほか清水正孝元社長(78)、原発の安全対策の実質的な責任者だった武藤栄元副社長(72)、その上司だった武黒一郎元副社長(76)。原発事故で旧経営陣の過失を認定した司法判断は初めてで、裁判の賠償額としては過去最高とみられる。
争点は、旧経営陣らが大津波を予見し、対策によって事故を防げたか。判決は、政府の地震調査研究推進本部が2002年に公表した地震予測「長期評価」と、これに基づき最大15・7メートルの津波の可能性を示した東電子会社の試算を「相応の科学的信頼性がある」と認定した。
その上で、08年7月に試算の報告を受けた武藤氏が長期評価の信頼性を疑い、土木学会に検討を依頼して見解が出るまでの間、津波対策を放置したことを「対策の先送りで著しく不合理だ」と指摘。武藤氏の判断を是認した武黒氏に加え、09年2月の「御前会議」で敷地高を超える津波襲来の可能性を認識したのに対策を指示しなかった勝俣、清水両氏についても、取締役の注意義務を怠ったとした。
原子炉建屋や重要機器室に浸水対策を行っていれば「重大事故を避けられた可能性は十分にあった」と判断。対策には約2年の工期がかかるとし、10年に取締役に就いた小森明生元常務については賠償責任を認めなかった。
賠償額の内訳は▽廃炉費用1兆6150億円▽被災者への賠償金7兆834億円▽除染・中間貯蔵対策費用4兆6226億円。
旧経営陣側は、長期評価には異論もあり信頼性がなく、防潮堤以外の津波対策は当時、一般的な知見ではなかったと主張していた。
株主側は12年3月に提訴。弁論は62回にわたり、裁判長はこの間に3回交代した。昨年10月には原発事故の責任が問われた裁判としては初めて、裁判官による現地視察が行われた。
東電は「個別の訴訟に関することは回答を差し控える」とした。被告5人はコメントを出していない。
◆「安全意識や責任感が根本的に欠如」 裁判長が東電を批判
「7カ月かけて書いた判決です。最後までしっかり聞いてください」。朝倉佳秀裁判長は前置きしてから判決理由を読み上げた。
約40分にわたる判決言い渡しで、朝倉裁判長は時に語気を強めながら、旧経営陣の主張を次々と退けていった。「(東電は)有識者の意見のうち、都合の良い部分をいかに利用し、都合の悪い部分をいかに無視し、顕在化しないようにするかと腐心してきた」
さらに「被告らの対応は東電内部では当たり前の行動だったかもしれないが、原子力事業者としては安全意識や責任感が、根本的に欠如していた」と厳しく批判した。
<生かされなかった「警告」㊤>
なぜ津波対策は先送りに? 保安院の要請に東電側は「40分抵抗」 原発事故の株主代表訴訟、13日に判決
東京新聞 2022年7月12日
東京電力福島第一原発事故の旧経営陣5人の責任を問う株主代表訴訟の判決が13日、東京地裁である。福島県沖での巨大津波の可能性が浮上したのは、事故が起きる10年近く前。津波対策はなぜ先送りされ続けたのか。判決を前に、法廷に提出された証拠などから振り返る。(小沢慧一)
東電株主代表訴訟 福島第一原発事故で、旧経営陣が津波対策を怠ったことで賠償金や廃炉費用などの損害が生じたとして、株主48人が勝俣恒久元会長ら5人に約22兆円を東電に賠償するよう求めている。2012年に提訴された。被告は他に清水正孝元社長と武黒一郎元副社長、武藤栄元副社長、小森明生元常務。原発事故に絡む東電の責任を巡っては、勝俣、武黒、武藤の3氏は業務上過失致死傷罪で強制起訴されたが、19年の一審・東京地裁判決は無罪とした。最高裁は6月の原発避難者訴訟で国の責任を認めない判決を出し、東電には福島、群馬、千葉、愛媛の4訴訟の原告に計約14億円の賠償金の支払いを確定させた。 |
政府の地震調査研究推進本部は2002年7月、福島県沖を含む地震予測「長期評価」を公表した。この長期評価の信頼性は、訴訟の争点の一つとなっている。
「(長期評価は)知見でなくご意見だ」
昨年7月の口頭弁論で、被告の武藤栄元副社長は証言台の前に立ち、そう強調した。異論を唱える専門家もいたとして、旧経営陣側は、長期評価には津波対策を決定するほどの信頼性はなかったと主張する。
対する原告側は、「そもそも長期評価は東電には不都合な予測」で、旧経営陣は目を背けたと指摘する。02年8月、経済産業省原子力安全・保安院(当時)は東電に、長期評価に基づく津波想定の試算を要請した。しかし、東電の担当者が関係者に送ったメールには、要請に対し、「40分間くらい抵抗した」と書かれている。
【写真説明】原子力安全・保安院(当時)からの長期評価に基づく試算の要請について、東電の担当者は「40分間くらい抵抗した」と関係者にメール報告している(メールの資料はフリージャーナリスト添田孝史さん提供)
