2015年8月2日日曜日

東電元会長ら強制起訴は当然と被災者

 検察審査会による東電旧経営陣3人の強制起訴について、今も避難生活を強いられている被災者からは、検察審査会の決定を「当然だ」と受け止める声が上がっています。
 
 「誰も責任を取らないのでは法治国家とは言えない」「検察審査会の議決は当然」、「福島第1原発事故の原因究明ができていない段階で再稼働を急ぐのは間違」などですが、その一方で「一企業の幹部の責任を追及するだけで、果たして国の原発政策が変わるのだろうか」という声もあります。
 
 いずれにしてもこの裁判を通じて事故の原因と責任を特定して欲しいものです。
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東電元会長ら強制起訴 被災者「当然だ」
河北新報 2015年8月1日
 勝俣恒久元会長ら東京電力の旧経営陣3人の強制起訴が決まった31日、福島第1原発の津波対策を怠ったとして刑事責任を追及してきた「福島原発告訴団」や原発の再稼働に反対する団体のメンバーをはじめ、今も避難生活を強いられている被災者からは、検察審査会の決定を「当然だ」と受け止める声が上がった。
 
 福島県庁で記者会見した告訴団の佐藤和良副団長(61)=いわき市=は「復興を前進させるために事故の原因と責任を特定する必要がある。被害者側に立った賢明な判断をしてくれた」と語った。「市民の声を代弁した」「涙が出るほどうれしい」。同席したメンバーも喜んだ。
 
 飯舘村から伊達市に避難し、東電に精神的賠償の増額を求めている長谷川健一さん(62)は「これだけの事故を起こした加害者が誰も罰を受けず、誰も責任を取らないのでは法治国家とは言えない」と断じた。
 東北電力女川原発(宮城県女川町、石巻市)の再稼働に反対する市民団体の篠原弘典世話人も「検察審査会の議決は当然だ」と評価した。その上で「福島第1原発事故の原因究明ができていない段階で再稼働を急ぐのは間違いだ。今回の議決は、強引に再稼働を進めようとする動きに対する警鐘になる」と強調した。
 
 一方で、審査会の決定を冷ややかに見る原発事故避難者も。飯舘村から福島市に避難する会社員男性(39)は「一企業の幹部の責任を追及するだけで、果たして国の原発政策が変わるのだろうか」と首をかしげた。
 
 企業幹部らの責任を追及した強制起訴をめぐっては、JR西日本の歴代3社長が対象になった尼崎JR脱線事故など、無罪の結論が導かれるケースが多い。
 佐藤副団長は検察役の指定弁護士の負担の大きさを指摘し、「弁護士をバックアップする体制を整え、支援したい」と力を込めた。


東電元幹部強制起訴へ 市民の力 扉開いた
東京新聞 2015年8月1日
 閉じかけていた司法の扉を、市民が開いた。未曽有の被害をもたらした東京電力福島第一原発事故から四年四カ月。三十一日に検察審査会が公表した議決に基づき、東電の歴代経営陣三人が強制起訴され、刑事責任を追及する裁判が開かれることが決まった。福島県内をはじめ各地では今もなお、十一万人が避難生活を続ける。この日を待ち望んだ人々は喜びの声を上げ、法廷で事故の真相が語られることを期待する。(加藤益丈、中山岳、大野孝志)
 
 「絶対に起こしてはいけない事故を起こしたのに、誰も責任を問われないのはおかしい。起訴議決は市民の良識の表れだ」
 原発事故で福島県南相馬市の自宅を追われ、神奈川県愛川町で避難生活を続ける山田俊子さん(74)は、この日の起訴議決を、たまたま用事で戻っていた自宅のテレビで知った。
 自然に囲まれた生活を送りたいと二〇〇七年四月、東京都町田市から、夫(66)の故郷である福島に移住した。鍼灸(しんきゅう)の仕事を始めた夫を手伝い、キュウリやトマト、アスパラガスなどの家庭菜園に精を出した。近くの山でくんだ水でそばを打ったり、コーヒーをいれたり。毎日が充実していた。
 そんな生活は、一一年三月の福島第一原発事故で一変した。原発から二十四キロにあった自宅は「緊急時避難準備区域」というおどろおどろしい名前の場所に指定され、町田市に近い愛川町に逃れた。
 半年後に同区域は解除され法的には帰れるようになったが、周辺の放射線量は高いままだ。自宅に戻ることで「将来ある子どもの帰還を後押しするような既成事実にされたくない」と、避難生活を続けることに決め、反原発のデモや集会に足を運び、福島原発告訴団に加わった。
 
 東電の旧経営陣三人は強制起訴され、事故の原因や責任の所在が初めて、司法の場で検証される。「責任追及をしてこなかったことが、ズルズルと原発再稼働に向かう原因になっている。無責任は許されないことを示す裁判にしてほしい」。自らも裁判を見届けるつもりだ。
 同様に各地で避難生活を強いられている福島の人たちからも、旧経営陣らの責任が明らかになることへの期待が聞かれた。
 「どれだけの人が避難中に亡くなり、自殺し、苦しい思いをしたか。元幹部たちに法廷で理解させ、裁いてほしい」。福島県大熊町から会津若松市の仮設住宅に避難している木幡(こわた)ますみさん(59)は被災者たちの思いを代弁し、「起訴の議決は当然」ときっぱり語った。「そして原発の危険を、再稼働を狙う人たちに気付かせてほしい」
 
 体が不自由な長男(37)を連れて同県富岡町からいわき市に避難中の坂本正一郎さん(67)は「東電は『想定外』で逃れようとしているが、対策を怠った責任を認めるべきだ」と話す。「法廷で謝罪し、避難した全員を救済すると明言してほしい」と望むが、事故から四年以上が過ぎてからの起訴議決には、「司法の動きが遅い」とも。
 同じくいわき市に避難している横山正さん(75)は「東電の元幹部たちは原発の危険に目をつぶっていた」と考えている。仮設住宅を出られる見通しはなく、「なぜ、私の家や土地を奪われなければならなかったのか。裁判で明らかにしてほしい」と訴えた。