泉田裕彦新潟県知事は24日、原子力規制の田中委員長と都内で会い、SPEEDIの活用など原子力発電所の防災対策の改善を求めました。
そして規制委が考えている事故後の放射能の実測値をもとにした対応では、ヨウ素剤の配布や避難指示が住民が被曝した後になるので、住民の理解を得るのは困難だと伝えましたが、田中氏はSPEEDIの活用に否定的な立場を示し、「本当に必要と知事が判断されるのであれば、取り組んでいただきたい」と他人事のような対応をしていました。
これでは仮に今後会談が継続されたとしても、なかなか実りのあるものになりそうもありません。
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泉田知事と初会談 狼狽する田中・原子力規制委員長
田中龍作ジャーナル 2015年8月24日
一番会いたくない相手と とうとう 会うハメになった―
原子力規制委員会の田中俊一委員長が、きょう、泉田裕彦氏と会談した。新潟県知事ではなく全国知事会・防災委員長(※)としての泉田氏とである。
泉田知事は「住民の避難対策が不十分なままの原発再稼働はありえない」として田中委員長に面談を求めていた。原子力規制庁の発足直後からだから3年越しとなる。
しかし田中委員長は、避難対策は自治体が決めること、として面談を断り続けてきた。
経産省資源エネルギー庁出身で、原子力行政の手の内を知る泉田知事は手強い。田中委員長は逃げていたのだ。
きょうの会談でも攻める泉田知事に対して田中委員長は防戦一方だった。泉田知事はヨウ素剤の配布、SPEEDIの公開など避難にあたって必要なものを求めた。田中委員長からは明確な答えが返って来なかった。
田中委員長はノラリクラリとかわせるものとタカをくくっていたのだろうが、そうは問屋が卸さなかった。3年間、業を煮やし続けた知事が強烈なアッパーカットを見舞ったのだ―
泉田:「田中委員長が『原子力避難計画を作ること自体は規制庁の仕事ではない』と発言したと承知している…(中略)…山谷(えり子・防災担当)大臣からも望月(義夫・原子力防災担当)大臣からも『(それは)規制庁の仕事なのでお伝えしておきます』と言われている。このあたりの仕事は規制庁の仕事と考えてよろしいか?」
田中:「いや、必ずしも私がここで一存で決められることではないので、検討させて頂く・・・」
泉田:「(緊急時の避難作業において労働安全法と原子力災害対策指針との法整備が必要なので)勧告権の行使をしていただけないでしょうか?」
田中:「いや、勧告権というのは、法的には私ども持っていますけど、やたらとそれなりに意味のある勧告でないと。勧告したけれども、勧告しただけでは私としても本意ではない」。
田中委員長の答えは理屈になっていなかった。声はふるえ、時おり吃った。手は机の上でバタバタと躍った。明らかに狼狽していた。
田中委員長にとっては途方もなく長い30分間だった。面談の後、泉田知事だけが、ぶら下がり記者会見に応じた。
「勧告権をなぜ使わないのか、相変わらず分からなかった。必要なものは各省庁に勧告権を行使してほしい」。泉田知事は田中委員長の消極的な姿勢を批判した。
筆者は質問した―「田中委員長の姿勢からは、原発を動かすことの危機感、万が一の事故があった時の危機感が感じられたか?」と
泉田知事は次のように答えた―
「規制委員会のミッションは何なのか? 制度設計をした際に規制委員会の果たすべき役割は国民の生命・安全を守ること。(なのに)住民目線というところのお話が必ずしも伝わってこなかったなというのが印象だった」
「住民の健康を守るという視点で何が必要か、まず勧告を出すという姿勢がないと。政府から独立して勧告を出すという本来の役割が果たせないんじゃないか。規制委員会は独自の立場で言えるという事でないと保安院時代と変わらない」。
7月29日、山本太郎議員が国会で弾道ミサイルが原発を直撃した場合の被害を質問したところ、田中委員長は「(そうしたことは)規制にない」と答弁した。この問題について筆者は知事に聞いた。
泉田知事が明快に答えた―
「政府部内を規制委員会がしっかり統括するしくみができていない。原発が攻撃されたらどうなるかという被害想定を外務省が過去やっている。内部文書も存在している」
「田中委員長が知らないということであれば、日本の原発の安全性の確保というのは、一体どうなっているのか?」
住民の安全を第一に考える泉田知事と見切り発車で原発を再稼働させた田中委員長の初顔合わせ。この会談で原子力行政のいい加減さがモロバレになったことは、じつに“有意義”だった。
~終わり~
※ 正式名称は「全国知事会危機管理・防災特別委員会委員長」。
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新潟県知事が原子力規制委員長と会談
放射能拡散予測の活用など要望
ブルームバーグ 2015年8月24日
(ブルームバーグ):新潟県の泉田裕彦知事は24日、原子力規制委員会の田中俊一委員長と都内で会い、放射能拡散の予測システムの活用など原子力発電所の防災対策の改善を求めた。
泉田氏は24日の会談で、緊急時に気象条件などを基に放射能がどう拡散するかを予測する緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)を、原発周辺の自治体が避難計画策定時に利用できるようにすることなどを柱とした安全対策を要望した。
会談で泉田氏は事故後の放射能の実測値を基にした対応では、ヨウ素剤の配布や避難指示が被ばくした後になる可能性を指摘し、「住民理解を得るのが困難」と田中氏に伝えた。海外の原発を保有する国々では予測の数値が用いられていることを踏まえ、日本でも「SPEEDIなど何らかの予測を活用する仕組みを構築して欲しい」と要請した。
規制委は14年10月、SPEEDIの予測の不確かさを排除することはできず、反対に被ばくのリスクを高めかねないという理由から、同システムを採用しない判断を下していた。会談でも田中氏は活用に否定的な立場を示した。「本当に必要と知事が判断されるのであれば、事前にヨウ素剤を配ることも含めて取り組んでいただきたい」と述べ、自治体が必要な対策がとれるよう資金措置などを検討する考えを示した。
泉田氏は会談後記者団に対し、東京電力 の柏崎刈羽原発(新潟県柏崎市、刈羽村)について、福島第一原発事故の検証や総括が必要だとし、「再稼働を議論する段階にない」と従来の立場を繰り返した。「どこに体制のミスがあったかの総括や社内処分も行われていない」と指摘した。
泉田新潟知事:原子力規制委員長と初面会 定期協議を要請
毎日新聞 2015年08月24日
全国知事会危機管理・防災特別委員長を務める泉田裕彦新潟県知事は24日、原子力規制委員会の田中俊一委員長と初めて面会した。泉田知事は、原子力防災を巡る現行の法体系に整合性がなく、実施が困難だと指摘した上で、規制委と知事会の定期的な協議の場をつくるよう求めた。
規制委は東京電力福島第1原発事故を受けて改定した原子力災害対策指針で、原発事故時に5~30キロ圏の住民は屋内退避し、被ばくを防ぐ安定ヨウ素剤は原則として事故後に配ることや、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)を避難に使わないことなどを決めている。
泉田知事は、5~30キロ圏内での避難住民の搬送について「放射線量が高い場所でのバス運転手の派遣は、労働安全衛生法の制約があり難しい」と指摘。安定ヨウ素剤の事後配布についても「SPEEDIの予測情報がないと的確な配布が困難になる」と述べた。
これに対し、田中委員長は「SPEEDIの活用は混乱のもとで、いろいろな問題が起きる」と説明。定期協議については「なかなか難しい」と述べた。
泉田知事はこれまでもSPEEDIの活用などを求めて規制委を批判し、田中委員長との面会を求めてきた。【酒造唯】