2015年8月10日月曜日

事故時の財政的備えのないまま再稼動へ 電力各社

 福島原発事故では、住民への補償や除染などで少なくとも11兆円あまりが必要とされていますが、事故発生時、東電は最大1200億円の保険金しか準備していませんでした。そのため政府は2011年の9月に、原子力損害賠償機構を作り、国債で調達した資金を機構を通じて東電に流し、一時的に肩代わりする形で支援してきました
 
 現在電力会社は、20年掛けて、政府が肩代わりした賠償に必要な資金の返済を共同で始めていますが、それだけで終わっていて「新たな事故への準備は何も進めていません。仮に9兆円を積み立てるためには電力各社の負担額は、発電量に応じて1600億~3兆1300億円に達します。
 
 勿論それらは全て電気料金に含ませるしかないのですが、いまはそれには取り組まずに、現在機構への返済額を負担していることで、「それを自社の原発で事故が発生した時に国の支援を受けるための『政治的』な備えにしている」というのが本音だということです。
 
 これもいわば原発の発電コストの偽装です。
 電力各社は、事故時には再び国債や税金で対応してもらうという、政府依存の考え方を隠していません。
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原発事故 賠償備え貧弱 川内再稼働目前「無責任」の声
東京新聞 2015年8月9日 
 東京電力福島第一原発事故では、莫大(ばくだい)な賠償金が生じているが、新たな原発事故が起きた場合、資金的手当てはどうなるのか。政府は福島事故での賠償の枠組みを使う方針だが、実は十分な手当てのめどは立っていない。九州電力川内(せんだい)原発(鹿児島県)が十一日にも再稼働する見込みだが、賠償の備えはほとんどなく、専門家から「無責任だ」との声が上がっている。 (荒井六貴)
 
 福島の事故では、避難を強いられた住民らへの補償や除染などで少なくとも九兆円が必要とされる。これとは別に、事故収束費用は二兆五千億円が、かかるとみられる。事故発生時、東電は最大千二百億円の保険金しか備えておらず、事故と賠償への対応でたちまち資金的にも行き詰まった
 
 事態を打開するため、政府は二〇一一年九月、原子力損害賠償機構(現・原子力損害賠償・廃炉等支援機構)を設立。国債で調達した資金を機構を通じて東電に流し、一時的に肩代わりする形で支援してきた
 
 政府は、新しい規制基準による原子力規制委員会の審査が終わった原発は再稼働させる方針。新たな原発事故が起きたときの資金的な備えとしては、同機構の仕組みを使い、新たに電力各社から資金を集め、プール金とする方向で検討を進めている。ただ、問題なのは肝心の資金をどう集めるか。本来は、事故に備えるプール金のはずだが、実際は福島事故への対応で、原発を有する事業者や核燃料サイクルに関わる日本原燃の十一社は、政府が肩代わりした賠償に必要な資金の返済を共同で始めている。新たな事故への対応になっていない
 
 返済金額は二〇一四年度だけで二千二百三十億円。負担額は保有原発の出力などに応じて決まり、事故を起こした東電は千百六十七億円と最も高いが、関西電力は三百十五億円、中部電力は百二十四億円、北陸電力は六十億円とかなりの額を支払っている。こうした状況が二十年ほど続く。
 
 福島事故と同等の九兆円を積み立てるとすると、各社の負担額は千六百億~三兆千三百億円に達する。米国のように一兆円規模のプール金制度を設けるとしても、二百億~三千五百億円が必要になる。
 
 九電の担当者は「機構への負担金は、福島の賠償というより、自社の原発で事故が発生した時に国の支援を受けるための備えとして支払っている」と、新たな負担は不要との認識を示している。
 
 経済産業省資源エネルギー庁の担当者は「最終的には、再び国債を発行してしのぐしかない。事業者が、追加の負担に耐えられるかどうか分からず、新しい枠組みは必要になるかもしれない」と、検討が進んでいないことを認めた。
 
◆相当額の担保必要
大島堅一・立命館大教授(環境経済学)の話 
 原発を動かす選択をするなら、事業者は損害賠償に充てる相当額の担保が必要だ。資金的裏付けがないまま、稼働させるのは無責任。稼働で利益を得ようとしているのに、賠償のリスクは負わないというのはおかしい。福島の事故で、どれほどのお金がかかるか分かったはずで、もう言い訳はできない。「原発のコストは安い」と言うなら、リスクは事業者が負うべきだ。