保安院はさらに、長期評価の作成経緯を調べるよう東電に指示したが、担当者は福島県沖の津波発生に懐疑的だった推進本部の委員の佐竹健治氏(現・東大地震研究所所長)に、メールで問い合わせをしただけだった。保安院はそれ以上、東電を追及しなかった。
その後、04年12月にインドネシア・スマトラ沖地震による津波で、インドの原発が水没。この事故を教訓にできたと原告側は主張するが、東電は対策にかじを切ることはなかった。
06年9月、原発の「耐震設計審査指針」改定で、津波対策が加わり、「耐震バックチェック」を保安院が行うことになった。保安院は同年10月、電力会社の担当者を集めて、「津波対策を早急に検討し、対応するように」と指示した。
当時、福島第一原発で想定される津波の高さは5・7メートル。施設が耐えられる津波の高さも5・7メートルと同じで、全国で最も余裕のない原発だった。それでも、東電は対策に着手しなかった。訴訟で提出された保安院の審査班長に対する東京地検の調書には、「(東電は)コストをかけることを本当に嫌がっている。正直、対応の遅さに腹が立った」などと記されている。
そうした旧経営陣側の後ろ向きな姿勢に、原告側は「相応の信用性のある警告があった場合、とりあえずの対策をしておくべきだ。放置したまま時間を浪費した態度は許されない」と批判している。
08年になり、東電は重い腰を上げる。土木技術に詳しい今村文彦東北大教授(津波工学)に助言を求め、津波対策の検討を開始した。常務会や勝俣恒久元会長らが出席する「御前会議」でも議題に上った。
しかし、同年3月、長期評価を基に津波の高さを想定したことで、事態は変わる。津波の高さは従来の3倍近い15・7メートル。対策を進める方針は再び揺らぎ始めた。
<生かされなかった「警告」㊦>
津波「15.7メートル」試算信じず、対策「実質的な先送り」か 東電旧経営陣の責任は
東京新聞 2022年7月13日
政府の地震調査研究推進本部が2002年に地震予測の「長期評価」を公表し、福島県沖での巨大地震の可能性が浮上した約6年後の08年、東京電力はようやく津波対策の検討を始めた。だが、同年3月、長期評価に基づく試算で、巨大津波の高さが「15・7メートル」と示され、再び足が止まる。
「大変驚きました」。東電株主代表訴訟に証拠として提出された東京地検の調書には、東電の地震対策担当者が試算を知った際の衝撃が記されている。15・7メートルはこれまでの想定(5・7メートル)の3倍近い。
東電関係者の多くは、試算を信じられなかった。原発の安全対策の実質的責任者だった武藤栄元副社長もその一人で、「土木学会に見てもらったほうがよい」と判断。津波対策を含めて経済産業省原子力安全・保安院(当時)が審査する「耐震バックチェック」には従来想定の5・7メートルで臨むことを決め、審査に関わる学者に納得してもらうように部下に指示した。
訴訟では、武藤氏は当時の判断について「長期評価の科学的根拠が不明だった」と説明した。それに対し、朝倉佳秀裁判長は、長期評価をした推進本部ではなく、いきなり土木学会に検討を求めた理由を問いただした。「むしろ(重大性を)理解しているような気がする」などと朝倉裁判長が尋ねたが、武藤氏から明確な回答はなかった。
東電は当時、福島第一原発が運転停止に追い込まれないか心配していた。「15・7メートルの津波対策が完了しなければ、停止を求められる可能性があった」。東京地検の調書には、山下和彦・原子力設備管理部新潟県中越沖地震対策センター所長の認識がそう記されている。
07年の新潟県中越沖地震で柏崎刈羽原発が停止し、火力発電の燃料費は年約5000億円増えていた。「福島第一まで停止に追い込まれれば、さらなる収支悪化が予想された」(山下氏の調書)。
09年2月、東電経営陣が出席する「御前会議」で、故吉田昌郎原子力設備管理部長(当時)が「14メートル程度の津波が来る可能性」について報告した。しかし、法廷で、勝俣恒久元会長は「(報告は)非常に懐疑的なニュアンスだった」と振り返った。清水正孝元社長は「記憶がない」と述べ、武黒一郎元副社長も吉田氏は対策の必要性に言及しなかったと強調した。
旧経営陣のそうした一連の態度を、「津波対策の実質的な先送り」と原告側は批判する。実際、先送りせずに、日本原電は08年から、長期評価を取り入れた。東海第二原発の津波対策は、防潮堤を造らず、盛り土の造成や原子炉建屋の防水扉設置などを組み合わせたものとなっている。
勝俣元会長らが強制起訴された刑事裁判では、東京地裁は19年、長期評価の信頼性を認めずに無罪を言い渡した。一方、株主代表訴訟では、刑事裁判の多くの証拠のほか、新たに保安院の元評価委員らの証言も採用された。
刑事裁判では認められなかった旧経営陣の原発事故に対する責任が、株主代表訴訟では認められるのか。判決は13日、東京地裁で言い渡される。(小沢慧一)